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修学旅行4 交換
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羅樹が驚いた顔で私のことを見たのに、私は何故か冷静だった。自分が呟いた言葉に驚いていなかったわけではないが、不思議と冷静になれた。だから私は、そのまま言葉を続けた。
「たまには、自分のために何か買っても良いんじゃない?お父さんだって、仕事も収入も安定してきたんでしょ?修学旅行くらい、最終日くらい、何か好きなもの買ったら?」
まっすぐ羅樹の瞳を見つめる。自分じゃないみたいな感覚。今なら分かる気がする。今は私じゃない。私1人の感覚じゃない。昨日ホテルで感じた、初代"恋使"である伏見さんの感覚。私と混ざり合って、1つの人格を形成している。私と伏見さんとは違う人格。この世のもの以外が混ざった自分。それが不思議と、怖くなかった。
「…でも、駄目だよ。お父さんは我慢しているのに、僕だけなんて」
「じゃあ、こうしよう。私が羅樹にTシャツを買う。羅樹は私にTシャツを買って?」
「え、で、でも…」
「羅樹が買ってくれないと私もTシャツ買えないんだけど。ほらほら、班員も待ってるわけだし、早く!」
「う、うん…?」
本当は買う予定なんてなかったのだが、説明すれば親も納得してくれるだろう。羅樹にどれが好きかを聞きながら、Tシャツを選ぶ。携帯が通知に震え、手に取ると由芽からだった。
[割とこの辺見るものがあるから、ゆっくりどうぞ~]
思わず笑ってしまう。気を使ってくれているのが私に伝わらないように工夫されたメッセージ。由芽は本当に人のことばかり見ている。人のことばかり優先して、助けてくれて、自分のことは後回し。少し羅樹に似ている気もする。なんて思いながら、羅樹のTシャツを決めた。私が会計を済ませると、後ろから羅樹も会計を終えて店を出てきた。
「それじゃ、交換ね」
中身の見えない袋を交換して、私はその場を立ち去る。途中羅樹に呼び止められて振り向くと、はにかむような笑顔で「ありがとう」と言った。私は手を振って「こちらこそ」と返した。
近くにいるらしい班員を探すため、外に出て由芽にメッセージを返した。由芽からすぐに返信が来そうな気配は無かったので、少しその辺を歩く。すぐに聞き覚えのある大きな声が耳に届いた。
「そんな食べてばっかりで大丈夫かよ」
「大丈夫だよ!そういうお前だって食べてるだろ」
「これは美味しいのが悪い…」
竜夜くんと霙の声だ。私が駆け寄ると、店頭販売をしている店員さんと話をしているのが聞こえた。
「仲良いねぇお二人さん。修学旅行中かい?」
「あ、はい。そうです」
「そっかぁ~、いいねぇカップルで回れるなんて」
「「カップルじゃないです!!!」」
2人の息ぴったりな否定の言葉に、店員さんはびっくりして目を丸くした。けれど何を誤解したのか、察したように笑った。目が「そういうことにしておくよ」と語っていた。
これ、紗奈と雪くんが見たら危ないのでは。
なんて思わないでもなかった。
「たまには、自分のために何か買っても良いんじゃない?お父さんだって、仕事も収入も安定してきたんでしょ?修学旅行くらい、最終日くらい、何か好きなもの買ったら?」
まっすぐ羅樹の瞳を見つめる。自分じゃないみたいな感覚。今なら分かる気がする。今は私じゃない。私1人の感覚じゃない。昨日ホテルで感じた、初代"恋使"である伏見さんの感覚。私と混ざり合って、1つの人格を形成している。私と伏見さんとは違う人格。この世のもの以外が混ざった自分。それが不思議と、怖くなかった。
「…でも、駄目だよ。お父さんは我慢しているのに、僕だけなんて」
「じゃあ、こうしよう。私が羅樹にTシャツを買う。羅樹は私にTシャツを買って?」
「え、で、でも…」
「羅樹が買ってくれないと私もTシャツ買えないんだけど。ほらほら、班員も待ってるわけだし、早く!」
「う、うん…?」
本当は買う予定なんてなかったのだが、説明すれば親も納得してくれるだろう。羅樹にどれが好きかを聞きながら、Tシャツを選ぶ。携帯が通知に震え、手に取ると由芽からだった。
[割とこの辺見るものがあるから、ゆっくりどうぞ~]
思わず笑ってしまう。気を使ってくれているのが私に伝わらないように工夫されたメッセージ。由芽は本当に人のことばかり見ている。人のことばかり優先して、助けてくれて、自分のことは後回し。少し羅樹に似ている気もする。なんて思いながら、羅樹のTシャツを決めた。私が会計を済ませると、後ろから羅樹も会計を終えて店を出てきた。
「それじゃ、交換ね」
中身の見えない袋を交換して、私はその場を立ち去る。途中羅樹に呼び止められて振り向くと、はにかむような笑顔で「ありがとう」と言った。私は手を振って「こちらこそ」と返した。
近くにいるらしい班員を探すため、外に出て由芽にメッセージを返した。由芽からすぐに返信が来そうな気配は無かったので、少しその辺を歩く。すぐに聞き覚えのある大きな声が耳に届いた。
「そんな食べてばっかりで大丈夫かよ」
「大丈夫だよ!そういうお前だって食べてるだろ」
「これは美味しいのが悪い…」
竜夜くんと霙の声だ。私が駆け寄ると、店頭販売をしている店員さんと話をしているのが聞こえた。
「仲良いねぇお二人さん。修学旅行中かい?」
「あ、はい。そうです」
「そっかぁ~、いいねぇカップルで回れるなんて」
「「カップルじゃないです!!!」」
2人の息ぴったりな否定の言葉に、店員さんはびっくりして目を丸くした。けれど何を誤解したのか、察したように笑った。目が「そういうことにしておくよ」と語っていた。
これ、紗奈と雪くんが見たら危ないのでは。
なんて思わないでもなかった。
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