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11月23日 誠実に
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11月下旬の冷たい風が私と雪くんの間を通り抜けていく。肌を伝う寒さが、私の心を冷やして冷淡さに磨きがかかる。
「…雪くんは霙のこと、どこまで分かってるの?私から見る限り、何にも分かっていないように見えるけど」
「…そんな…っ」
「じゃあ何が分かるの?今霙が怒ってる理由も分からないくせに」
言葉が強くなる。雪くんだって辛いことは分かってるのに、イライラしてしまう。雪くんが何も言い返せずに俯くのを見て、余計に腹が立つ。
「霙は君の性格も、態度もよく分かった上で距離を置いてる。霙は思ったことをそのまま言っちゃう子だし、感情を隠すのもそんなに上手くない。それは雪くんの方が分かってるでしょう?だからこそ、霙は雪くんに当たらないように距離を置いてる。言いたいことが整理出来るまで、雪くんに思ってもないことを言わないように」
私の言葉に、雪くんはびっくりしたような表情で小さく顔を上げた。
「…そ、っか…」
掠れた小さすぎる声で、そう呟く雪くん。安堵したような表情に、私は怪訝な顔になる。
「…嫌われたわけじゃ、なかったんだ」
「は!?」
呆れた。気にしていたのは霙がどうして怒っているかよりもそこか。私は自分を棚に上げて、ため息をつく。
「えっ…と…?」
雪くんが怯えながら私の顔を覗く。その顔を見て、落ち込んでいる私に覗き込まれたような嫌な感覚に陥る。あぁ、そっか。私が雪くんにイライラするのは、似たようなことをしたことがあるからか。自分を見ているみたいで、イライラするのか。ならさっきまでの私の態度は、自己嫌悪と混ざった八つ当たりだ。恥ずかしくなる。
私は、向き合わなくてはならない。羅樹に、まっすぐ正面からぶつからなければいけない。
「…霙がどうして怒っているか、私の口から言うことじゃない。言えない。私は霙じゃないから、雪くんがどうするべきなのか、霙が雪くんにどうして欲しいのかも分からない」
俯きがちになりながら、膝の上で手を握りしめる。雪くんに伝えるように、自分に言い聞かせるように、言葉を繋ぐ。5枚の白い花弁に囲まれた小さな花が、周りに舞う。
「…霙に誠実な愛を持つなら、心から思慕するなら、ちゃんと霙に向き合って」
レモンの花言葉。誠実な愛、心からの思慕。私にも必要で、雪くんにも必要な言葉。
「…っん…」
雪くんは少しだけ微笑んで頷いた。そのままベンチから勢いよく立って、その場を去っていった。
なんだか、すごく疲れた。
「…えが…」
「…え?」
誰かの小さな声が、聞こえた気がした。
「…雪くんは霙のこと、どこまで分かってるの?私から見る限り、何にも分かっていないように見えるけど」
「…そんな…っ」
「じゃあ何が分かるの?今霙が怒ってる理由も分からないくせに」
言葉が強くなる。雪くんだって辛いことは分かってるのに、イライラしてしまう。雪くんが何も言い返せずに俯くのを見て、余計に腹が立つ。
「霙は君の性格も、態度もよく分かった上で距離を置いてる。霙は思ったことをそのまま言っちゃう子だし、感情を隠すのもそんなに上手くない。それは雪くんの方が分かってるでしょう?だからこそ、霙は雪くんに当たらないように距離を置いてる。言いたいことが整理出来るまで、雪くんに思ってもないことを言わないように」
私の言葉に、雪くんはびっくりしたような表情で小さく顔を上げた。
「…そ、っか…」
掠れた小さすぎる声で、そう呟く雪くん。安堵したような表情に、私は怪訝な顔になる。
「…嫌われたわけじゃ、なかったんだ」
「は!?」
呆れた。気にしていたのは霙がどうして怒っているかよりもそこか。私は自分を棚に上げて、ため息をつく。
「えっ…と…?」
雪くんが怯えながら私の顔を覗く。その顔を見て、落ち込んでいる私に覗き込まれたような嫌な感覚に陥る。あぁ、そっか。私が雪くんにイライラするのは、似たようなことをしたことがあるからか。自分を見ているみたいで、イライラするのか。ならさっきまでの私の態度は、自己嫌悪と混ざった八つ当たりだ。恥ずかしくなる。
私は、向き合わなくてはならない。羅樹に、まっすぐ正面からぶつからなければいけない。
「…霙がどうして怒っているか、私の口から言うことじゃない。言えない。私は霙じゃないから、雪くんがどうするべきなのか、霙が雪くんにどうして欲しいのかも分からない」
俯きがちになりながら、膝の上で手を握りしめる。雪くんに伝えるように、自分に言い聞かせるように、言葉を繋ぐ。5枚の白い花弁に囲まれた小さな花が、周りに舞う。
「…霙に誠実な愛を持つなら、心から思慕するなら、ちゃんと霙に向き合って」
レモンの花言葉。誠実な愛、心からの思慕。私にも必要で、雪くんにも必要な言葉。
「…っん…」
雪くんは少しだけ微笑んで頷いた。そのままベンチから勢いよく立って、その場を去っていった。
なんだか、すごく疲れた。
「…えが…」
「…え?」
誰かの小さな声が、聞こえた気がした。
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