fruit tarte

天ノ谷 霙

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防犯部っ

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私達の学園には、ほとんどの人が知らない部活動がある。

「おい、テメェ調子乗ってんじゃねぇぞ」
「ウケるー」
「マジ笑える」
きゃははと無駄に高い笑い声が耳障りだった。
「つか、なんなの?…くんと仲良くなれちゃって、ラッキーとか思ってた?」
「あはっ…くんがあんたみたいなの相手にするわけないじゃーんっ」
「気付けないなんて、バカじゃない?」
「「そうかもー」」
私は、ひとつため息をつくとポケットからリモコンを取り出した。何も無いところへ、先を向けた。
「何してんの?」
「何それー」
「キモーイ」
きゃははっと、また笑い出した。私は疲れてきた。
「ねぇ、この学園にある、誰も知らない部活って知ってる?」
「はぁ?」
「何言ってるのー?」
「頭イかれちゃったんじゃない?あっ元からかーっ」
「正解は…」
一番大きいボタンを、最後まで押し切った。


刹那、
「な、なんだよ!?」
「いやぁ~着地失敗しましたねぇ~」
「煩いぞ水晶みあき
「すいませ~ん、部長」
煙の中現れたのは「水晶」と呼ばれた白っぽい服装の女の子と、「部長」と呼ばれた黒っぽい服装の女の子だった。対照的な色に見慣れていない人はそれが人間と認識できない。私はその中央で、左手に持った携帯を相手に見せるように持つ。
「証拠入手、完了」
私は機械的にそう言った。
「…っな、なんだよこれ!」
最近私をいじめていた女は、えらく高い声で叫んだ。後ろで気味の悪い笑いをしていた女ふたりも、顔を蒼白にして絶句していた。
「私達は、防犯部だ」
~*~*~*~*~*~*~*~*~*~
「いやぁ、ほーんと、疲れましたねぇ」
伸びをする水晶さん。疲れた、という言葉とは裏腹にご機嫌だった。呆れ顔でそれを見ていた部長が、思い出したように私を見た。
「…お前、大丈夫だったか?」
「何がですか?」
新しいリモコンをいじっていた私は、思考を巡らせずに返事をする。すると、あまり話すことが得意ではない部長が、話しだした。
「相手、結構高笑いしてただろ。精神的にくる言葉も使っていた。お前が一番きつい役割なんだ。だから、大丈夫か?」
「なんだ、そういうことですか」
私はきょとんとして答える。いじっていた機械を置き、温かい紅茶を一口。
「大丈夫ですよ。じゃないと先輩の後任なんて務まりませんし。何より…」
私はティーカップを置いて、立ち上がった。
「『防犯部証拠入手課』は、そんなか弱い精神を持っていないんですよ」
と笑った。

