神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
258 / 812

10月27日 調べた文献

しおりを挟む
「はぁ…」
溜め息をついているのは花火。久しぶりに花火の姿を見た気がするのは、花火が1週間、仕事の方で学校を休んでいたからだろう。
「おはよう花火、どうしたの?」
「おはよう夕音。えーっと…ちょっと、ね…」
疲れた笑いを浮かべる花火。よく見ると青っぽい隈も出来ている。
「…仕事の方?」
「仕事…なのかしら…」
遠い目をして、悲しそうに目尻を下げる。
「…9月にさ…深沙ちゃんと青海川くんと扇様が会った時…色々あったじゃない?」
説明するのが難しいことが、確かにあった。私もその場にいたので、言いたいことは大体わかる。
「あの後、奥様や旦那様、長年働いていらっしゃる方に話を聞いたの。そしたら古い文献を見せてくださってね、そしたら…見つけたの。大火事で亡くなった女性の話」
「大火事…」
「年までは分からなかったのだけど…相当昔。名前の読みは分からなかったけれど、難しい字で…その女性の最も近しい護衛の名前が"舞茶"だったわ」
「舞茶…!深沙ちゃんの…」
花火は頷く。
「…突飛押しもない、ただの想像に過ぎないけれど…その時の先祖返りなのかもしれないわね。あの3人は」
「…そうかもしれないね。そう考えるのが、一番自然かも」
花火はびっくりしたような顔で私を見つめる。
「笑わないの?」
私は答える代わりに微笑んだ。私の表情で理解したのか、花火も微笑んで話を続けた。
「私、もうあそこで働き始めて…7年くらいかしら…になるのだけど、昔から扇様は、火と熱いものが駄目なのよね。理由は分からないらしいのだけど…」
「理由なく怖いものは前世の死因って言うし…」
「うん、それに随筆も残っていたの。あまり有名な方ではなかったのか、わざとお嬢様の家系が隠していたのかは分からないけれど…あの時、青海川くんが詠んだ句が文字として残ってたわ…ここまで証拠が揃うと、私も信じるしか…」
「…ねぇ花火、私の話も聞いてくれる?」
「…?うん…?」
「私、3人が会った後倒れたじゃない?あの時、夢を見たの。最初の場面は、暗闇の中で燃え盛る炎。叫ぶ少女。場面が変わって、畳の上に四肢を投げ出す女性」
「…それって…」
「うん、深沙と扇様の話に似てるの。私は、2人の前世…花火が見た文献の話が、夢に出てきたのかなって思ったの。現実にあった話が」
花火は目をぱちくりと瞬き、私の目をまっすぐ見つめた。
「私の方が突飛押しもない話でしょ?でも、今までの話も合わせるとあり得そうでしょ」
私は笑顔で言った。花火もふっと笑って、肩の力が抜けたようだった。
「ねぇ夕音?」
「何?」
「…ありがとう」
「何もしてないよ」
「ううん…ありがと」
「…どういたしまして」
窓の外で、木の葉がさらさらと揺れる音がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

俺の家には学校一の美少女がいる!

ながしょー
青春
※少しですが改稿したものを新しく公開しました。主人公の名前や所々変えています。今後たぶん話が変わっていきます。 今年、入学したばかりの4月。 両親は海外出張のため何年か家を空けることになった。 そのさい、親父からは「同僚にも同い年の女の子がいて、家で一人で留守番させるのは危ないから」ということで一人の女の子と一緒に住むことになった。 その美少女は学校一のモテる女の子。 この先、どうなってしまうのか!?

お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・

マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」 義姉にそう言われてしまい、困っている。 「義父と寝るだなんて、そんなことは

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

家政婦さんは同級生のメイド女子高生

coche
青春
祖母から習った家事で主婦力抜群の女子高生、彩香(さいか)。高校入学と同時に小説家の家で家政婦のアルバイトを始めた。実はその家は・・・彩香たちの成長を描く青春ラブコメです。

ロリっ子がおじさんに種付けされる話

オニオン太郎
大衆娯楽
なろうにも投稿した奴です

お嬢様、お仕置の時間です。

moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。 両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。 私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。 私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。 両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。 新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。 私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。 海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。 しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。 海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。 しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。

ドレスを着たら…

奈落
SF
TSFの短い話です

処理中です...