神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
41 / 812

赤面図書室 海斗

しおりを挟む
俺は何故か、2年連続で学級委員をやっている。別にしっかりしている訳では無いし、真面目に注意した覚えもない。何故だろう、俺が学級委員をやっているのは。
そのおかげで、空原とやれてるのは…感謝するけどな。
空原由芽。去年から学級委員をやっている為、面識はある。学年一の情報屋で、何処に隠してるかわからないメモ帳とペンがトレードマークの女の子。7つのピンをしてる珍しい女の子。俺は、この女の子が好き、だと思う。
クラスごとに座るから、向かいだったり…隣だったりする。その度に、視線が勝手に空原に行って、恥ずかしい。
でも今日は、違う。他のクラスはいない。この図書室に2人っきりだった。
「あっ小野くん、ここって…」
「え!?あっお、俺やるよっ!」
馬鹿っ。帰る時間が遅くなる上に、残業になるぞ俺っ!!小学生まで面倒事はことごとくスルーしてきた筈だろ。
「うーんと…小野くん、私のやることないんだけど…」
「え、あれ?嘘っ…じゃ、じゃあ、席順…作って…。数学の先生がわかるように…」
あからさまな挙動不審。顔が熱くてバレないか心配だったが、窓から入ってくる夕日のおかげで誤魔化せそうだった。
ちらりと目を走らせると空原は男子の名前をすらすらと書いていく。はっきりした大きな字で、見えやすかった。名前を書いてもらう男子が羨ましくてしょうがない。
[小野  海斗  おのかいと]
書かれた瞬間、心臓の音が更に速くなった。聞こえるのではないか、と錯覚するほどに。
数分経って、いくつか作業が終わったので伸びをした。すると向かいに座っている空原が観察するように俺を見ていた。
「へ!?」
椅子ががたんと大きな音を立てて揺れた。
驚いたからか、空原は目をまんまるく見開いて、さっきまでついていた頬杖を離して顔を起こしていた。
一瞬の沈黙。
「あっはははっ!」
空原は笑い出した。きっと俺の顔は恥ずかしさで真っ赤だろう。
「な、なっ…何がおかしいっ!」
「いや、すっごいびっくりしてるからさっ。ごめんね。息抜きでもしようかっ!お詫びにジュース買ってくるよ」
笑いすぎのせいか、涙を浮かべた目を擦りながら立ち上がった。
「も、もう、からかうなよ空原っ!」
「ごめんってーっ、じゃあ、買ってくるね」
がらり、とドアを開けて自販機まで行ってしまったようだ。
その間に、作業を進める。空原の分までやろうとしていたから、結構な量だった。
没頭していたようで、時刻は5時45分を指していた。
遅いな…?
空原がジュースを買いに行ったのは、確か1時間前。没頭していたから時間なんて全然気にしなかった。荷物はここにあるし、帰ってはいないと思う。空原はそういうところがとてもしっかりしているタイプだし、そこは心配していない。
どうしたんだ…?
終わった紙の束を抱え、2人分の鞄を持って廊下に出る。空原の姿は、そこにはなかった。