防犯部は、秘密主義の部活動。顧問の先生は一応いるけれど、ほとんど放任。だって、先生にも手に負えない程にずば抜けている何かがある者が集まっているから。
さっき私、「小羽こばね  なや」が言ったことについて説明する。
「防犯部行動証拠入手課」とは、常に最前線で情報を集め、証拠を記録して相手の弱みを握り従わせる課である。重要だしリスクは高いが、失敗は無い。先輩から受け継いだ技術で、陥れるのは大得意だ。
他の部員についても紹介する。
真響まゆら  水晶みあき」。防犯部情報処理ハッキング課。リモコンを作ったのも水晶だ。私と水晶は2年で同級生である。水晶はハッキング能力がずば抜けており、それ故なのか知らないが極度の甘党である。
部長の「厚真あつま  鋭愛とめ」先輩は防犯部部長兼裏工作課である。私が動けるのも、部長のお陰と言っても過言では無い。
そして、この春入部した「防犯部情報収集課」の久万目くまめ  甘夏あまなつである。顔が広く、人気もあるため情報を集めるのが早い。その為入部した(させられたともいう)。ありえないくらいの情報量を記憶し、勘が良いのか運が良いのか他人が弱味を見せる場面に出くわしやすい。
私達防犯部は、周りの人よりずば抜けた特殊才能がある。水晶以外の人は恥ずかしがって「とくさん」と呼んでいる。そんな部活だった。しかし、毎年防犯部に相応しい程の才能を持つ人がいるかというとそうでは無い。誰もいない時もあれば、3人もの才能を持つ人物がいる学年もある。私の学年はラッキーなことに二人、部長と甘夏ちゃんの代も一人は確保できたことから安定している。
「…水晶、何しているの」
怪訝そうな顔で尋ねると、水晶は「あぁ、これ?」といつも通りの口調で話し始めた。
「これね、甘くないから砂糖入れてるの。あたし太りにくいし」
そう言う水晶の手元を見ると、チョコレートがかかったドーナツに砂糖を山盛りになるまでかけていた。極度の甘党とはいえ、味覚に異常があることは間違いない。確かにチョコレートには苦いものもあるが、水晶が食べているのと同じものを私もさっき食べた。むしろ甘かったぐらいだ。それを甘くないと言い、砂糖をかける水晶に、私もドーナツを作ってきた甘夏ちゃんも困った。
「あのぅ、そのチョコレート、砂糖を入れたので甘い筈ですが…」
「全っ然、足りない!美味しいけど甘くないと食べられないよー!」
料理上手の甘夏ちゃんが可哀想。私はそう思ったが、防犯部にいる以上甘夏ちゃんも精神が強いし、水晶にならばたまに冷たくしても大丈夫だと理解している。そんな午後のティータイムだった。ふと後ろに気配を感じたので振り返ると、部長が無言で紙切れを渡してきた。部長は依頼の時や労う時以外あまり喋らない。
「依頼ですか?…これならすぐ終わりますね」
依頼者は若い女性の先生だった。交渉、依頼内容の確認担当である私は、紅茶を飲み干してすぐに先生の元へ向かった。

