オンボロアパート時計荘の住人

２０３号室 鍋島 あかね②

　ドアで見えなくてもダンダンダンという、恐らくは拳が階段から落ちている音と


「ウワァァァ！！！」


彼の悲鳴は聞こえた。

私も三木さんも四宮さんも無言で固まっている。


「どうしたんですかっ？」

「何事だっ？」

「…なんスか？」


１階に住む男性住人が３人とも出てきて、最初に動いたのは三木さんだった。


「二見さん、五条さん、一ノ瀬さん！

事故で階段から人が落ちました！」


事故と言い切っていいのかは疑問だが、私は口を挟めなかった。

三木さんの言葉を聞いて


「僕の勤め先の病院に運びましょう！

誰か車はありませんか？」


看護師の二見さんが真っ先に動く。


「それなら俺の車がアパートの裏にあるんで、それで病院に行きましょう！

多分、救急車呼ぶより早い！」


会社員の五条さんが仕事柄必要なのか、車を所持しているようだ。


「…男手がいるだろうから自分も手伝うッス。」


意外にも自宅警備員の一ノ瀬さんも彼らに協力するらしい。

五条さんが車を取りに行っている間に


「こちらが落ち着いたら連絡するんで部屋で待っててください！」


二見さんは意識のない拳の手当てをしながら、三木さんに伝えた。

その後、アパート前に車を着けて男性３人がかりで拳を乗せて病院に走りだした。


私が原因で起こった事なのに、全てがスローモーションみたいで他人事のようだった。


「…鍋島さん、１人でいるのが怖かったら一緒に部屋で待ちませんか？」


三木さんだって怖かっただろうに私を気遣ってくれている。


「…それなら、ウチも一緒に待つ。

何が何だかワケ分かんないから。」


四宮さんが最後の押し出しをしたからか少し震えていた。


「…２人共ありがとうございます。

お言葉に甘えて一緒に私の部屋に来てください…」


ようやく言葉が出せるぐらいには、少し恐怖が収まったようだ。


三木さんと四宮さんを部屋に上げて、３人分の飲み物を出す。

まだ震えが止まらない私の代わりに三木さんが私の事情と、今日の一部始終を説明してくれた。


「…ナニソレ、完全に運が悪いピタゴ◯スイッチじゃん！」


四宮さんの例えに思わず笑いが少し漏れる。

でもそのまま会話が盛り上がる状況ではなかったので、３人ともほぼ無言のまま彼らの帰りを待った。


それからおよそ３時間後、車のエンジン音とアパートの階段を上ってくる音が聞こえる。

…まさか、拳じゃないよね！？


「三木さーん、二見です！

どちらにいらっしゃいますか？」


二見さんの声を聞いて三木さんが玄関に向かった。


「すいません、二見さん。こちらです。

あの男性はどうなったんですか？」


彼女はドアを開けるなり二見さんに尋ねる。


「…それがですね、打ち所が悪かったみたいでお亡くなりになりました…」