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修学旅行2 起床
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カラン、カランと鐘の音を模した目覚まし代わりの携帯の音が耳元で鳴り響く。うっすらと目を開けると、見覚えのない景色。ぼんやりとした頭を覚醒に向かわせる為に、ゆっくりと体を起こす。体を起こしてしまえば、ある程度目は覚めるという経験からの行動だった。手元で未だ鳴り響いている携帯を起動させ、音を止める。同時に画面には「6:00」と表示される。
周りを見回し、修学旅行中であることに気付く。隣のベッドで布団に潜り込んでいるのは由芽のようだ。そういえば、夏の旅行でも朝は機嫌が悪いとか話したな、と思い出す。由芽を起こすのは後にしようと思い、昨日の夜「朝起こして下さい!」と念入りにお願いされた方のベッドに目をやる。
しかし、そこには誰もいなかった。少しだけ乱れを直したような状態で、人の気配はない。布団の中に人が入っている様子でもない。
「おはよう、起こしちゃった?」
後ろから声が聞こえて振り返ると、着替えを済ませた霙が立っていた。ショートパンツにニーハイソックスという、暑いのか寒いのかよく分からない服装だった。
「おはよう…ううん、目覚ましで起きた」
私の言葉ににこっと笑う霙。自分のベッドに戻り、綺麗に整え始めた。音はほとんど聞こえず、由芽に気を遣っているのが分かる。普段あれだけ騒がしくても、切り替えはしっかり出来るものなんだなぁ、とまだぼんやりしたままの頭で失礼なことを考える。
「夕音も着替えておいでよ。多分、当分由芽は起きないし、朝食までまだ時間あるよ」
霙が時計を確認しながら言うので、私は再び携帯で時刻を確認した。「6:10」。朝食は「7:00」予定だった筈なので、確かにまだ時間はある。私はこくん、と寝そうになりながら頷いて、昨日準備した服を持って洗面所の方へ向かう。
着替えを終えたら意識は完全に覚醒して、眠気なんてどこかへ飛んで行ってしまった。私も霙に倣ってベッドを整える。
「そろそろ、起こしますか」
霙がテレビから視線を外し、由芽を見つめる。未だ起きない彼女は、布団に顔を埋めて機嫌はうかがえない。
私はまだ"機嫌の悪い朝の由芽"を見たことがない。ビクビクしながら手を伸ばそうとした時、霙が水を注いだコップを持ってきた。由芽にかけるつもりなのかな、と焦っていると、霙は由芽の頭の方へ回り、唯一出ている耳に向かって言った。
「由芽、由芽。空原 由芽!朝だよ、起きて。由芽」
ほとんど布団を揺らさず、由芽に呼びかける。んんぅ、と唸る声は聞こえたが、そこから動く様子のない由芽に、霙は続けて言う。
「あ、あの学校で1番モテると言われている女の子が竜夜に告白してるよ。いいの、由芽?」
がばっと、それは凄い勢いで飛び起きた。しかしまだ意識は眠りについているのか、そのままの姿勢で寝ようとしてしまう。霙は由芽の背中を支えて、由芽に水の入ったコップを差し出した。
「由芽、これ飲んで」
「んー…」
水を一杯飲んだ由芽は、目が覚めたらしい。きょろきょろと辺りを見て、着替えを掴んで洗面所の方へ向かった。
「霙、凄いね。全然機嫌悪そうじゃなかった…」
「あー…慣れてるから、ね」
頬をかきながら目を逸らす霙。慣れてる、ということは誰か身近な人物に寝起きの悪い人がいるのだろう。でも、何故そんなに罰が悪そうにするのだろうか。
私は疑問を飲み込んで、朝食開始の時刻を待った。
周りを見回し、修学旅行中であることに気付く。隣のベッドで布団に潜り込んでいるのは由芽のようだ。そういえば、夏の旅行でも朝は機嫌が悪いとか話したな、と思い出す。由芽を起こすのは後にしようと思い、昨日の夜「朝起こして下さい!」と念入りにお願いされた方のベッドに目をやる。
しかし、そこには誰もいなかった。少しだけ乱れを直したような状態で、人の気配はない。布団の中に人が入っている様子でもない。
「おはよう、起こしちゃった?」
後ろから声が聞こえて振り返ると、着替えを済ませた霙が立っていた。ショートパンツにニーハイソックスという、暑いのか寒いのかよく分からない服装だった。
「おはよう…ううん、目覚ましで起きた」
私の言葉ににこっと笑う霙。自分のベッドに戻り、綺麗に整え始めた。音はほとんど聞こえず、由芽に気を遣っているのが分かる。普段あれだけ騒がしくても、切り替えはしっかり出来るものなんだなぁ、とまだぼんやりしたままの頭で失礼なことを考える。
「夕音も着替えておいでよ。多分、当分由芽は起きないし、朝食までまだ時間あるよ」
霙が時計を確認しながら言うので、私は再び携帯で時刻を確認した。「6:10」。朝食は「7:00」予定だった筈なので、確かにまだ時間はある。私はこくん、と寝そうになりながら頷いて、昨日準備した服を持って洗面所の方へ向かう。
着替えを終えたら意識は完全に覚醒して、眠気なんてどこかへ飛んで行ってしまった。私も霙に倣ってベッドを整える。
「そろそろ、起こしますか」
霙がテレビから視線を外し、由芽を見つめる。未だ起きない彼女は、布団に顔を埋めて機嫌はうかがえない。
私はまだ"機嫌の悪い朝の由芽"を見たことがない。ビクビクしながら手を伸ばそうとした時、霙が水を注いだコップを持ってきた。由芽にかけるつもりなのかな、と焦っていると、霙は由芽の頭の方へ回り、唯一出ている耳に向かって言った。
「由芽、由芽。空原 由芽!朝だよ、起きて。由芽」
ほとんど布団を揺らさず、由芽に呼びかける。んんぅ、と唸る声は聞こえたが、そこから動く様子のない由芽に、霙は続けて言う。
「あ、あの学校で1番モテると言われている女の子が竜夜に告白してるよ。いいの、由芽?」
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