「最近、うちの高校生を狙った、えっと…連れ去りなどが増えていて…」
「なるほど。相手の特徴とかありますか?」
「女の子を狙っていて、同じ歳か少し上くらい、らしいです」
「了解しました。では依頼に取り掛かります」
私はメモに使っていた携帯を鞄に放り投げて、その場を去る。が、ドアに手をかけた時、呼び止められた。
「相手は携帯を持っていて…脅されたと聞いています。被害を受けた子が、泣きながら話してくれました」
「…わかりました。携帯、ですね」
携帯ならば、連絡先を残している可能性が高い。もしかしたら、アルバムの中に脅迫用写真を残しているかも。武術を使おうかとおもったが、今回はハッキングの方が良いみたいだ。私達防犯部の存在を知らない無知な人々に、知らしめなくてはならない。私達の学園の生徒に手を出したらどうなるかを、教えなければならない。
ガラッと扉を開け、私が出て行く前とほとんど変わらない様子でいる部員に声をかける。
「仕事だよ。今回は、水晶。頼んだ」
「はぁい。どんなお仕事なの~?」
「説明するよ。相手は同じ歳か少し上くらいの男性。この学園の女生徒を狙っている」
「え、それじゃあ武術の方が良いのでは…」
甘夏がそう言うのを手で遮り、私は続ける。
「今回は少し、勝手が違う。最近よくあるけど、携帯を持っていて脅迫用写真を撮っている可能性がある。だから…」
情報処理ハッキングの方が良い、ってこと、ね」
「察しが良いな。そうだよ」
「でも、水晶先輩のお身体が…」
甘夏が引かないので、水晶について勘違いしているのではないかと聞こうとすると、部長が口を挟んだ。
「…大丈夫だ。水晶だって防犯部。人並み以上には動けるよ」
「舐められやすい見た目ですからねぇ。相手の油断を誘うにはやりやすいでしょ~。それに、納さん。リモコンのお礼に守ってくれるって言ってたよね。それ、信じてるよぉ~」
「ん、分かってるよ」
にやにやと笑う水晶の頭をくしゃっと撫でる。水晶は安心したように、頬を緩めた。
「決行はいつ出来る?」
「今からでも大丈夫だよぉ。まぁ、相手の携帯の機種次第ってところかな。機種によっては…まぁ、長くても1時間ってところかなぁ」
「それだけで出来るなら上出来。それじゃ私と甘夏ちゃんでどこに出るかの目星をつけるよ。行くよ、甘夏ちゃん」
「あ、は、はいっ」
私は甘夏ちゃんを連れて、被害者だという生徒の話を聞かせてもらう。依頼者である先生に呼んでもらい、生徒である事がバレないよう少しだけ変装して話を聞く。それだけだ。
「私達は、貴方をこんな目に合わせた人を許せません。だから、捕まえるチャンスを私達に下さい」
私が、会話に繋ぐための前置きを言う。あとはずっとメモ。傷ついて閉ざそうとする心を開くのは、甘夏ちゃんの得意とするところだ。いくつかの会話を終えて、ようやく被害者の生徒は話し出した。時折、ひっくと涙をこぼしながら。
「あたしが…帰ってるとき、でした…。部活で疲れたので、早く帰りたいと思いながら駅に急いでいると…途中で何かに躓きました…。起き上がろうとしたら、知らない男性に『怪我してるね。手当してあげる』と抱き抱えられてしまいました…。地面に足がついていないので、抵抗むなしく、人気のない場所に…」
「…いつも部活が終わるのはいつですか?」
「…6時半です…」
私はちらりと時計を確認する。6時前を指しているのが見えて、今からでも捕まえられそうだ。
「…っあ、たし…」
甘夏ちゃんは、震えるその子の手を、優しく、そしてぎゅっと握った。
「大丈夫です。今日そいつらは捕まります。そいつらが捕まったら、頭を踏み潰してやりましょう」
甘夏ちゃんは優しく微笑んで、スッと立ち上がった。念のために先生に確認すると、他に話してくれた生徒も、似たような状況だったという。
「これは、黒だね」
「黒ですね」
水晶に状況を詳しく伝えると、水晶はスカートを少しだけあげた。
「んじゃあ、私が囮になって携帯も押さえるから、警察だとかその辺は宜しくねぇ」
6時半に水晶が学校を出る。私達は暗闇に隠れながら、静かに相手を待つ。果たして今日、来るのだろうか。
「…っきゃ!?」
水晶が、何もないはずの場所で躓く。もしかして、と目を凝らすと、そこには黒い服を見にまとった男達がいた。
「大丈夫?あ、怪我してるじゃん。俺たちが手当てしてあげるよ」
水晶のピアスに仕込んだ盗聴器で、何を話しているのかを聞き取る。
「結構で…」
結構です。そう言い終わらない内に、水晶は抱き抱えられ、連れ去られた。私達は後を追う。私達も似たような黒の服を着ているせいか、気付かれてはいないようだ。
「やめてよ!大丈夫だってば!」
