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11月14日 推察
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「あ…えっと…貴方は確か…」
思い出そうと視線を上げる片倉さん。私は立ち上がって、お辞儀をしながら2度目の自己紹介をする。
「花火の友人の、稲森 夕音です」
「あぁ…ご丁寧にありがとうございます。私は稲峰さんの同僚の、片倉 作夜です」
花火と対になる、私から見て左側に三つ編みをしている男性。黒い執事服に、灰色っぽい髪がよく映える。私は何か言うべきなのか、それとも仕事の邪魔をしないように座っているべきなのか迷う。そして、片倉さんの胸元に枯れかけのバラがさしてあるのが目に入った。来る途中にも見えたが、綺麗なバラや他の花々はたくさん咲いていた。何故、枯れかけた花をさしたままにしているのか、不思議に思った。片倉さんが寝室の方に向かうのを見て、私も追いかける。部屋と部屋の間で立ち止まり、口を開いた。
「…あの」
「はい?」
「あ、仕事をしながらで大丈夫です。少し、聞いても宜しいでしょうか」
「はい。お言葉に甘えて、仕事をしながらで良いなら」
「その胸のバラ、枯れかけてますけど…さし替えないのですか?」
「…!」
ベッドメイキング中の手を止めないまま、表情だけが固まった。それでも0.1秒もしない内に平静を装い、声の調子を変えずに話す。
「そうですね。そろそろ替え時ですね」
「…以前お見かけした時は、胸に花をさしていなかったと記憶しておりますが、バラに何か強い思い入れがあるのですか?」
「…いいえ、特には」
何だか尋問しているような気分だ。それでも、何かこれについては知らなくてはならない気がした。後少しで、片倉さんの心が伝わってくる気がするのだ。ところどころがオレンジや黄色に染まってしまったピンクのバラは、誰かに宛てた物だったのかもしれない。
「ピンクのバラは『しとやか、上品、可愛い人』などの意味があったかと」
「詳しいですね」
「少々、そのような知識を得る機会がありまして。…そして、確かバラには渡す本数の意味も存在しましたよね。それは元々、何本だったのですか?」
「…私が自分の趣味で胸にさしているとは、思いませんか?」
「思いません。私は花火から気になる話を聞いておりますので」
「気になる話、と言いますと?」
片倉くんはベッドメイキングから周りのカーテンや窓の掃除まで終え、私の方を振り返った。やっと思い出した。何故こんなにもバラが気になるのか。
「貴方が、『バラが好きな方に渡そうと思って』と言ったのを聞いたそうなんです」
「…え」
片倉くんの表情が、先程よりも分かりやすく止まる。
「どなたにお渡しになられたのかまでは聞いていないそうですが。その様子だと、渡していらっしゃらないのでは?」
「…ご明察です」
片倉さんは観念したように呟いた。
思い出そうと視線を上げる片倉さん。私は立ち上がって、お辞儀をしながら2度目の自己紹介をする。
「花火の友人の、稲森 夕音です」
「あぁ…ご丁寧にありがとうございます。私は稲峰さんの同僚の、片倉 作夜です」
花火と対になる、私から見て左側に三つ編みをしている男性。黒い執事服に、灰色っぽい髪がよく映える。私は何か言うべきなのか、それとも仕事の邪魔をしないように座っているべきなのか迷う。そして、片倉さんの胸元に枯れかけのバラがさしてあるのが目に入った。来る途中にも見えたが、綺麗なバラや他の花々はたくさん咲いていた。何故、枯れかけた花をさしたままにしているのか、不思議に思った。片倉さんが寝室の方に向かうのを見て、私も追いかける。部屋と部屋の間で立ち止まり、口を開いた。
「…あの」
「はい?」
「あ、仕事をしながらで大丈夫です。少し、聞いても宜しいでしょうか」
「はい。お言葉に甘えて、仕事をしながらで良いなら」
「その胸のバラ、枯れかけてますけど…さし替えないのですか?」
「…!」
ベッドメイキング中の手を止めないまま、表情だけが固まった。それでも0.1秒もしない内に平静を装い、声の調子を変えずに話す。
「そうですね。そろそろ替え時ですね」
「…以前お見かけした時は、胸に花をさしていなかったと記憶しておりますが、バラに何か強い思い入れがあるのですか?」
「…いいえ、特には」
何だか尋問しているような気分だ。それでも、何かこれについては知らなくてはならない気がした。後少しで、片倉さんの心が伝わってくる気がするのだ。ところどころがオレンジや黄色に染まってしまったピンクのバラは、誰かに宛てた物だったのかもしれない。
「ピンクのバラは『しとやか、上品、可愛い人』などの意味があったかと」
「詳しいですね」
「少々、そのような知識を得る機会がありまして。…そして、確かバラには渡す本数の意味も存在しましたよね。それは元々、何本だったのですか?」
「…私が自分の趣味で胸にさしているとは、思いませんか?」
「思いません。私は花火から気になる話を聞いておりますので」
「気になる話、と言いますと?」
片倉くんはベッドメイキングから周りのカーテンや窓の掃除まで終え、私の方を振り返った。やっと思い出した。何故こんなにもバラが気になるのか。
「貴方が、『バラが好きな方に渡そうと思って』と言ったのを聞いたそうなんです」
「…え」
片倉くんの表情が、先程よりも分かりやすく止まる。
「どなたにお渡しになられたのかまでは聞いていないそうですが。その様子だと、渡していらっしゃらないのでは?」
「…ご明察です」
片倉さんは観念したように呟いた。
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