「失礼しました」
職員室に提出し、辺りを見渡す。先生に聞いてみたが知らないと言う。忘れ物をしたみたいで、と誤魔化して自販機のところまで行ってみた。しかし誰もいない真っ暗な廊下だった。
「空原ー?」
暗い中に、呼びかけてみる。返事は無かったが、微かに空気が震えた気がした。気のせいかもしれないが、教室を探してみる。
「空原ーっ!」
ん…っ
「空原ぁっ!」
のくん…っ!
「空原ぁあっ!!」
「小野くんっ!!」
震えるような、細い悲鳴のような声がした。
聞こえたのは、理科室からで。
「待ってろ由芽。鍵とってくるから」
隙間からハンカチを届ける。これで少しでも安心してくれたら、と。
そのまま走って職員室へ行き、鍵を借りる。こんな時間になんだ?とざわついていたがスルーして走る。
ガラッ
「由芽っ!!」
「おのくっ…」
空原は震えながら泣いていた。ハンカチを必死に掴んで離さない。事情を聞くと、暗所恐怖症、らしい。
恐怖のせいか、目から光が消えていた。ぎゅ…と、抱きしめてみた。少しずつ震えが止まり、泣き声も止んだ。
「ごめんね…ジュース買った後、今日理科室に忘れ物したこと思い出して、取ってる間に鍵閉められたみたいで…」
「別に大丈夫だよ、気にするな」
「ありがとう」
俺たちは先生に鍵を返し、帰ることを伝えた。事情は空原が自分から伝えた。時刻は6時。電灯がちかちかと光っている。そんな中、ふと空原が呟いた。
「…小野くん、さ…さっき私のこと[由芽]って呼んだよね?」
「へ!?あっ、あれは…切羽詰まってたから…」
「えーじゃあこれからは呼んでくれないの?」
「えっ…」
空原は俺の数歩前に立ち、振り返って笑った。そして、
「好きだよ、海斗くん」
とはっきり言った。
風になびく空原の髪が、月の光を反射してきらきらと光った。
「え…っ…?」
「好き」
「お、俺もっ好きじゃなくもない…」
「どっちよ」
由芽が笑った。嬉しくて、高鳴った鼓動を抑えるように抱きしめる。幸せだ。
「えと?」
「付き合ってください、由芽」
「っ…喜んで」
笑顔の由芽が愛しくて、もう一度ぎゅっと抱きしめた。
少しずつ輝き始めた星が、ちらちらと光った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

Go for it !

mimoza
青春
『走るのは好き、でも陸上競技は嫌い』 そんな矛盾する想いを秘めた高校2年生、吉田実穏。 彼女が本気を出したのは3度だけ。 3度目は先輩方からのお願いから始まる。 4継で東北大会に出場する、 それが新たな原動力になった。 【注意】 ルールは一昔前のを採用しています。 現在のルールとは異なるのでご了承下さい。

翼も持たず生まれたから

千年砂漠
青春
 中学三年生になったばかりの久保田奈緒は、塾帰りのある夜、古びた歩道橋の上で登校拒否児童で十一歳の白木星志に出会う。歩道橋の上から星空を眺めるのが好きだという実年齢より少し大人びた彼に惹かれた奈緒は、毎晩彼に会うために塾の帰りに歩道橋に立ち寄るようになった。  奈緒は誰にも言えなかった悩みを星志に打ち明け、更に彼と過す時間を大事にするようになったが、星志には奈緒にも打ち明けられない秘密があった。  お互いの孤独はお互いでしか埋められない二人。  大人には分かってもらえない、二人の心が辿り着ける場所は果たしてあるのか。  誰もが通る思春期の屈折の道に迷いながら進む彼らの透き通った魂をご覧ください。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

それでも俺はあなたが好きです

水ノ瀬 あおい
青春
幼なじみの力也(リキ)から頼み込まれて啓南男子バスケ部のマネージャーになった吉井流星(ヨッシー)。 目に入ったのは睨むようにコートを見つめる女バスのマネージャー。 その姿はどこか自分と似ていると思った。 気になって目で追う日々。 だけど、そのマネージャーは男バスキャプテンのセイに片想いをしていた。 意外と不器用なヨッシーのバスケと恋愛。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

こじらせ男子は好きですか?

星名柚花
青春
「好きです」「すみません。二次元に彼女がいるので」 衝撃的な文句で女子の告白を断った逸話を持つ男子、天坂千影。 良家の子女が集う五桜学園の特待生・園田菜乃花は彼のことが気になっていた。 ある日、菜乃花は千影に土下座される。 毎週水曜日限定販売のカレーパンを買うために階段を駆け下りてきた彼と接触し、転落して利き手を捻挫したからだ。 利き腕が使えないと日常生活も不便だろうと、千影は怪我が治るまでメイド付きの特別豪華な学生寮、0号館で暮らさないかと提案してきて――?

裏切り掲示板

華愁
青春
カテゴリーは〈童話〉ですが〈その他〉です。 それを見つけた時、あなたはどうしますか? あなたは誰かに 裏切られたことがありますか? その相手を憎いと思いませんか? カテゴリーは〈童話〉ですが〈その他〉です。 ここには何を書いても 構いませんよ。 だって、この掲示板は 裏切られた人しか 見られないのですから…… by管理人

処理中です...