神様自学

天ノ谷 霙

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11月23日 原因

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霙は俯いて、小さく息を吐いた。やがて顔を上げて、首を横に振った。
「…別に、大したことじゃない」
いつの間にか霙の呼吸は落ち着いて、リボンを握り締める手も緩んでいる。私は霙の次の言葉を待った。
「…内緒にしてね。雪、仲の良い女の子に遊びに行こうって誘われたんだって。私が知らない間に、2人っきりで遊びに行ったんだって。多分、相手の子は雪のことが好きなのに」
「…え」
私の驚いた表情を見て、霙はくすっと笑った。
「見えないでしょ。雪を好きになる物好きなんて私ぐらいだと思ってたよ」
「…え、えぇと」
否定も肯定も出来ず戸惑っていた。本当に相手の女の子は雪くんを好きなのか、それが分からなかった。そう思っているのが顔に出ていたのか、霙は自嘲気味の笑顔で、私をまっすぐ見た。
「…分かるよ。何となくだけど。根拠も一応あるけど、言わないでおくね。だけど、十中八九相手の子は雪が好きだよ。2人っきりで遊びに誘うなんて、あの子が好きでもない異性にするわけないし」
霙は相手の女の子と面識があるらしかった。私は何も言えずに、ただ霙を見ていた。
「…断ると思ってた。雪は相手の好意になんか微塵も気付いていなくて、馬鹿みたいに普通に遊びに行った。あ、でもヤキモチとか嫉妬で怒ったんじゃないよ。呆れちゃったんだ」
「呆れ…?」
「うん。雪、自分は異性と2人っきりで遊びに行ったりするくせに、私が異性と話すと嫌そうな顔するんだ。隠してるつもりだろうけど、バレバレだよ」
ため息をつく霙。それは確かに面倒だな、と心の中で呟いてみた。そういうのが嬉しい人もいるんだろうけど。
「呆れるでしょ?女の子と遊びに行ったっていうのを他の子から聞いてイライラしてる時に、私が異性と話してたことに対して不機嫌な雪に気付いて。疲れて、口が緩んで、思いっきり怒っちゃった。後に引けなくなったし、雪は何が悪くて怒ってるのか分かってないから、表面上でしか謝罪しないし、そんなんなら謝らなくていいって思って、今この状態なんだ」
「それは…その…」
話だけ聞いていると雪くんが悪いと言いたくなる。けど、いつもの霙の態度を見ていると、確かに心配になる気持ちは分かる。それでも、霙の心が雪くん以外に動いているのは見たことがない、なんてどうやって説明すれば良いか分からない根拠にため息を吐きたくなる。
「…私が悪いところも分かってるけど、分かってるつもりだけど、流石に今回は疲れちゃった」
霙が力無く笑う。私の側で、花の香りがした。
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