神様自学

天ノ谷 霙

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12月7日 言葉に詰まる

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菜古ちゃんの恋心に、私はどうすれば良いか分からず立ち止まっていた。何とかしようと目を見開いても、どうすべきか分からずにまた閉じてしまう。神の力を使って、干渉して、それでまたあの神様に取り込まれたら。一度やった逃走経路は塞がれるだろう。けれど他に干渉を解除する方法を知らない。対策を打たれたら、私にはもう動くことは叶わない。恋使として食われるだけだ。
…食人する神様なんて聞いたことないよ。
心の中でひとりごちる。他の人に知られてはいけない悩み。知らせたところで、信じてもらえるかどうか分からないけど。解決策の見つからない問いに、私はため息をつきたくなる。
何も言わない私に、不安そうに首を傾げる菜古ちゃん。私は慌てて、それでも何と言おうか迷って、恋心を知らないまま、今までどうやって友達の恋を応援して来たのか思い出せなくなっていた。
「…優しいね、五十嵐くん」
その言葉は、無意識だった。私は早く何か喋らなきゃ、と思ってはいたが頭が回らず、言葉なんて上手くまとまっていなかった。けれどその言葉が、菜古ちゃんを見たらするりと出て来たのだ。
「私、五十嵐くんが誰を好きかは知らない。今現在恋をしているのかも、私には分からない。けど、菜古ちゃんの"好き"って気持ちを踏み躙るような人ではない。それだけは、知ってる」
明るくて、話し上手で、面白い。五十嵐くんはそんな人だと思っている。亜美を好きなことを隠して、友人の恋を応援出来る人なんだと思う。五十嵐くんは潮賀くんと仲が良かったはずだ。
「…私も、そう思います。五十嵐先輩は、優しいんです。優しすぎて、ずるいんです」
菜古ちゃんは困ったように笑った。私はそっと菜古ちゃんの頭を撫でて、時間を確認する。そろそろ戻らないとお昼ご飯を食べ損ねてしまう。
「あんまり参考にならない相談相手でごめんね。また困ったことがあったら、聞くことは出来るから」
「いえっ、こちらこそ急にすみませんでした…!ありがとうございます」
私達は教室を出て、菜古ちゃんの教室がある階の階段で別れた。教室に戻ると利羽がじぃっと目を吊り上げて私を見て来たので、両手を小さく上げて無罪を主張した。今にも飛びかかって来そうな心配性の利羽を紗奈が宥め、由芽が苦笑いをしながら言う。
「おかえり。あと少しで利羽が探しに行くところだったよ」
「それはありがたいような申し訳ないような」
「なら心配かけないように気を付けなよ。紗奈が疲弊してるよ」
「りぃちゃん…も…ストップ…」
ぜーはーと息を切らしながら、紗奈が無理やり利羽を押さえていた。私はその様子に慄きながら、苦笑いをした。
五十嵐くんと、話をしに行こうか考えながら。
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