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12月4日 表情
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向き合うと言っても、どうするべきなのだろうか。紗奈と共に教室に入ると、窓際にふいに目がいってしまった。そこに座っているのは北原くんで、その目の前には五十嵐くんが楽しそうに喋っていた。北原くんはほとんど表情筋を動かさず、肩肘ついてぼんやりと聞いているようだった。聞いていなくても構わないのか気付いていないのか、五十嵐くんは身振り手振りを付けてオーバーに話している。人が少ないおかげで聞こえる声は、なかなかに早口だった。五十嵐くんが少し考えるような動作をした時、北原くんがチラッと教室全体を見回した。私と目が合った瞬間、表情を崩すようにふにゃっと笑った。驚きに、心臓がどくんっと鳴る。脈が早いのが遅いのか分からない。北原くんは肘をついていない方の手を小さく振った。明らかに目が合っているのは私なので、対象は私と見て間違いないだろう。私は手を振り返そうか戸惑って、つい目を逸らしてしまった。慌てて視線を元に戻すと、少し寂しそうな表情を浮かべてたので、つい小さく手を振り返す。その瞬間にまた微笑んで、五十嵐くんに視線を戻した。
「…なんなの…」
私の小さく呟いた声は、五十嵐くんの「あれ?光、ご機嫌な感じ?」という大きめの声に掻き消された。
授業に集中なんで出来るはずもなく。今更ながら事の重大さというか何というかを実感している気がする。同じクラスだから顔を見かけることはあるだろう。修学旅行前に席替えしたため、私の席は窓際の後ろから2番目である。4人前には北原くんがいる。授業中に視界に入るし、見ないように意識すると考えてしまう。難しい。けれど、それだけならまだ自分の問題だからとどうにか出来たのだが。
北原くんは休み時間の度に、私が席にいるのを見ると一言二言、言葉を交わしに来る。その度に少し頬を緩めるので、珍しい表情をしていると教室がざわついた。しかもその表情を向ける相手が私だけなのだから、分かりやすい。いや、分かりやすすぎる。交わす言葉の中には私を褒めるようなものも多く存在して、教室の居心地が悪かった。ふと周りを見ると、休み時間の度にいなくなっている女子の存在に気付く。多分、酸欠で苦しいのだろう。寒さの為に締め切られた窓や、暖房を逃さぬように開けたらすぐ閉めるの張り紙が貼られたドアからは、ほとんど酸素は入ってこないだろうから。私は昼休みに北原くんから話しかけられる前に、教室を出て彼女がいそうな場所を探した。
「…なんなの…」
私の小さく呟いた声は、五十嵐くんの「あれ?光、ご機嫌な感じ?」という大きめの声に掻き消された。
授業に集中なんで出来るはずもなく。今更ながら事の重大さというか何というかを実感している気がする。同じクラスだから顔を見かけることはあるだろう。修学旅行前に席替えしたため、私の席は窓際の後ろから2番目である。4人前には北原くんがいる。授業中に視界に入るし、見ないように意識すると考えてしまう。難しい。けれど、それだけならまだ自分の問題だからとどうにか出来たのだが。
北原くんは休み時間の度に、私が席にいるのを見ると一言二言、言葉を交わしに来る。その度に少し頬を緩めるので、珍しい表情をしていると教室がざわついた。しかもその表情を向ける相手が私だけなのだから、分かりやすい。いや、分かりやすすぎる。交わす言葉の中には私を褒めるようなものも多く存在して、教室の居心地が悪かった。ふと周りを見ると、休み時間の度にいなくなっている女子の存在に気付く。多分、酸欠で苦しいのだろう。寒さの為に締め切られた窓や、暖房を逃さぬように開けたらすぐ閉めるの張り紙が貼られたドアからは、ほとんど酸素は入ってこないだろうから。私は昼休みに北原くんから話しかけられる前に、教室を出て彼女がいそうな場所を探した。
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