神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
259 / 812

11月2日 疲弊した花火

しおりを挟む
勢いよくドアが開いた。
「…お…っおはよ…っ」
ドアを開けた本人である花火は息を切らし、ふらつく体をドアに寄りかかることで支えているようだった。私を始めクラスメイトは驚いて、花火に視線を集中させる。
「おはよう、花火…?」
花火は顔を上げて、疲弊しきった様子の体に鞭を打ち、自分の机に向かって歩き始める。しかし足をもつれさせ、後ろ向きに倒れる。
「危なっ…!!」
床に頭を打つギリギリで竜夜くんが支え、大事には至らなかったが、花火はそのまま気を失った。
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
「…っお嬢様!!」
花火は叫びながら飛び起きた。保健の先生の手伝いをしていた私も驚いて、うひゃあと変な声が出る。
花火は息を切らし、汗びっしょりになりながら目を見開く。焦ったように周りを見回し、私と視線があった後、ほっとしたようにため息を漏らす。
「…ここは…?」
「保健室だよ。花火、教室に入った瞬間倒れたから」
「い、今、何時…」
ふらふらしたまま、ベッドから出ようとする花火を慌てて支え、寝かせる。
「4時半だよ。放課後」
「…嘘…」
私の言葉に愕然とする花火。顔を押さえ、動揺を隠す。その指には絆創膏が何枚も貼られ、手の甲には赤い線が何本も走っていた。やがて落ち着いたのか、花火はぽつりぽつりと言葉をこぼした。
「…ありがとう、夕音。他の人にも迷惑かけちゃったわね…」
「私は大丈夫だよ。他の人も驚いてたけど、迷惑というよりは心配かけた、の方が正しいかな。だから早く元気な姿を皆に見せて」
「…うん」
泣きそうな声で呟き、頷く花火。
「あ、保健室まで運んだのは竜夜くんだよ」
「…そう、なの…?梶栗くんにお礼言わなくちゃ…」
「それは元気になってからね」
またもぞもぞと動き出そうとする花火を宥め、もう一度毛布をかける。
「…ねぇ、夕音」
「ん、何?」
優しく頭を撫で、花火を落ち着かせる。花火はぼーっと白い天井を見上げながら、ゆっくりと言葉を繋ぐ。
「…私、何かしたかしら」
涙声。私には意味が分からず、一瞬、頭を撫でる手を止めた。
「…新しい子がね、入って来たの。メイド見習いとして。私が指導任されたんだけど…その…仕事覚えが悪くてね。失敗が多くて。初めてだから仕方ないのかもしれないけど…」
「…うん」
「でも、教えたことのない庭仕事は上手くなってるの。最初にどのくらい出来るか能力を見た時には本気で嫌がってるように見えたし、経験があるようでもなかった。なのに、庭仕事だけは上手になってるの。教えてないのによ?なんでかなって…本当…」
ぼろぼろと大粒の涙が、花火の瞳からこぼれ落ちる。ずっと我慢していたのだろう。初めて聞く花火の愚痴に、私は付き合うことにした。
しおりを挟む

処理中です...