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11月14日 感情上下
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最近、ここに来る頻度が高くなった気がする。一般市民なのに良いのか、と思いながら花火が戻ってくるのを待っている。扇様に会うのは苦痛ではない。むしろ楽しいし、新しい友人…と言ったらおこがましいかもしれないが、そういうのが増えるのは嬉しいものだ。
「…お待たせ、夕音。申し訳ないわね、休日に来てもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
何度来ても緊張する。緊張しなくなる方がおかしいとは思うが、それでも私は異常に早くなった胸の鼓動に焦りを感じる。聞こえてしまうのではないか、と思うほどに跳ね上がった心拍数は、そう簡単に抑えられるものではない。私はそれを顔に出さないように隠しながら、花火の後をついて行った。
「失礼します、花火です。夕音を連れて参りました」
ガタンッ。ガタガタドタンッバタンッ。
「夕音!?」
おおよそ、ここの雰囲気には似つかわしくない音が響き渡った後、ドアが勢いよく開いた。ドア近くにいた花火が最も無駄のない動きで避けた後、扇様の姿を見て慌てて私を引っ張り、中に入れる。扇様は薄い布1枚をだらしくなくはだけさせていた。
「…お嬢様!!他のメイドが服を用意しておきましたでしょう!?何故そのような格好なのですか!」
花火の大きな声が部屋に響き渡る。扇様は猫のように体を縮めて、花火から目を逸らした。
「…だって…熱いんだもの…」
「外はもう冬に近付いています。お嬢様、そのままでは風邪をひいてしまいますわ」
「風邪ひいたら、看病してくれる?」
「私は学業優先とメイド長から仰せつかっております。学校があれば、看病には来られませんよ」
花火のばっさりとした態度に、明らかに頬を膨らませる扇様。花火は、はぁ、とため息をついて、切り札を話し出した。
「今日はあの方がいらっしゃる日ではないのですか」
花火の言葉に、ぴくっと扇様が反応する。数秒硬直した後、首だけを後ろに回して花火を赤い顔で見つめる。
「…なんでもっと早く言わないの」
「昨日お伝えしましたわ。忘れてましたのはお嬢様です」
花火に何も言えなくなった扇様は、頬を戻すのを忘れて静かに呟いた。
「服、花火が選んで。紺様に見せるなら、花火のセンスが良いわ」
「かしこまりました。夕音、見苦しいところを見せてしまいましたね。お召し物を取って参りますので、お嬢様と少しの間話していてください」
「あ、はい…」
仕事モードだからか、敬語で話す花火に敬語で返してしまった。前に来た時よりも騒がしく、分かりやすく感情を示す扇様に、ふいに微笑みが漏れる。
「扇様、お久しぶりです。夕音です」
扇様は改めて私を認識して、更に顔を赤らめた。私が来たことを忘れていたのだろうか。
「…お待たせ、夕音。申し訳ないわね、休日に来てもらっちゃって」
「大丈夫だよ」
何度来ても緊張する。緊張しなくなる方がおかしいとは思うが、それでも私は異常に早くなった胸の鼓動に焦りを感じる。聞こえてしまうのではないか、と思うほどに跳ね上がった心拍数は、そう簡単に抑えられるものではない。私はそれを顔に出さないように隠しながら、花火の後をついて行った。
「失礼します、花火です。夕音を連れて参りました」
ガタンッ。ガタガタドタンッバタンッ。
「夕音!?」
おおよそ、ここの雰囲気には似つかわしくない音が響き渡った後、ドアが勢いよく開いた。ドア近くにいた花火が最も無駄のない動きで避けた後、扇様の姿を見て慌てて私を引っ張り、中に入れる。扇様は薄い布1枚をだらしくなくはだけさせていた。
「…お嬢様!!他のメイドが服を用意しておきましたでしょう!?何故そのような格好なのですか!」
花火の大きな声が部屋に響き渡る。扇様は猫のように体を縮めて、花火から目を逸らした。
「…だって…熱いんだもの…」
「外はもう冬に近付いています。お嬢様、そのままでは風邪をひいてしまいますわ」
「風邪ひいたら、看病してくれる?」
「私は学業優先とメイド長から仰せつかっております。学校があれば、看病には来られませんよ」
花火のばっさりとした態度に、明らかに頬を膨らませる扇様。花火は、はぁ、とため息をついて、切り札を話し出した。
「今日はあの方がいらっしゃる日ではないのですか」
花火の言葉に、ぴくっと扇様が反応する。数秒硬直した後、首だけを後ろに回して花火を赤い顔で見つめる。
「…なんでもっと早く言わないの」
「昨日お伝えしましたわ。忘れてましたのはお嬢様です」
花火に何も言えなくなった扇様は、頬を戻すのを忘れて静かに呟いた。
「服、花火が選んで。紺様に見せるなら、花火のセンスが良いわ」
「かしこまりました。夕音、見苦しいところを見せてしまいましたね。お召し物を取って参りますので、お嬢様と少しの間話していてください」
「あ、はい…」
仕事モードだからか、敬語で話す花火に敬語で返してしまった。前に来た時よりも騒がしく、分かりやすく感情を示す扇様に、ふいに微笑みが漏れる。
「扇様、お久しぶりです。夕音です」
扇様は改めて私を認識して、更に顔を赤らめた。私が来たことを忘れていたのだろうか。
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