神様自学

天ノ谷 霙

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はらぺこstudy 明

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ぼくは現在中学3年生。そして3月。そう、ぼくは現在進行形で受験をしている。
それ、なのに…。
お腹、空いた…。
時刻は9時半。朝は結構食べてきたつもりなのに。ちなみに朝食べたのは苺ジャムをたっぷりつけた食パン3枚にスクランブルエッグ。トマトとレタスにドレッシングをかけたサラダにとろっとろのチーズをかけた。それに昨日の夕飯の残りのハンバーグを2個。美味しくてたくさん食べてしまった。
ぼくは元より大食いらしく、よく皆がぼくに食べ物を与える。でも今日は受験日。皆が食べ物を持っているはずもなく、ぼくはお腹を空かせて倒れそうだ。
2教科が終わり、休み時間。ピリピリしている中で、ぼくは少しでも口に何かを入れようと校舎内を彷徨う。ふと、一階の奥の方に平均身長より少し小さめの男の子がいた。渡り廊下であぐらをかいて座っている。ふとぼくに気付いた。
「あれ?どうしたんすか?」
花のような笑顔で、ぼくに話しかけてくれた。ぼくはもう限界で、ドキッとする間もなく声を発していた。
「お腹が…空きすぎて…」
お腹をさすりながら言った。すると、大きな目をぱちくりと瞬きして、笑う。
「何分で食べられる?」
「もう…5分くらいで行ける気がする…」
「そっか!じゃあこれあげますよー」
「え…」
かさり、とビニール袋が鳴る音がした。取り出されたのはメロンパン。
「はい、どーぞ。俺はあんまお腹空かないんで、食べちゃってください」
「あ、ありがとうっ!!」
すぐに袋を開けて頬張る。バターのふわりとした甘みで、幸せが溢れる。もふもふっとした生地がしつこくなく丁度良い。
「美味しいっ…ん…」
もぐもぐとメロンパンを食べ進める。2分程で食べ終わった。お腹も大丈夫になった。
「ごちそうさま」
つぶやくと、隣でぼくを見ていた男の子は、また微笑んだ。
「美味しそうに食べますね。こっちまで幸せになりますよ」
にいっと歯を見せて笑う。それがすごく可愛くて思わずつられてしまった。
「うん、すごく幸せ。食べるのって本当に楽しい」
「そうっすか!そろそろ時間っすね。行きましょうか!まだゼリーとかあるので、食べたいなら次の休み時間もここに来てください」
立ち上がって、陽光に照らされた顔にドキッとした。
「ありがとう。今度お礼するね。えっと、ぼくは水奈月明。あなたは?」
「俺は鹿宮かみやおうです。頑張りましょうね」
ぼくは差し出された手を取り、立ち上がる。鹿宮くんは合格が出来る、そう思った。何故かはわからないが、こんな優しくて良い人が落ちるわけがないと思った。
「うん!ありがとう」
いつもはあまり話さないぼくも、自然と声が出る。言葉を発することができる。
嬉しい。この人と出会えて。
ぼくは残りの試験を落ち着いて取り組むことができた。もう一回だけゼリーを貰った。
その味は、果物の良さが存分に活かされていた。でも何故か、渡された時は冷たかったのに、すぐ食べたはずなのに、ぬるかった。
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