神様自学

10月3日 "見える"の理由 稲荷様

私の姿が見えるほどに霊力が高いヒトはごく稀にいる。私の元の使いもヒトだった。それは種族的な分類名だけで、細かく分けるとさらに複雑になっていく。一番複雑で厄介なのは人間関係だ。私は神と称される私たち同士でも、関係を築きあうことは滅多になかった。姉のように慕っていたあの方と、使いである彼奴あいつだけで満足だったのだ。それでも、姉神様には足りなかった。私より関係を築くのが上手く、優しくて寂しがりな姉上は、私たち二柱と一人の関係を結果的に壊してしまった。姉上に悪気があったわけではない。それは分かっているが、私はそのショックが大きすぎて、関係を築くのに臆病になっているんだ。だから、人間関係があまり複雑でなく、本人がその辺りにあまり悩みを抱えていないヒトを使いに選んだ。少し前に、蓮乃の双子の姉が神社に来た時、私は少しだけ姿を現した。懐かしい姿があったからだ。ずっと昔にも、似たような2人がこの神社に来た。あの時は2人で仲良く遊んでいて、母親はそれを微笑ましそうに遠くから見ていた。私は使いを探していた時だったから、少し力を感じて外へ出てみた。
…偶然なのか知らないが、私が出てみると母親はベンチで眠っており、周りに人影もなかった。当時の巫女だった霜月の女も見当たらなかった。私は辺りをきょろきょろと見回しながら神社の中を歩いた。すると2人に声をかけられ、思わず振り返ってしまった。私の姿が見えるのは、生まれつき力を持つ者だけにしていた筈だった。だから、驚いたのだ。そして同時に、使いとなれるかを見た。私は2人の関係と少し先の未来を見て、大体の"これから"を把握した。私が見える"これから"には、人間の感情が複雑に絡まり合う想定外の拗れ方は見えない。まだその人物が会ったことのない人物との関係を見ることは出来ない。ただ単純にどのようなトラブルが起こるか、それに今の人間関係がどう作用するか、それだけに焦点を当てて見ていた。
高校生になった2人を見た時、私が見た"これから"が当たったことに気付いた。やはり、お主ら2人は使いになってはいけなかった。気付けて良かった。大人のフリをしなくてはならない家庭環境で、子供らしさを外に出せずどこか欠けたままの状態で育ってしまった2人は、まだ幼さが残る。人間関係の距離が掴めないままだと、私を救いだと勘違いして自分の命を捨ててしまうのではないかと。そんな使いを持った神を見たことがある。だから2人を使いにはしなかった。そして、その判断は正しかった。私はそう信じている。
長く話してしまってすまぬ。問いの答えは、生まれつき見えたから、だ。夕音は、高校生になるまで姿を見ることは出来なかったようだがな。夕音は、音だけが聞き取れたようだ。こんなところで、話は終いにして良いか？