「ほらほら、暴れるともっと痛くなっちゃうよ?」
そんな会話が聞こえる。水晶はさりげなく手を縛られていて、身動きがとりづらそうだ。それでも、縛られた時に取りやすいように仕込んだ携帯で、近くの携帯を簡単にハッキングしていく。私のリモコンに情報が伝わってくる。
〈以上〉の文字が見えて、私は鋭愛先輩に伝える。ハッキング終了の合図。あとは水晶を救うだけ。私達は外で待つ。男達が隙を見せる瞬間を、水晶は知らせてくれる。私達はそれを待つ。
廃屋のような場所に、ぽつぽつと明かりが見える。きっと、そこにいる。近付こうとした瞬間、声が聞こえた。私の片耳に繋がれたイヤホンから、水晶の声が。
『助けて、納さん』
私は、鋭愛先輩と甘夏ちゃんに合図を送り、駆け抜ける。そのまま勢いを殺さずに、廃屋に飛び蹴りをかました。
「なんだ!?」
「おい、誰だ!!」
「あーぁ」
慌てる男達の後ろで、不敵に笑う水晶。
「私達がいる学園の生徒に、よくも手を出してくれたわね」
蛇のように目を見開いて、私は男達に近付いていく。私に注目が集まっている間に、水晶はするりと自分の手を縛っていた縄を解く。
「お、お前ら!こいつらも捕まえちまえ!」
リーダーと思わしき男が指示を出す。周りの男達が叫びながら、パイプや縄を持って私に襲いかかってくる。
それは、一瞬の出来事。私の左右は甘夏ちゃんと鋭愛先輩が。後ろは水晶が。一捻りだった。
「…馬鹿じゃないのぉ?あたし達に勝てるとでも思ったぁ?」
水晶が煽る。リーダーは顔を赤くしてパイプを振り回しだした。甘夏ちゃんと鋭愛先輩は他の男達を淡々と片付け始める。
「うるせぇぇええええええええええ!!」
私はするりと、太腿に付けたホルダーからリモコンを取り出す。そのリモコンを男の耳元に持って行き、ボタンを押す。爆音が響き渡った。
「鼓膜は破れてないと思うから安心しなさい。破ってやっても良かったんだけど」
爆音のせいでふらつく男を床に押し付け、後ろで手を縛る。他の男達ももう戦闘不能のようだ。
「そろそろね」
眩い光と共に警察が現れた。壁際に縛り付け、証拠としてロックを解除した携帯と録音した音声を並べておく。一人の警察官が私達に気付いて、話しかける。
「貴方たちが被害者ですか?」
「いいえ?上に聞けばわかると思いますが…私達は防犯部です」
代表して私が答える。警察官はきょとんとした顔をしたが、奥の方にいるお偉いさんのような人物は、私達の方に近づき、冷や汗をかいていた。
「まさか…あの?」
「今回の被害者が、私達の学園の生徒だったもので、依頼が来ていたんです。状況等は私達が答えますので、被害者である生徒達には何も聞かないでください」
「…し、しかし…」
若い警察官が渋ったが、上司であろう警察官に制され、何も言わなくなる。
「ありがとうございました。今回も、これを記事にするのは控え、そして新人にも防犯部の話をしておきますので…」
「了解。あんまり舐めた奴が出て来たら…まぁ、分かってますよね?」
ひんやりとした空気。後ろで水晶が携帯をチラチラ見せているのが分かる。焦ったらしい上司の警察官が、フォローする。
「わ、分かっておりますとも!後は我々にお任せください!後日、お話を聞きにいくかもしれませんので、それまで宜しくお願いします」
そんな会話を終えて、私達は学校に戻る。服やバッグを置いて出て来ていたのだ。
「にしても、携帯の写真。ハッキングしている時に見えちゃったんですけど、ひっどいのばっかでしたよ~」
水晶はいつもの調子で喋っているつもりなのだろうが、同級生も狙われた事件だったので、心のどこかで嫌悪感を抱いているようだ。水晶だって、私達が一歩でも遅かったら同じ目にあっていたかもしれない。それなのに、私と部員を信じて。私の名前を、私との約束を覚えて。
「水晶、無理すんな。泣きたかったら泣けば良い。どうせ駅まで一緒だ。慰めてやるよ」
私の不器用な言葉に、水晶は震えながら涙をこぼした。鋭愛先輩も少し震えて、目が赤くなっている。甘夏ちゃんは苦笑いを浮かべているが、あまり良い気分ではないらしい。私だってそうだ。同じ学園の同じ学年の生徒までが狙われた。しかもひ弱な女子ばかり。許せない。どうせ警察に答えるのは私と水晶だ。水晶は被害者として接するが、私は女子生徒の代理であり、心の声だ。だから、覚悟しなさい。
「もう夜遅いですよ。帰りましょう」
「…だな」
「ほら、水晶。泣いてても良いから歩いて」
「ひっくぅ…ごめっ…、納さぁぁん…」
帰り道、防犯部4人の声が響いていく。
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