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12月3日 後悔、一歩、前へ
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稲荷様をまっすぐ見つめて、少し考えてから話し出す。恋心を介して繋がってるため、思考は読まれているのだろうが、構わない。人間の複雑な心情を少しでも分かりやすく伝えられれば良い。それで、自身の心にも整理がつけられれば良い。
「…私は、羅樹が好きです。それは昔からずっと変わらない。いつも側にいてくれて、いつも私に笑いかけてくれる。私が勝手な態度を取っても、悲しそうな顔をするだけで文句すら言わない。言わせなかったのが申し訳なかった」
本人には届かない、私の懺悔。でもその後の羅樹は、怒らずにまた昔の距離に戻ってくれた。その優しさに甘えていた。甘え過ぎていた。私の身勝手で羅樹を振り回すのは、もう最後にしなくちゃいけない。幼馴染という立場に甘えて、恐れて、この距離を保ち続けちゃいけない。一歩を、超えないといけないんだ。
「私が羅樹について悩んでいるときに、助けてくれたのが北原くんだったんです。笑顔にさせてくれる、って。心強かった。何も考えてなかった。北原くんを傷付けていたかもしれない、なんて」
好きな人が別の人を想って泣いていたら、傷付くだろう。自分の入る隙なんて無いのかな、なんて思って、身を引くことを考える。それでもふとした仕草とか言葉に惚れ直して、逃げられなくなるんだ。羅樹のことを好きな人がいると知ったときに、似たようなことを経験した。それで自覚したんだ。私は"羅樹が好き"だって。
「自分の恋すらもう分からないのに、人の恋心を伝える"恋使"をやってるなんて…変ですよね。私、もう何が何か…」
私は無意識に下を向いた。頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉を続けることが難しくなってきた。ぐるぐると言葉が頭の中を巡るのに、どれも唇から溢ことはなかった。
その時、私をふわりと包む、不確かな温度を感じた。
「…え…?」
驚いて顔を上げると、稲荷様が私を抱きしめていた。神様に触れるなんて初めての経験で、人よりも低いけれど、温かいぬくもりがそこにはあった。人を慈しむように、包み込む神様の優しさ。私は瞳から涙をこぼして、ぎゅっと稲荷様の裾を掴んだ。
「わたしだって分からぬ。何も理解してやれなかったんだ。姉神様のことも、伏見のことも」
静かに呟いた稲荷様の声には、後悔が混じっていて。稲荷様も進めないんだ、と気付く。痛い。稲荷様の心が、苦しい。そんな音がする。久しぶりに聞いた音。恋使となってからは言葉として伝わってきていたのに、私の耳に響くのは音だけだった。
「…稲荷様」
私も、そっと稲荷様を抱きしめ返した。
「…私は、羅樹が好きです。それは昔からずっと変わらない。いつも側にいてくれて、いつも私に笑いかけてくれる。私が勝手な態度を取っても、悲しそうな顔をするだけで文句すら言わない。言わせなかったのが申し訳なかった」
本人には届かない、私の懺悔。でもその後の羅樹は、怒らずにまた昔の距離に戻ってくれた。その優しさに甘えていた。甘え過ぎていた。私の身勝手で羅樹を振り回すのは、もう最後にしなくちゃいけない。幼馴染という立場に甘えて、恐れて、この距離を保ち続けちゃいけない。一歩を、超えないといけないんだ。
「私が羅樹について悩んでいるときに、助けてくれたのが北原くんだったんです。笑顔にさせてくれる、って。心強かった。何も考えてなかった。北原くんを傷付けていたかもしれない、なんて」
好きな人が別の人を想って泣いていたら、傷付くだろう。自分の入る隙なんて無いのかな、なんて思って、身を引くことを考える。それでもふとした仕草とか言葉に惚れ直して、逃げられなくなるんだ。羅樹のことを好きな人がいると知ったときに、似たようなことを経験した。それで自覚したんだ。私は"羅樹が好き"だって。
「自分の恋すらもう分からないのに、人の恋心を伝える"恋使"をやってるなんて…変ですよね。私、もう何が何か…」
私は無意識に下を向いた。頭の中がぐちゃぐちゃになって、言葉を続けることが難しくなってきた。ぐるぐると言葉が頭の中を巡るのに、どれも唇から溢ことはなかった。
その時、私をふわりと包む、不確かな温度を感じた。
「…え…?」
驚いて顔を上げると、稲荷様が私を抱きしめていた。神様に触れるなんて初めての経験で、人よりも低いけれど、温かいぬくもりがそこにはあった。人を慈しむように、包み込む神様の優しさ。私は瞳から涙をこぼして、ぎゅっと稲荷様の裾を掴んだ。
「わたしだって分からぬ。何も理解してやれなかったんだ。姉神様のことも、伏見のことも」
静かに呟いた稲荷様の声には、後悔が混じっていて。稲荷様も進めないんだ、と気付く。痛い。稲荷様の心が、苦しい。そんな音がする。久しぶりに聞いた音。恋使となってからは言葉として伝わってきていたのに、私の耳に響くのは音だけだった。
「…稲荷様」
私も、そっと稲荷様を抱きしめ返した。
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