神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
295 / 812

11月23日 裏庭のベンチ

しおりを挟む
放課後。私は裏庭の方を歩いていた。多分、こっちの方にいると思う。そう聞いて、探しに来たのだ。
全然見つからないので、歩いている途中で別のことを考える。そういえば、恋使の能力で相手の心に反応して花が咲くが、季節も咲く場所も関係なく咲くのに、あまり疑問に思われたことは無かったな、と思う。霙が驚いた時、私もびっくりした。なのにその数秒後には疑問を感じてる風でもなく、微笑んでいた。もしかして、その辺りも恋使の能力の範囲なのだろうか。
結構長い時間をかけて導き出したつもりだったのに、一向に探し人は見つからない。今日は諦めて帰ろうかと思った時、薄暗い校舎の間のような場所に、その人はいた。
「雪くん!」
「…え…?」
吹奏楽部が珍しく休みだという日に、帰らずにこんなところで蹲っていたのか。帰りのSHRからもう既に30分は経っている。ずっとここにいたのならば、確かに見つけにくいところだ。私はため息をつきたくなるのを我慢して、雪くんの目の前に立った。
「こんなところにいたの?探してたんだよ」
「え、ご、ごめん…何か…用事?」
「用事ってわけじゃないんだけど、少しお話ししようと思って」
「話…?」
私は雪くんを引っ張り出して、近くのベンチに無理やり座らせる。雪くんは戸惑った様子だったが、私が終始笑顔だったので少しは緊張が解けたようだ。1人分席を空けて、私も隣に腰掛ける。遠くにグラウンドで部活をしている野球部が見えた。
「単刀直入に言うね。霙のこと、どう思ってるの」
「…っ!?」
ここで世間話を始めても回復しなさそうだったので、さっさと話したいことに移った。雪くんは目を見開いて驚き、戸惑いながら唇を動かした。
「え、ど、どう…って…」
「霙から長い付き合いだって聞いた。だからこそ、お互いのことを分かってるからこそ、分かりすぎて見えなくなってる部分があるんじゃないの?」
「…どういう意味…?」
私が回りくどい言い方をしたのも悪かったが、戸惑うばかりで疑問を返してくるだけの雪くんもどうかと思う。雪くんのそんな態度にイライラしてくる。
「…霙が怒ってる原因はわかるの?」
「…」
雪くんは黙った。わからないとは言いにくくて、わかるとも言えない状態だから逃げの選択として黙ったのだ。逃げたい気持ちも分かるが、それが好きな女の子に対して誠実だと言えるのか。
「…わかんないのに、謝ったの?」
雪くんの肩が視界の端でびくりと震えた。霙にここまで責められたことはあったのだろうか。ショックの受け方から、そもそも霙が雪くんにここまでキレることは少ないらしい。私は霙の分も勝手にキレてやろう、と決心して口を開いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

姉の殻。

るかこ
青春
姉を救いたい妹と死にたい姉の愛情___。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

ダイヤモンドの向日葵

水研歩澄
青春
 『女子高校野球は番狂わせが起こらない』  そう言われるようになってから、もう久しい。  女子プロ野球リーグは女子野球専用ボールの開発や新救助開設などに代表される大規模改革によって人気を博すようになっていた。  女子野球の人気拡大に伴って高校女子硬式野球部も年を追うごとに数を増やしていった。  かつては全国大会のみ開催されていた選手権大会も、出場校の増加に従い都道府県予選を設ける規模にまで成長した。  しかし、ある時その予選大会に決勝リーグ制が組み込まれたことで女子高校野球界のバランスが大きく傾くこととなった。  全4試合制のリーグ戦を勝ち抜くために名のある強豪校は投手によって自在に打線を組み換え、細かな投手継投を用いて相手の打線を煙に巻く。  ほとんどの強豪校が同じような戦略を採用するようになった結果、厳しいリーグ戦を勝ち上がるのはいつだって分厚い戦力と名のある指揮官を要する強豪校ばかりとなってしまった。  毎年のように変わらぬ面子が顔を揃える様を揶揄して、人々は女子高校野球全国予選大会をこう呼ぶようになった。  ────『キセキの死んだ大会』と。

恐喝されている女の子を助けたら学校で有名な学園三大姫の一人でした

恋狸
青春
 特殊な家系にある俺、こと狭山渚《さやまなぎさ》はある日、黒服の男に恐喝されていた白海花《しらみはな》を助ける。 しかし、白海は学園三大姫と呼ばれる有名美少女だった!?  さらには他の学園三大姫とも仲良くなり……?  主人公とヒロイン達が織り成すラブコメディ!  小説家になろう、カクヨムでも投稿しています。  カクヨムにて、月間3位

俺のバッドエンドが彼女のハッピーエンドなんてあってたまるか!

めいゆー
青春
主人公・藤原湊は、ある出来事がきっかけで国が管理する学園都市にある、光明学園高等学校に入学することになったのだが、そこは、少し不思議な力を持った者(能力者)や普通の社会での生活が困難になった者達(異端者)の為の学校だった。 そんな学園での生活はいったいどんなものになるのやら・・・ ※初めての投稿なので好き勝手書いてみたいと思います。お目汚しごめんなさい|д゚)

坊主女子:髪フェチ男子短編集【短編集】

S.H.L
青春
髪フェチの男性に影響された女の子のストーリーの短編集

フェイタリズム

倉木元貴
青春
主人公中田大智は、重度のコミュ障なのだが、ある出来事がきっかけで偶然にも学年一の美少女山河内碧と出会ってしまう。そんなことに運命を感じながらも彼女と接していくうちに、‘自分の彼女には似合わない’そう思うようになってしまっていた。そんなある時、同じクラスの如月歌恋からその恋愛を手伝うと言われ、半信半疑ではあるものの如月歌恋と同盟を結んでしまう。その如月歌恋にあの手この手で振り回されながらも中田大智は進展できずにいた。 そんな奥手でコミュ障な中田大智の恋愛模様を描いた作品です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...