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想いと清算 爽
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たった今、アタシは凡ミスをしてしまった。包帯が軽く解けて、血が流れて来たのだ。見つかっては、まずい。誰かに知られてもまずい。でも、どうすればこの場を回避出来る?
「爽ちゃん…?」
背後から、震えた声が聞こえた。
私の足から溢れる血に、誰かが気付いたのだ。
それも…亜美が。
「亜、美…」
「…っ先生!夏川さんの具合が悪いそうなので保健室へ連れて行きますね」
「そうか、わかった」
一体、亜美は何をしているのだろう。アタシを保健室へ連れて行って。
先生は、今日はいないのでは無かったか?そんな話をHRで聞いた気がする。ぼんやりと考えていた頭は、思考を放棄した。
「爽ちゃん、この傷どうしたの?」
「…っ」
亜美は気付いていた。アタシがわざとやったものだと。身体が硬直したように動かない。口元の空気が震えることは無かった。
亜美は私の足の包帯を黙って巻き直していた。
怖い。
亜美に心配させてしまうのが怖い。
「そ、れは…木に引っかかって…」
「本当?」
「…」
嘘だ。何も言えない。言葉が脳裏をよぎらない。
アタシは、一体何をしているのだろう。
ふいに目が熱くなった。頬を雫が伝い、嗚咽が漏れる。
「…亜美っ…」
ふわりと、アタシは亜美に抱き締められた。優しく、包み込むように。泣きじゃくる私を、母親のように慰めてくれた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
あれからアタシは、あの男の事も、好きな人の事も気にしなくなった。毛先だけが真っ白な髪の毛も、今は特別だって気に入っている。
亜美がいれば、良い。光だって、きっと気付いてくれる。そう思う事にした。
「そこの彼女♪」
亜美との待ち合わせの前、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「俺と一緒に遊ばない?」
アタシの記憶は正しかった。やはりトラウマを植え付けた、あの最低男だった。
「…急いでいるのですが」
「まぁそう言わずにさ、君みたいにクールで可愛い女の子、大好き」
虫酸が走る。誰が大好きだ?自分でトラウマを植え付けた女に向かって何言ってるんだ此奴。
「俺さー、さっき昔好きだった女の子に会ったんだよね~。運命かと思ったよ。そしたらその女の子、いきなり怒りだして、視界から消えて下さい、だって~マジ意味不」
亜美は知ってる。アタシのトラウマの事全部話したから。
庇ってくれたんだ…。
「その女の子の名前は、桐竜ですね」
「え?」
女の子の名前を知っている事に動揺した。しかし、調子を変えずに汚らわしい口から言葉を吐き出した。
「そうだよ?あの子昔はもっと可愛かったのにな~。今は何?女王様みたいな?あんな子なら君の方が全然良い~」
ぱぁんっ
刹那、快い音がした。
男が倒れこんで、頬を押さえている。
「っ…テッメェ…!!」
掴みかかろうとしてきたた男の手を払って腹部を踏む。胸倉を掴んで、思いっきり笑ってあげた。
相手が最も恐怖を感じるように。
「亜美じゃなかったの?」
ビクッと男は震えた。かたかたと唇を震わせてアタシから目をそらせなくなっていた。
「人にトラウマ植え付けといて大好きだ?虫酸が走るんだよガキ。アタシの事覚えて無いでしょ?小4の時の」
男は覚えていなかった。好都合、同じ言葉を使ってやろう。
「ごめん、気持ち悪い。ヘラヘラ笑ってナンパの真似事?吐き気がする」
茹でダコのように真っ赤になって抵抗するから、もう一度強く踏みなおした。
時計を確認すると、約束の時間まで後少しだった。
アタシは、笑った。
「反省したって、一生許さないから」
もう一度思いっきりひっぱたいてアタシは亜美の元へ向かった。
亜美のおかげで、アタシも成長出来た。
まぁ、亜美には言えないけどね。
「爽ちゃん…?」
背後から、震えた声が聞こえた。
私の足から溢れる血に、誰かが気付いたのだ。
それも…亜美が。
「亜、美…」
「…っ先生!夏川さんの具合が悪いそうなので保健室へ連れて行きますね」
「そうか、わかった」
一体、亜美は何をしているのだろう。アタシを保健室へ連れて行って。
先生は、今日はいないのでは無かったか?そんな話をHRで聞いた気がする。ぼんやりと考えていた頭は、思考を放棄した。
「爽ちゃん、この傷どうしたの?」
「…っ」
亜美は気付いていた。アタシがわざとやったものだと。身体が硬直したように動かない。口元の空気が震えることは無かった。
亜美は私の足の包帯を黙って巻き直していた。
怖い。
亜美に心配させてしまうのが怖い。
「そ、れは…木に引っかかって…」
「本当?」
「…」
嘘だ。何も言えない。言葉が脳裏をよぎらない。
アタシは、一体何をしているのだろう。
ふいに目が熱くなった。頬を雫が伝い、嗚咽が漏れる。
「…亜美っ…」
ふわりと、アタシは亜美に抱き締められた。優しく、包み込むように。泣きじゃくる私を、母親のように慰めてくれた。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
あれからアタシは、あの男の事も、好きな人の事も気にしなくなった。毛先だけが真っ白な髪の毛も、今は特別だって気に入っている。
亜美がいれば、良い。光だって、きっと気付いてくれる。そう思う事にした。
「そこの彼女♪」
亜美との待ち合わせの前、聞き覚えのある声に呼び止められた。
「俺と一緒に遊ばない?」
アタシの記憶は正しかった。やはりトラウマを植え付けた、あの最低男だった。
「…急いでいるのですが」
「まぁそう言わずにさ、君みたいにクールで可愛い女の子、大好き」
虫酸が走る。誰が大好きだ?自分でトラウマを植え付けた女に向かって何言ってるんだ此奴。
「俺さー、さっき昔好きだった女の子に会ったんだよね~。運命かと思ったよ。そしたらその女の子、いきなり怒りだして、視界から消えて下さい、だって~マジ意味不」
亜美は知ってる。アタシのトラウマの事全部話したから。
庇ってくれたんだ…。
「その女の子の名前は、桐竜ですね」
「え?」
女の子の名前を知っている事に動揺した。しかし、調子を変えずに汚らわしい口から言葉を吐き出した。
「そうだよ?あの子昔はもっと可愛かったのにな~。今は何?女王様みたいな?あんな子なら君の方が全然良い~」
ぱぁんっ
刹那、快い音がした。
男が倒れこんで、頬を押さえている。
「っ…テッメェ…!!」
掴みかかろうとしてきたた男の手を払って腹部を踏む。胸倉を掴んで、思いっきり笑ってあげた。
相手が最も恐怖を感じるように。
「亜美じゃなかったの?」
ビクッと男は震えた。かたかたと唇を震わせてアタシから目をそらせなくなっていた。
「人にトラウマ植え付けといて大好きだ?虫酸が走るんだよガキ。アタシの事覚えて無いでしょ?小4の時の」
男は覚えていなかった。好都合、同じ言葉を使ってやろう。
「ごめん、気持ち悪い。ヘラヘラ笑ってナンパの真似事?吐き気がする」
茹でダコのように真っ赤になって抵抗するから、もう一度強く踏みなおした。
時計を確認すると、約束の時間まで後少しだった。
アタシは、笑った。
「反省したって、一生許さないから」
もう一度思いっきりひっぱたいてアタシは亜美の元へ向かった。
亜美のおかげで、アタシも成長出来た。
まぁ、亜美には言えないけどね。
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