神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
277 / 812

11月14日 感情上下

しおりを挟む
最近、ここに来る頻度が高くなった気がする。一般市民なのに良いのか、と思いながら花火が戻ってくるのを待っている。扇様に会うのは苦痛ではない。むしろ楽しいし、新しい友人…と言ったらおこがましいかもしれないが、そういうのが増えるのは嬉しいものだ。
「…お待たせ、夕音。申し訳ないわね、休日に来てもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
何度来ても緊張する。緊張しなくなる方がおかしいとは思うが、それでも私は異常に早くなった胸の鼓動に焦りを感じる。聞こえてしまうのではないか、と思うほどに跳ね上がった心拍数は、そう簡単に抑えられるものではない。私はそれを顔に出さないように隠しながら、花火の後をついて行った。
「失礼します、花火です。夕音を連れて参りました」 
ガタンッ。ガタガタドタンッバタンッ。
「夕音!?」
おおよそ、ここの雰囲気には似つかわしくない音が響き渡った後、ドアが勢いよく開いた。ドア近くにいた花火が最も無駄のない動きで避けた後、扇様の姿を見て慌てて私を引っ張り、中に入れる。扇様は薄い布1枚をだらしくなくはだけさせていた。
「…お嬢様!!他のメイドが服を用意しておきましたでしょう!?何故そのような格好なのですか!」
花火の大きな声が部屋に響き渡る。扇様は猫のように体を縮めて、花火から目を逸らした。
「…だって…熱いんだもの…」
「外はもう冬に近付いています。お嬢様、そのままでは風邪をひいてしまいますわ」
「風邪ひいたら、看病してくれる?」
「私は学業優先とメイド長から仰せつかっております。学校があれば、看病には来られませんよ」
花火のばっさりとした態度に、明らかに頬を膨らませる扇様。花火は、はぁ、とため息をついて、切り札を話し出した。
「今日はあの方がいらっしゃる日ではないのですか」
花火の言葉に、ぴくっと扇様が反応する。数秒硬直した後、首だけを後ろに回して花火を赤い顔で見つめる。
「…なんでもっと早く言わないの」
昨日さくじつお伝えしましたわ。忘れてましたのはお嬢様です」
花火に何も言えなくなった扇様は、頬を戻すのを忘れて静かに呟いた。
「服、花火が選んで。こん様に見せるなら、花火のセンスが良いわ」
「かしこまりました。夕音、見苦しいところを見せてしまいましたね。お召し物を取って参りますので、お嬢様と少しの間話していてください」
「あ、はい…」
仕事モードだからか、敬語で話す花火に敬語で返してしまった。前に来た時よりも騒がしく、分かりやすく感情を示す扇様に、ふいに微笑みが漏れる。
「扇様、お久しぶりです。夕音です」
扇様は改めて私を認識して、更に顔を赤らめた。私が来たことを忘れていたのだろうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

こじらせ男子は好きですか?

星名柚花
青春
「好きです」「すみません。二次元に彼女がいるので」 衝撃的な文句で女子の告白を断った逸話を持つ男子、天坂千影。 良家の子女が集う五桜学園の特待生・園田菜乃花は彼のことが気になっていた。 ある日、菜乃花は千影に土下座される。 毎週水曜日限定販売のカレーパンを買うために階段を駆け下りてきた彼と接触し、転落して利き手を捻挫したからだ。 利き腕が使えないと日常生活も不便だろうと、千影は怪我が治るまでメイド付きの特別豪華な学生寮、0号館で暮らさないかと提案してきて――?

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

翼も持たず生まれたから

千年砂漠
青春
 中学三年生になったばかりの久保田奈緒は、塾帰りのある夜、古びた歩道橋の上で登校拒否児童で十一歳の白木星志に出会う。歩道橋の上から星空を眺めるのが好きだという実年齢より少し大人びた彼に惹かれた奈緒は、毎晩彼に会うために塾の帰りに歩道橋に立ち寄るようになった。  奈緒は誰にも言えなかった悩みを星志に打ち明け、更に彼と過す時間を大事にするようになったが、星志には奈緒にも打ち明けられない秘密があった。  お互いの孤独はお互いでしか埋められない二人。  大人には分かってもらえない、二人の心が辿り着ける場所は果たしてあるのか。  誰もが通る思春期の屈折の道に迷いながら進む彼らの透き通った魂をご覧ください。

若松2D協奏曲

枝豆
青春
若松高校2年D組 山本翠は友達に助けられながら、楽しく高校生活を送ります。 部活、友情、時々恋愛?

あなたのサイコパス度が分かる話(短編まとめ)

ミィタソ
ホラー
簡単にサイコパス診断をしてみましょう

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

【完結】待ってください

仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ルチアは、誰もいなくなった家の中を見回した。 毎日家族の為に食事を作り、毎日家を清潔に保つ為に掃除をする。 だけど、ルチアを置いて夫は出て行ってしまった。 一枚の離婚届を机の上に置いて。 ルチアの流した涙が床にポタリと落ちた。

それでも俺はあなたが好きです

水ノ瀬 あおい
青春
幼なじみの力也(リキ)から頼み込まれて啓南男子バスケ部のマネージャーになった吉井流星(ヨッシー)。 目に入ったのは睨むようにコートを見つめる女バスのマネージャー。 その姿はどこか自分と似ていると思った。 気になって目で追う日々。 だけど、そのマネージャーは男バスキャプテンのセイに片想いをしていた。 意外と不器用なヨッシーのバスケと恋愛。

処理中です...