神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
上 下
256 / 812

10月21日 引っかかり

しおりを挟む
修学旅行1ヶ月前。班決め兼席替えが行われ、私は竜夜くんの隣になった。紗奈と代わろうとしたが、紗奈は「授業中まで隣にいたくない。やっかみ受けるから…嫌だ」と頑なに拒否した。大体後半が本音だろう。竜夜くんはよく告白されているのを見かけるほどに、女子からの人気が凄い。スポーツをやれば一目見ようと女子の人だかりと黄色い歓声が飛び交うのがお約束だ。ひっそりと人気の高い蒼くんとは正反対のモテ方だった。彼女持ちになっても未だ衰えないその人気に、由芽は「ネタが手に入る」と楽しそうに情報集めをし、霙はドン引きしていた。普段よく喋っている霙は「何故あんなにモテるのかよく分からない」と真顔で話していたのを思い出す。
一応竜夜くんは彼女がいるのを隠してはいない。しかし紗奈に負担が行くのを予想して、名前までは出していなかった。だから何も不思議では無いのだが、一昨日話した女の子、確か月宮降琉ちゃん、の言い方が引っかかる。竜夜くんの知り合いなのだろうか。少し、確認しておきたい。
私は由芽と仲が良いので、好奇心旺盛なところがミラーリングしてしまったように感じる。
「竜夜くん。あの、聞きたいことが…あるんだけど」
「ん?何?」
きょとんとした表情で私の方をまっすぐ見る竜夜くん。班内での話し合いが早めに終わったので、私達の班は自習という名の自由時間となっている。
「月宮 降琉っていう1年生、知ってる?」
「月宮…?」
竜夜くんは少し考え込むような仕草をして、もう一度口を開いた。
「部活の後輩に、いる…けど、何で?」
「えっと、前に月宮さんと少し話す機会があって、その時に竜夜くんが彼女さんと仲良いか聞かれて…」
「えっ」
「ちょっと気になったから…どうしたの?」
竜夜くんは少し怪訝そうな顔になった。そしてハッとして、困ったような顔をする。
「…えっと…誰にも言わないでくれよ?俺、月宮に告白されたことがあって…紗奈と付き合った日だったんだ…」
「えっ」
そういえば私が紗奈に花を渡した時、階段上に人の気配を感じた。確か、竜夜くんと後輩らしい女の子だったと思う。私は恋使となっていたので竜夜くんは知らないだろうが、私はほぼはっきりと見ていた。
「そう、なんだ」
「…うん。でもあんまり関わりないし…何でだろう…」
「よく分からないけど、まだ…」
まだ、好きなのかな。そう思ったけれど、私が竜夜くんに憶測で伝えるのは違う気がする。そして、その憶測も間違っているような気がした。
「まぁ、いいか。修学旅行楽しみだなあ」
「後1ヶ月だよ」
そんな風に話していたら、授業終了のチャイムが鳴った。
しおりを挟む

処理中です...