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赤面図書室 海斗
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俺は何故か、2年連続で学級委員をやっている。別にしっかりしている訳では無いし、真面目に注意した覚えもない。何故だろう、俺が学級委員をやっているのは。
そのおかげで、空原とやれてるのは…感謝するけどな。
空原由芽。去年から学級委員をやっている為、面識はある。学年一の情報屋で、何処に隠してるかわからないメモ帳とペンがトレードマークの女の子。7つのピンをしてる珍しい女の子。俺は、この女の子が好き、だと思う。
クラスごとに座るから、向かいだったり…隣だったりする。その度に、視線が勝手に空原に行って、恥ずかしい。
でも今日は、違う。他のクラスはいない。この図書室に2人っきりだった。
「あっ小野くん、ここって…」
「え!?あっお、俺やるよっ!」
馬鹿っ。帰る時間が遅くなる上に、残業になるぞ俺っ!!小学生まで面倒事はことごとくスルーしてきた筈だろ。
「うーんと…小野くん、私のやることないんだけど…」
「え、あれ?嘘っ…じゃ、じゃあ、席順…作って…。数学の先生がわかるように…」
あからさまな挙動不審。顔が熱くてバレないか心配だったが、窓から入ってくる夕日のおかげで誤魔化せそうだった。
ちらりと目を走らせると空原は男子の名前をすらすらと書いていく。はっきりした大きな字で、見えやすかった。名前を書いてもらう男子が羨ましくてしょうがない。
[小野 海斗 おのかいと]
書かれた瞬間、心臓の音が更に速くなった。聞こえるのではないか、と錯覚するほどに。
数分経って、いくつか作業が終わったので伸びをした。すると向かいに座っている空原が観察するように俺を見ていた。
「へ!?」
椅子ががたんと大きな音を立てて揺れた。
驚いたからか、空原は目をまんまるく見開いて、さっきまでついていた頬杖を離して顔を起こしていた。
一瞬の沈黙。
「あっはははっ!」
空原は笑い出した。きっと俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だろう。
「な、なっ…何がおかしいっ!」
「いや、すっごいびっくりしてるからさっ。ごめんね。息抜きでもしようかっ!お詫びにジュース買ってくるよ」
笑いすぎのせいか、涙を浮かべた目を擦りながら立ち上がった。
「も、もう、からかうなよ空原っ!」
「ごめんってーっ、じゃあ、買ってくるね」
がらり、とドアを開けて自販機まで行ってしまったようだ。
その間に、作業を進める。空原の分までやろうとしていたから、結構な量だった。
没頭していたようで、時刻は5時45分を指していた。
遅いな…?
空原がジュースを買いに行ったのは、確か1時間前。没頭していたから時間なんて全然気にしなかった。荷物はここにあるし、帰ってはいないと思う。空原はそういうところがとてもしっかりしているタイプだし、そこは心配していない。
どうしたんだ…?
終わった紙の束を抱え、2人分の鞄を持って廊下に出る。空原の姿は、そこにはなかった。
「失礼しました」
職員室に提出し、辺りを見渡す。先生に聞いてみたが知らないと言う。忘れ物をしたみたいで、と誤魔化して自販機のところまで行ってみた。しかし誰もいない真っ暗な廊下だった。
「空原ー?」
暗い中に、呼びかけてみる。返事は無かったが、微かに空気が震えた気がした。気のせいかもしれないが、教室を探してみる。
「空原ーっ!」
ん…っ
「空原ぁっ!」
のくん…っ!
「空原ぁあっ!!」
「小野くんっ!!」
震えるような、細い悲鳴のような声がした。
聞こえたのは、理科室からで。
「待ってろ由芽。鍵とってくるから」
隙間からハンカチを届ける。これで少しでも安心してくれたら、と。
そのまま走って職員室へ行き、鍵を借りる。こんな時間になんだ?とざわついていたがスルーして走る。
ガラッ
「由芽っ!!」
「おのくっ…」
空原は震えながら泣いていた。ハンカチを必死に掴んで離さない。事情を聞くと、暗所恐怖症、らしい。
恐怖のせいか、目から光が消えていた。ぎゅ…と、抱きしめてみた。少しずつ震えが止まり、泣き声も止んだ。
「ごめんね…ジュース買った後、今日理科室に忘れ物したこと思い出して、取ってる間に鍵閉められたみたいで…」
「別に大丈夫だよ、気にするな」
「ありがとう」
俺たちは先生に鍵を返し、帰ることを伝えた。事情は空原が自分から伝えた。時刻は6時。電灯がちかちかと光っている。そんな中、ふと空原が呟いた。
「…小野くん、さ…さっき私のこと[由芽]って呼んだよね?」
「へ!?あっ、あれは…切羽詰まってたから…」
「えーじゃあこれからは呼んでくれないの?」
「えっ…」
空原は俺の数歩前に立ち、振り返って笑った。そして、
「好きだよ、海斗くん」
とはっきり言った。
風になびく空原の髪が、月の光を反射してきらきらと光った。
「え…っ…?」
「好き」
「お、俺もっ好きじゃなくもない…」
「どっちよ」
由芽が笑った。嬉しくて、高鳴った鼓動を抑えるように抱きしめる。幸せだ。
「えと?」
「付き合ってください、由芽」
「っ…喜んで」
