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第二章 旅立ち編

第60話 勇者ルナ

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 翌日

 今俺は王城地下深くにいる。いくつもの隠し扉を抜けて階段を降り進んでいく。どのくらいの深さまで来たのかもう分からない。

 同行しているのは聖女ソフィア様、イーグリア国王オスカー様、王妃アメリア様、伝説の剣士ステラさん、そして俺。

 な、なんだこの伝説のパーティーは。俺だけなんか場違い感がある。

 ちなみに聖女ソフィア様に初めてお会いした時は驚いた。どうみても俺と同じかちょっと上ぐらいの年齢にしか見えない。紫色の髪で清楚なお嬢様のような雰囲気のソフィア様。
 結界魔法で自分の肉体の老化を防いでいるのだとか。それと同じ方法で勇者様とアレク様の肉体も保存しているらしい。そして、勇者様、アレク様の周囲に厳重な結界を張り、誰にも見つけられないようにしているらしい。さらに二人の存在がバレないように、王城全体にも大きな結界を張ってあるらしい。
 王城全体の結界に俺は全く気付かなかったことを話すと、この結界は王城を守るための物では無く、あくまでも二人の存在を徹底的に隠して認識させない為の結界だから気付ける人はいないとのことだった。

 少し広めの部屋に辿り着いた時、ソフィア様の足が止まった。
「着きました。ここです」

 そして、ソフィア様が長い詠唱を始める。

 俺は詠唱を聴きながら、念のため完全記憶師匠の力で詠唱を全て覚えておいた。

 数分後、


 二つの棺が現れる。

「ご主人様っ!」
 ステラさんが悲痛な声をあげる。

 俺は棺を確認する。

 俺が最初に見た方には、赤い髪の20代前半ぐらいに見えるビックリするほどイケメンの男性が眠っている。整った端正な顔立ち。鮮やかな赤い髪。身長は180㎝以上はありそうだ。
 この方がアレク様か。

 そして勇者様がいるであろう、もう一方の棺に目を向ける。

 そこには1人の青髪セミロングの美女が寝ていた。美女は見た目20歳ぐらい。160㎝ぐらいだろうか。胸も大きめの抜群のスタイルであった。こんな綺麗な人見たことがない…………





 見たことない???


 いや………いつも見ている………






 俺は驚愕した…………………………







 ユ、ユヅキ………………………?



 そう。そこに眠っていたのはユヅキだった。




 な、なぜユヅキが………………



 俺は全く理解できなかった。




 その時、突然ユヅキが叫ぶ!!!

『あさひ!だ、だめ。離れてしまう…………あさひーーーーーーー!』

 ユヅキの突然の叫び、俺は【創造眼】で【ルーム】を確認する。


 ユ、ユヅキが【ルーム】から消えてしまった。


(ユヅキ!ユヅキ!どこだ!ユヅキー!)

 俺は必死に念話でユヅキに声を掛ける!!!






 その時、勇者ルナ様が目を覚ます。

 皆、驚愕の顔をする。

 ソフィア様もオスカー様もアメリア様もステラさんも、突然の出来事に声が出ない。


 勇者ルナ様が体を起こし、声を出す。


「ソフィア、オスカー、アメリア、ステラ、そしてあさひ。今まで私とアレクを守ってくれてありがとう」

 その声は俺のよく知ってる声。いつだって俺を助けてくれ、励ましてくれ、支えてくれた声。

 ユヅキの声………………

 俺は固まって動けない………………


「ル、ルナ…………」
 ソフィア様が声を絞り出す。目から涙が溢れている。

「ルナ………呪いが解けたのね…………」
 アメリア様が涙を流している。

「うおおおおおお!ルナーーーーーー!」
 オスカー様が激しく雄叫びを上げ、涙を流す。

「ル、ルナ様!よ、良かったです。ハッ!ご主人様は!?」

 ステラさんも涙を流して喜び、アレク様も目覚めたかどうか確認した。


「ア、アレクは!アレクはなぜ起きないんだ!あさひ!ルナの呪いを解いてくれたのはおまえか!?アレクの呪いも解けるんだよな!!??」

 オスカー様が俺に掴み掛かる。

 俺はただ呆然としていた。な、なぜユヅキが。勇者ルナ様…………


「オスカーやめて。あさひから手を離して。全て分かったわ。これから説明する」

 ゆ、勇者ルナ様が俺のことを知っている………
 その時、俺に念話がくる。
(あさひ、これから説明するわ。私はダーリンの中にいたユヅキであり、勇者と呼ばれたルナよ。落ち着いて聞いて。みんなにも説明する)

(わ、わかった。ユヅキ…………)

 俺はユヅキの声を聞き少し落ち着いた。咄嗟にルナ様とは言えずユヅキと呼んだ。


「私がこれから話すことはみんなの胸にしまっておいてほしい」

 各々が頷き返事をする。

 ルナ様。いや、ユヅキの説明が始まった。

「話は大魔王バレルと戦っていた時にさかのぼるわ。私達は激しい戦いの末、なんとか大魔王バレルを倒した。倒したはずだった。私達は喜び、安堵し油断していた。しかし、バレルは生きていた。バレルは最後の力を使い、私を道連れにしようとした」

