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シクラメンに生け替えて 花火
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「シクラメンならあちらの角にございます。私がやりましょうか」
「いいえ、大丈夫です」
庭師さんに話を聞き、角に咲くシクラメンの花を摘みに行く。シクラメンの花壇もきちんと手入れされていた。これだけ広い庭園なのに、ほとんど隅まで手入れがされていた。庭師さんは何人かいるが、もう若い人手は片倉くんしかいなかったはずなのに、とても綺麗だった。
キースが入ってから、でもなさそうなのよね。ずっと前から隅まで丁寧に手入れしてあったし。
そんなことを考えながらシクラメンの花を切る。花には申し訳ないが、扇様のために切らせてもらう。
綺麗なシクラメンの花が枯れないように、そっと茎を水に浸しながら運ぶ。運びながらため息が漏れる。くらくらする。考えすぎて頭が痛くなる。私が片倉くんを好きなのかもしれない…と一度、髪を直してもらった時に思ったけれど、今は違う気もする。あの時は精神的にも大分参っていたし、肉体的にもきつかった。そんな状況で庇ってくれたり、褒めて貰えば誰でもその人に好意を抱くだろう。だからこれはただの行為で、恋愛感情みたいにきらきらしたものじゃない。そう思った。
そうでなければ、こんなに胸が苦しいわけがない。会いたくない。キースと一緒にいれば良い。厳しいことをつい言ってしまう素直じゃない私より、可愛くて言うことを聞いて努力するキースの方が、片倉くんの隣には似合っている。
「…ふ、ぅ…」
水を入れすぎたのか、屋敷に運んできた時には大分疲れていた。扇様の部屋に花を持って行くと、そこに扇様の姿はなかった。多分稽古の時間だ。稽古中は他の使用人や先生方が見ているので、私は付いていなくて良い。基本のことを思い出して、花瓶から枯れかけた秋バラを取り出す。取り出したところで、どうしようもなく泣きそうになる。
片倉くんは誰に秋バラを渡すんだろう。キースだろうか。キースだろうな。他の使用人も片倉くんに好意を向けていたようだけど、片倉くんが名前を呼ぶところは見たことがなかった。だからキースが1番有力候補な気もする。
そこまで考えて、はっと我に返る。何故こんなに気になるのだろう。気にしたところで何にもならないのに。
私はさっさと花を生け替えて、部屋の掃除を他の使用人に任せ、先程まで行っていた扇様の服選びに戻る。それでも私の心のモヤモヤは晴れないまま、その日の仕事は終えた。
次の日からだった。私の周りで奇妙なことが起き始めたのは。
「いいえ、大丈夫です」
庭師さんに話を聞き、角に咲くシクラメンの花を摘みに行く。シクラメンの花壇もきちんと手入れされていた。これだけ広い庭園なのに、ほとんど隅まで手入れがされていた。庭師さんは何人かいるが、もう若い人手は片倉くんしかいなかったはずなのに、とても綺麗だった。
キースが入ってから、でもなさそうなのよね。ずっと前から隅まで丁寧に手入れしてあったし。
そんなことを考えながらシクラメンの花を切る。花には申し訳ないが、扇様のために切らせてもらう。
綺麗なシクラメンの花が枯れないように、そっと茎を水に浸しながら運ぶ。運びながらため息が漏れる。くらくらする。考えすぎて頭が痛くなる。私が片倉くんを好きなのかもしれない…と一度、髪を直してもらった時に思ったけれど、今は違う気もする。あの時は精神的にも大分参っていたし、肉体的にもきつかった。そんな状況で庇ってくれたり、褒めて貰えば誰でもその人に好意を抱くだろう。だからこれはただの行為で、恋愛感情みたいにきらきらしたものじゃない。そう思った。
そうでなければ、こんなに胸が苦しいわけがない。会いたくない。キースと一緒にいれば良い。厳しいことをつい言ってしまう素直じゃない私より、可愛くて言うことを聞いて努力するキースの方が、片倉くんの隣には似合っている。
「…ふ、ぅ…」
水を入れすぎたのか、屋敷に運んできた時には大分疲れていた。扇様の部屋に花を持って行くと、そこに扇様の姿はなかった。多分稽古の時間だ。稽古中は他の使用人や先生方が見ているので、私は付いていなくて良い。基本のことを思い出して、花瓶から枯れかけた秋バラを取り出す。取り出したところで、どうしようもなく泣きそうになる。
片倉くんは誰に秋バラを渡すんだろう。キースだろうか。キースだろうな。他の使用人も片倉くんに好意を向けていたようだけど、片倉くんが名前を呼ぶところは見たことがなかった。だからキースが1番有力候補な気もする。
そこまで考えて、はっと我に返る。何故こんなに気になるのだろう。気にしたところで何にもならないのに。
私はさっさと花を生け替えて、部屋の掃除を他の使用人に任せ、先程まで行っていた扇様の服選びに戻る。それでも私の心のモヤモヤは晴れないまま、その日の仕事は終えた。
次の日からだった。私の周りで奇妙なことが起き始めたのは。
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