笑顔の由芽が愛しくて、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
少しずつ輝き始めた星が、ちらちらと光った。
そのおかげで、空原とやれてるのは…感謝するけどな。
空原由芽。去年から学級委員をやっている為、面識はある。学年一の情報屋で、何処に隠してるかわからないメモ帳とペンがトレードマークの女の子。7つのピンをしてる珍しい女の子。俺は、この女の子が好き、だと思う。
クラスごとに座るから、向かいだったり…隣だったりする。その度に、視線が勝手に空原に行って、恥ずかしい。
でも今日は、違う。他のクラスはいない。この図書室に2人っきりだった。
「あっ小野くん、ここって…」
「え!?あっお、俺やるよっ!」
馬鹿っ。帰る時間が遅くなる上に、残業になるぞ俺っ!!小学生まで面倒事はことごとくスルーしてきた筈だろ。
「うーんと…小野くん、私のやることないんだけど…」
「え、あれ?嘘っ…じゃ、じゃあ、席順…作って…。数学の先生がわかるように…」
あからさまな挙動不審。顔が熱くてバレないか心配だったが、窓から入ってくる夕日のおかげで誤魔化せそうだった。
ちらりと目を走らせると空原は男子の名前をすらすらと書いていく。はっきりした大きな字で、見えやすかった。名前を書いてもらう男子が羨ましくてしょうがない。
[小野 海斗 おのかいと]
書かれた瞬間、心臓の音が更に速くなった。聞こえるのではないか、と錯覚するほどに。
数分経って、いくつか作業が終わったので伸びをした。すると向かいに座っている空原が観察するように俺を見ていた。
「へ!?」
椅子ががたんと大きな音を立てて揺れた。
驚いたからか、空原は目をまんまるく見開いて、さっきまでついていた頬杖を離して顔を起こしていた。
一瞬の沈黙。
「あっはははっ!」
空原は笑い出した。きっと俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だろう。
「な、なっ…何がおかしいっ!」
「いや、すっごいびっくりしてるからさっ。ごめんね。息抜きでもしようかっ!お詫びにジュース買ってくるよ」
笑いすぎのせいか、涙を浮かべた目を擦りながら立ち上がった。
「も、もう、からかうなよ空原っ!」
「ごめんってーっ、じゃあ、買ってくるね」
がらり、とドアを開けて自販機まで行ってしまったようだ。
その間に、作業を進める。空原の分までやろうとしていたから、結構な量だった。
没頭していたようで、時刻は5時45分を指していた。
遅いな…?
空原がジュースを買いに行ったのは、確か1時間前。没頭していたから時間なんて全然気にしなかった。荷物はここにあるし、帰ってはいないと思う。空原はそういうところがとてもしっかりしているタイプだし、そこは心配していない。
どうしたんだ…?
終わった紙の束を抱え、2人分の鞄を持って廊下に出る。空原の姿は、そこにはなかった。
「失礼しました」
職員室に提出し、辺りを見渡す。先生に聞いてみたが知らないと言う。忘れ物をしたみたいで、と誤魔化して自販機のところまで行ってみた。しかし誰もいない真っ暗な廊下だった。
「空原ー?」
暗い中に、呼びかけてみる。返事は無かったが、微かに空気が震えた気がした。気のせいかもしれないが、教室を探してみる。
「空原ーっ!」
ん…っ
「空原ぁっ!」
のくん…っ!
「空原ぁあっ!!」
「小野くんっ!!」
震えるような、細い悲鳴のような声がした。
聞こえたのは、理科室からで。
「待ってろ由芽。鍵とってくるから」
隙間からハンカチを届ける。これで少しでも安心してくれたら、と。
そのまま走って職員室へ行き、鍵を借りる。こんな時間になんだ?とざわついていたがスルーして走る。
ガラッ
「由芽っ!!」
「おのくっ…」
空原は震えながら泣いていた。ハンカチを必死に掴んで離さない。事情を聞くと、暗所恐怖症、らしい。
恐怖のせいか、目から光が消えていた。ぎゅ…と、抱きしめてみた。少しずつ震えが止まり、泣き声も止んだ。
「ごめんね…ジュース買った後、今日理科室に忘れ物したこと思い出して、取ってる間に鍵閉められたみたいで…」
「別に大丈夫だよ、気にするな」
「ありがとう」
俺たちは先生に鍵を返し、帰ることを伝えた。事情は空原が自分から伝えた。時刻は6時。電灯がちかちかと光っている。そんな中、ふと空原が呟いた。
「…小野くん、さ…さっき私のこと[由芽]って呼んだよね?」
「へ!?あっ、あれは…切羽詰まってたから…」
「えーじゃあこれからは呼んでくれないの?」
「えっ…」
空原は俺の数歩前に立ち、振り返って笑った。そして、
「好きだよ、海斗くん」
とはっきり言った。
風になびく空原の髪が、月の光を反射してきらきらと光った。
「え…っ…?」
「好き」
「お、俺もっ好きじゃなくもない…」
「どっちよ」
由芽が笑った。嬉しくて、高鳴った鼓動を抑えるように抱きしめる。幸せだ。
「えと?」
「付き合ってください、由芽」
「っ…喜んで」
笑顔の由芽が愛しくて、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
少しずつ輝き始めた星が、ちらちらと光った。
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