神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
272 / 812

空港の記憶 海斗

しおりを挟む
俺がまだ小さい頃。具体的に言うと3、4歳の時。ほとんどの記憶はもう断片的にしか残っていないが、1番上の姉と別れた日のことははっきりと覚えていた。隣にいた2番目の姉、華陸はなむに手を握られて、ぼうっと立っていたのは空港。
「母さん、華陸、海斗…ごめんな」
そう言って父さんが俺を華陸と一緒に抱きしめた。父さんの後ろで、花凜姉ちゃんが困ったような表情をする。やがて俺と目が合い、寂しそうに笑った。
「嫌ですわ、お父さん。仕事の都合ですもの。花凜も自分の意思で付いていくと決めたわけですし」
母さんの声が、やけに耳についた。多分、この時俺は無意識に、花凛姉ちゃんと離れることに気付いていたんだと思う。だから父さんが俺たちを抱きしめる手を離した時、華陸から手を離して花凛姉ちゃんの方に飛び込んだ。仕事であまり遊べなかった父さんより、俺の話を聞いて褒めてくれる花凛姉ちゃんと離れる方が寂しかったからだ。
「海斗っ!」
「…姉ちゃん…」
花凛姉ちゃんの優しい声が、耳元で響く。抱きしめられながら、言葉に詰まった。俺は花凛姉ちゃんが寂しそうな表情をしてることに気付いていたから、何て言うのが正解なのか分からなくなった。華陸が後から俺を追いかけてきて、花凛姉ちゃんから俺を離した。泣きそうになるのを堪えていたら、花凛姉ちゃんがそっと俺の頭を撫でた。
「海斗、私は大丈夫だよ。いつか絶対帰ってくるから、それまで待ってて」
「…うん、おれ、待ってる」
「華陸も、海斗をよろしくね。お姉ちゃんがいなくても頑張れる?」
「うん、頑張るよ。私もお姉ちゃんだから」
「良い子だね、華陸。それじゃあ、そろそろ時間かな。お母さん、元気でね」
花凛姉ちゃんは父さんを引っ張って空港の奥に消えた。姿が見えなくなって、俺は泣き出した。我慢していたものが溢れ出てきた。花凛姉ちゃんの方が寂しいはずなのに笑っていたから、俺は我慢していたのだ。それでも、無理だった。そのまま笑い続けるのは無理だった。俺につられて、華陸も泣き出した。華陸は俺と2歳しか変わらない。花凛姉ちゃんは俺と4歳しか変わらないのに、凄く大人びて見えた。その後、母さんがそっと俺たちを抱きしめた。
「ほら、華陸と海斗が毎日笑って過ごしていれば、父さんと花凛が帰ってくるのはすぐよ。でも今日は泣きなさい。それで、明日からまた私に笑顔を見せてね」
その時の母さんの瞳が潤んでいたのを、よく覚えている。
これが、1番記憶に残っている昔のことだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

俺達は愛し合ってるんだよ!再婚夫が娘とベッドで抱き合っていたので離婚してやると・・・

白崎アイド
大衆娯楽
20歳の娘を連れて、10歳年下の男性と再婚した。 その娘が、再婚相手とベッドの上で抱き合っている姿を目撃。 そこで、娘に再婚相手を託し、私は離婚してやることにした。

連れ子が中学生に成長して胸が膨らむ・・・1人での快感にも目覚て恥ずかしそうにベッドの上で寝る

マッキーの世界
大衆娯楽
連れ子が成長し、中学生になった。 思春期ということもあり、反抗的な態度をとられる。 だが、そんな反抗的な表情も妙に俺の心を捉えて離さない。 「ああ、抱きたい・・・」

処理中です...