1 / 16
203号室 鍋島 あかね
しおりを挟む私、鍋島 あかねは今日からこのアパートで暮らす。
アパートの入り口の薄汚れた塀に『時計荘』と、かろうじて読めるプレートが付いている。
アパート自体も築50年は軽く過ぎているだろうと推測できる位オンボロだ。
…だが贅沢は言ってられない。
私はDV彼氏から逃げる為に役所の人に勧められて、この時計荘に避難しているからだ。
その為に派遣で勤めていた会社に事情を説明して辞めて、貯金を切り崩して暮らしていかねばならない。
事情が事情なので役所の人曰く、生活保護費が少しもらえるそうな。
とても、ありがたい。
私には頼れる家族も友人もいないからだ。
実父は私が幼い頃に亡くなり数年後に母は再婚して妹が生まれてからは、私は家族の枠の外だった。
虐待をされた訳ではないが、疎外感から逃れたくて高校を卒業してすぐに家を出た。
派遣で職を転々としながら7年、今ではこの有様だ。
母ともこの7年、連絡したのは片手で数えられる。
そんな私の心の隙に付け込んできたのが先述のDV彼氏ー粕田 拳だ。
医療事務で働いていた派遣先の病院で患者で来ていた拳に言葉巧みに口説かれて、あっという間に絆されて付き合ってしまった。
そして愚かにもコイツと同棲まで始めてしまう。
一緒に暮らしだして、すぐに奴は馬脚を露わした。
口説いていた時の優しさは消え失せて、服で隠れる場所を殴る蹴るの毎日だ。
住民票を取りに役所に行った今日、私と同じ年ぐらいの役所の女性にDVを見抜かれた。
これ幸いと彼女に相談すると、自分の住んでいるアパートが空いているから大家に相談して一時入居ができないか聞いてみると言ってくれたのだ。
そして大家から許可が出て、着の身着のままここに来て今に至る。
時計荘は2階建ての1階に3室ずつなので、全部で6部屋ある。
階段側から1号室になっていて、私の部屋は2階の一番奥。
つまり203号室だ。
驚くことに203号室以外は入居者がいるらしい。
…オンボロアパートなりに、何かしらの需要はあるのだろう。
「すぐに必要な物はあたしが後から買ってきますので、鍋島さんは家の中でゆっくりしてて下さいね!」
私にここを紹介してくれた彼女ー三木 恵さんに促されて、私は203号室に入った。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
最後の一行を考えながら読むと十倍おもしろい140文字ほどの話(まばたきノベル)
坂本 光陽
ミステリー
まばたきをしないうちに読み終えられるかも。そんな短すぎる小説をまとめました。どうぞ、お気軽に御覧ください。ラスト一行のカタルシス。ラスト一行のドンデン返し。ラスト一行で明かされる真実。一話140字以内なので、別名「ツイッター小説」。ショートショートよりも短いミニミニ小説を公開します。ホラー・ミステリー小説大賞に参加しておりますので、どうぞ、よろしくお願いします。
隅の麗人 Case.1 怠惰な死体
久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。
オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。
事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。
東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。
死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。
2014年1月。
とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。
難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段!
カバーイラスト 歩いちご
※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。
ARIA(アリア)
残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……
深淵の迷宮
葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。
葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる