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11月14日 他言無用
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「夕音様」
2人がいなくなって静かになった部屋で、先に口火を切ったのは天さんだった。
「あ、えっと、様付けなんてされる身分じゃないです…!夕音とか呼び捨てで十分です…!それに、座って下さい」
「…ありがとうございます」
天さんは綺麗な所作で私の目の前に座った。花火と同じようなキビキビとした所作で、改めてキースさんの所作との違いを思い出した。
「…夕音、は、扇様のご友人と紹介を受けましたが、どちらでお知り合いになられたのですか?」
天さんの凛とした雰囲気と、しっかりとした話し方に聞き惚れてしまう。私はハッと我に返って口を開く。
「わ、私は、扇様の付き人である花火の友人で…」
「花火の?」
「あ、はい。ご存知ですか?」
「えぇ。紺様と扇様の家の会食などでは仲良くさせて頂いております。最近倒れたと噂で聞きましたが…」
「はい。仕事も学校も1週間休んでいました。大分回復したようですが…それでも」
私は言葉を詰まらせる。それ以上は私が勝手に話してはいけないと思った。花火の周りで起きたこと。荷物に紛れ込んでいたカッターの刃のこと、新しく入ってきたメイドが自分の教えたことよりも担当外の人が教えたことの方が上手くなっていること、甘えるのが苦手で、1人で抱え込みすぎてしまう彼女のことを、私が勝手に話すのは憚られた。
「言いにくいようなことがあったのですね。少しはこちらの付き人の話は聞いています。片倉さんという若い男性が他の女性から人気であることとか」
「片倉さんもご存知なんですね」
「えぇ、こちらのメイドや執事とはほとんど顔見知りです。…ここからは他言無用で、少しお話しさせて頂いても宜しいでしょうか」
「大丈夫です」
天さんはふっと力を抜いた様子で話し出す。
「片倉さんは花火が好きなご様子なのですが、肝心の花火はそれに気付いておらず、むしろ距離を置こうとしている様子なのですよね。周りの女性に気を遣ってそうしているみたいですが、それがかえって反感を買ってるみたいで…」
私は黙って頷く。花火の行動に他の女性が何を感じているのか言葉で表せなかったが、そういうことだったのか。言われて納得した。
「先程、花火が部屋を出た直後に音がしました。その音に反応して扇様が部屋を出て行かれましたが、もしかして…?」
「想像通りです。花火が階段から突き落とされました」
「…!」
天さんが表情を崩す。顔色が悪くなったのを見て、慌てて付け加える。
「下には片倉さんがいて、助かりましたが」
「…そう、助かったんですね…良かった…」
ホッとした様子の天さんに、私も安堵する。
その時、ふわっと何かの気配がした。優しい春の陽だまりのような温かい"晴れ"の気配が。
2人がいなくなって静かになった部屋で、先に口火を切ったのは天さんだった。
「あ、えっと、様付けなんてされる身分じゃないです…!夕音とか呼び捨てで十分です…!それに、座って下さい」
「…ありがとうございます」
天さんは綺麗な所作で私の目の前に座った。花火と同じようなキビキビとした所作で、改めてキースさんの所作との違いを思い出した。
「…夕音、は、扇様のご友人と紹介を受けましたが、どちらでお知り合いになられたのですか?」
天さんの凛とした雰囲気と、しっかりとした話し方に聞き惚れてしまう。私はハッと我に返って口を開く。
「わ、私は、扇様の付き人である花火の友人で…」
「花火の?」
「あ、はい。ご存知ですか?」
「えぇ。紺様と扇様の家の会食などでは仲良くさせて頂いております。最近倒れたと噂で聞きましたが…」
「はい。仕事も学校も1週間休んでいました。大分回復したようですが…それでも」
私は言葉を詰まらせる。それ以上は私が勝手に話してはいけないと思った。花火の周りで起きたこと。荷物に紛れ込んでいたカッターの刃のこと、新しく入ってきたメイドが自分の教えたことよりも担当外の人が教えたことの方が上手くなっていること、甘えるのが苦手で、1人で抱え込みすぎてしまう彼女のことを、私が勝手に話すのは憚られた。
「言いにくいようなことがあったのですね。少しはこちらの付き人の話は聞いています。片倉さんという若い男性が他の女性から人気であることとか」
「片倉さんもご存知なんですね」
「えぇ、こちらのメイドや執事とはほとんど顔見知りです。…ここからは他言無用で、少しお話しさせて頂いても宜しいでしょうか」
「大丈夫です」
天さんはふっと力を抜いた様子で話し出す。
「片倉さんは花火が好きなご様子なのですが、肝心の花火はそれに気付いておらず、むしろ距離を置こうとしている様子なのですよね。周りの女性に気を遣ってそうしているみたいですが、それがかえって反感を買ってるみたいで…」
私は黙って頷く。花火の行動に他の女性が何を感じているのか言葉で表せなかったが、そういうことだったのか。言われて納得した。
「先程、花火が部屋を出た直後に音がしました。その音に反応して扇様が部屋を出て行かれましたが、もしかして…?」
「想像通りです。花火が階段から突き落とされました」
「…!」
天さんが表情を崩す。顔色が悪くなったのを見て、慌てて付け加える。
「下には片倉さんがいて、助かりましたが」
「…そう、助かったんですね…良かった…」
ホッとした様子の天さんに、私も安堵する。
その時、ふわっと何かの気配がした。優しい春の陽だまりのような温かい"晴れ"の気配が。
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