神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
365 / 812

12月9日 涙の理由

しおりを挟む
私が涙をこぼすのを見て、慌てる利羽と紗奈。私はそれに気付いていながらも「大丈夫だよ」と言える状況では無かった。泣きたいわけじゃない。どうして涙が溢れるのか分からない。けれども、どうしても涙を止めることが出来なかった。拭う元気もなく、流れるままの涙を頬で感じている。悲しいわけじゃない。苦しいわけじゃない。風邪で弱っているのかもしれない。何だかふわふわした気分になって、泣いてしまう。
「…っう、ひっ…ぅ…」
何とか喋ろうとして、言葉にならないままの声が口から漏れ出る。利羽と紗奈は困惑している様子だったが、利羽は撫でるのを再開した。
「よしよし…大丈夫だよ…?」
合ってるのか分からないままに、利羽はそう言う。でも多分それは正解で不正解。涙は更に溢れてきて、でも私の心の中はぽかぽかと温かくなっていた。利羽は戸惑って手を離そうとするが、私はやっとのことで動かした手で利羽の手を掴んだ。
「…や、だ…」
甘えたような声が出る。人から離れるのが嫌で、怖い。魘されていた夢の内容が思い出せないのに、また悪夢を見るんじゃないかという漠然とした不安が私を襲っていた。不安の中で唯一信じられるのが2人なのだと思ってしまうくらい、私は不安に駆られていた。利羽の水色の瞳、紗奈の紅葉色の瞳。その2つの双眸が自分に向いていることに気付いてやっと安心出来る。どうして自分でそんなことになっているのか分からないが、考える余裕は無かった。
2人は顔を見合わせて、優しく微笑む。そして私の頭に手を乗せて、撫で始めた。
「よしよし…」
「わしゃわしゃ…」
その時気付いたのは、私が無意識下で"恋使"の力を使っていることだった。泣いてしまうのは2人の優しさが心から伝わってくるからであると、その時知ったのだ。気付かぬ内に、2人の優しさを心で受け取っていた。心の中で本気で心配してくれている2人の温かい心に、私は泣いてしまったのだ。ここまで感受性豊かだったかな、と思いながら私は笑う。泣きながら笑う。すると利羽と紗奈も笑って、また撫でてくれる。人に頭を撫でられるなんてこの歳になると滅多にない。子供に戻ったかのようなくすぐったい気持ちと安心感で、私は満たされていた。それに対する答えは、幸せ、の一言だけだった。そう、私は今幸せ。だから私は考えなくてはならない。これから先の"恋使"としての活動と、北原くんへの答え、そして爽との仲直りの方法を。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

バッサリ〜由紀子の決意

S.H.L
青春
バレー部に入部した由紀子が自慢のロングヘアをバッサリ刈り上げる物語

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

処理中です...