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12月9日 涙の理由
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私が涙を溢すのを見て、慌てる利羽と紗奈。私はそれに気付いていながらも「大丈夫だよ」と言える状況では無かった。泣きたいわけじゃない。どうして涙が溢れるのか分からない。けれども、どうしても涙を止めることが出来なかった。拭う元気もなく、流れるままの涙を頬で感じている。悲しいわけじゃない。苦しいわけじゃない。風邪で弱っているのかもしれない。何だかふわふわした気分になって、泣いてしまう。
「…っう、ひっ…ぅ…」
何とか喋ろうとして、言葉にならないままの声が口から漏れ出る。利羽と紗奈は困惑している様子だったが、利羽は撫でるのを再開した。
「よしよし…大丈夫だよ…?」
合ってるのか分からないままに、利羽はそう言う。でも多分それは正解で不正解。涙は更に溢れてきて、でも私の心の中はぽかぽかと温かくなっていた。利羽は戸惑って手を離そうとするが、私はやっとのことで動かした手で利羽の手を掴んだ。
「…や、だ…」
甘えたような声が出る。人から離れるのが嫌で、怖い。魘されていた夢の内容が思い出せないのに、また悪夢を見るんじゃないかという漠然とした不安が私を襲っていた。不安の中で唯一信じられるのが2人なのだと思ってしまうくらい、私は不安に駆られていた。利羽の水色の瞳、紗奈の紅葉色の瞳。その2つの双眸が自分に向いていることに気付いてやっと安心出来る。どうして自分でそんなことになっているのか分からないが、考える余裕は無かった。
2人は顔を見合わせて、優しく微笑む。そして私の頭に手を乗せて、撫で始めた。
「よしよし…」
「わしゃわしゃ…」
その時気付いたのは、私が無意識下で"恋使"の力を使っていることだった。泣いてしまうのは2人の優しさが心から伝わってくるからであると、その時知ったのだ。気付かぬ内に、2人の優しさを心で受け取っていた。心の中で本気で心配してくれている2人の温かい心に、私は泣いてしまったのだ。ここまで感受性豊かだったかな、と思いながら私は笑う。泣きながら笑う。すると利羽と紗奈も笑って、また撫でてくれる。人に頭を撫でられるなんてこの歳になると滅多にない。子供に戻ったかのようなくすぐったい気持ちと安心感で、私は満たされていた。それに対する答えは、幸せ、の一言だけだった。そう、私は今幸せ。だから私は考えなくてはならない。これから先の"恋使"としての活動と、北原くんへの答え、そして爽との仲直りの方法を。
「…っう、ひっ…ぅ…」
何とか喋ろうとして、言葉にならないままの声が口から漏れ出る。利羽と紗奈は困惑している様子だったが、利羽は撫でるのを再開した。
「よしよし…大丈夫だよ…?」
合ってるのか分からないままに、利羽はそう言う。でも多分それは正解で不正解。涙は更に溢れてきて、でも私の心の中はぽかぽかと温かくなっていた。利羽は戸惑って手を離そうとするが、私はやっとのことで動かした手で利羽の手を掴んだ。
「…や、だ…」
甘えたような声が出る。人から離れるのが嫌で、怖い。魘されていた夢の内容が思い出せないのに、また悪夢を見るんじゃないかという漠然とした不安が私を襲っていた。不安の中で唯一信じられるのが2人なのだと思ってしまうくらい、私は不安に駆られていた。利羽の水色の瞳、紗奈の紅葉色の瞳。その2つの双眸が自分に向いていることに気付いてやっと安心出来る。どうして自分でそんなことになっているのか分からないが、考える余裕は無かった。
2人は顔を見合わせて、優しく微笑む。そして私の頭に手を乗せて、撫で始めた。
「よしよし…」
「わしゃわしゃ…」
その時気付いたのは、私が無意識下で"恋使"の力を使っていることだった。泣いてしまうのは2人の優しさが心から伝わってくるからであると、その時知ったのだ。気付かぬ内に、2人の優しさを心で受け取っていた。心の中で本気で心配してくれている2人の温かい心に、私は泣いてしまったのだ。ここまで感受性豊かだったかな、と思いながら私は笑う。泣きながら笑う。すると利羽と紗奈も笑って、また撫でてくれる。人に頭を撫でられるなんてこの歳になると滅多にない。子供に戻ったかのようなくすぐったい気持ちと安心感で、私は満たされていた。それに対する答えは、幸せ、の一言だけだった。そう、私は今幸せ。だから私は考えなくてはならない。これから先の"恋使"としての活動と、北原くんへの答え、そして爽との仲直りの方法を。
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