「ここまではみんなも同じ認識だと思う」

 ソフィア様、オスカー様、アメリア様、ステラさんは頷く。

 ユヅキの説明は続く。

「あの時バレルはどうやったのかは分からないけど、私の魂を体から剥ぎ取り消滅させようとした。咄嗟のことで私は何も抵抗できなかった。

 だけど、あの時ただ一人だけ、アレクだけそれに気付いた。アレクも咄嗟の判断だったと思う。肉体から剥ぎ取られ、消滅させられそうになった私の魂をアレクは自分の魂の中に取り込んでバレルから私を守ろうとした。

 それに気付いたバレル。今度はアレクの魂ごと私を消滅させようとした。

 アレクは抵抗していた。しかし、バレルの最後の攻撃は防ぐことが出来るようなものではなかった。

 アレクは【テレポート】のような、あれは【テレポート】とは違う。もっともっと莫大な魔力を使っていた転移魔法でその場から逃げようとした。

 バレルとアレクの計り知れない魔力は拮抗していた。そして大きな光に包まれて………」


 「あの光は私達も見たわ」
 アメリア様が言うと、皆も同意した。


 「この後は私の仮説よ。膨大な魔力のぶつかり合いの中、アレクは制御不能な状態で転移魔法を発動した。でも、それは私を守る為に私の魂を取り込んだアレクの魂だけの転移。肉体を置き去りにしてしまった」

「た、魂だけの転移………つまり呪いでは無かったと………」

 ソフィア様が小声で言う。


「そう。呪いではなかったの。アレクが私を逃がすためにしてくれた転移」

「ご主人様…………」
 ステラさんが呟く。


「そしてここから先の話。ステラには話したわね。なぜそうなったのか分からない。信じられないかもしれないけど、アレクの魂は異世界、地球という星の日本という場所に転移した。そして、なぜそうなったのかはわからないけど、アレクとアレクに守られた私の魂はその世界の新堂あさひの肉体に入った。これは私の感だけど、創造神様が助けてくれたとしか思えないわ」

 「魔力の暴走の爆発の影響か。転移の影響か。肉体を失った影響か。原因は分からないけど、アレクも私も完全に記憶を無くしていた。新堂あさひとして生まれ変わったことは転生になるのかしら。その後、アレクは日本で新堂あさひとして18年生きていた。そして、事故によって死にそうになったところ、創造神様の介入により、この世界に転移して戻って来た。その時【創造眼】と創造神様の【加護】を授かった。なぜ、ステラのところに転送したかはわからない。創造神様の計らいだと思う。ステラならきっとあさひを助けてくれると思ったのかもしれない。ごめんなさい。それは私にはわからない」

「そ、創造神様………」

「そんなことが………とても信じられない。信じられないけど………」


「つまり、あさひ様の魂はご主人様ということですか!?」
 ステラさんが声をあげる。

 そう、ユヅキの話を聞きながら途中から俺はそうではないかと思っていた。合う全てが合致する。細かいところで疑問はあるが、大筋合致してしまう。あくまでも、ユヅキの仮説に基づいている部分もある。

 つまり、

 勇者ルナ様の魂がユヅキ。

 魔王アレク様の魂があさひ。つまり俺。


 で、でも俺はユヅキのようにアレクの体に戻れていない。そしてアレクの体に俺の魂が入ったら、新堂あさひはどうなってしまうんだ………魂の無い体になってしまう。

 ルナ様が話を続ける。

「そうよ、ステラ。ではここでなぜ私はこの体に戻れて、アレクは戻れないのかという疑問がでてくる」
 そう、今俺はそれを考えていた。

「恐らくだけど、アレクの魂があさひの肉体に完全に定着しているからじゃないかと思う。アレクの魂というよりはあさひの魂になっている感じがする。私もあさひの肉体を使うことはあった。でもアレクに比べて極々僅かな時間。だからすんなり戻ったのかもしれない………」

「私は戻ってきたけど、実は今この体を使うことに違和感はあるの。ルナとしての記憶も戻った。ユヅキとしての記憶もある」

 皆沈黙している………状況を理解するのに必死なのかもしれない。



 その時、ユヅキから念話がくる。ここから俺とユヅキは思考加速先生の力を借りて高速のやりとりを始める。


(あさひ、【創造眼】を使ってアレクの肉体の【ルーム】を探して!今私は【神眼】であさひの【ルーム】を見ることができる。きっとあさひなら見つけられる)

 ルナの両眼が神々しく青く光っている。

(分かった。やってみる!)
 俺は【創造眼】を使う。金色に眼が輝く。このメンバーならバレてもいい。全力で【創造眼】に魔力を込める。アレクの肉体を見る。

 集中してよく見る。集中集中集中。

(ユヅキ!見つけた!)

(さすがね。ダーリン!じゃあ、そのアレクの肉体の【ルーム】に入るイメージを強く持って転移してみて。私もここからサポートする!)

(で、でもアレクに転移したら、この今の俺の体は………)

(大丈夫!私に考えがある!ユヅキちゃんに任せなさい!あさひがアレクに戻ったらきっと同じこと考えるわ!)

 俺はユヅキを信用する。いつだってユヅキは俺の味方だ。ユヅキが大丈夫というなら大丈夫だ。

 俺は金色に、ユヅキは青色に、二人の両眼が大きく輝く!


「き、奇跡の光が…………」

 ソフィアが呟いている。オスカーとアメリアは呆然とみている。ステラは祈るようにしている。


(ユヅキいくぞ!)

(ええ、ダーリン!)


………………

 俺の魂はアレクの体に戻った。



………………




 ………ああ、全て、全て思い出した。

 俺は第五魔王アレクソールであり、新堂あさひ。


 全ての記憶が繋がる。



 そして、俺は目を開けた。

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