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 王太子殿下が国境沿いから帰還するとの便りを受け取り、最近はもっぱら訪問される側だった私達夫婦ですが、訪問する側として支度をしています。

 メイドに鼻息荒く訪問用のドレスの中でも一番良いものを着せられました。髪の毛のセットと化粧もいつも以上に気合が入っています。
 王太子殿下との関係は「政敵ではあるが不仲というわけではない」と伺っていたのですが、使用人の様子を見ると、本当にそうなのか疑ってしまいます。私は友好的にいきたいと思います。できれば傍観者に徹したいといつもながら思っていますが、生憎今回も話題の中心にいました。


「叔父上! ようこそおいでくださいました」
 王太子殿下と、国境沿いまで同伴していた王太子妃殿下に出迎えられる私達二人。王太子殿下は旦那様に似ていて、より人好きのする面立ちをしている方でした。王太子妃殿下は夫よりも年上の方で、落ち着かれた印象を受けます。知られる通りの美貌の持ち主でした。

「あら。隣の方はどなた?」
 王太子妃殿下は私の方を見て首を傾げました。私のこと、ご存知の筈ですが。

「王弟夫人のテオドラと申します」
「ふうん」
 名乗っても反応はいまいち。初対面で既に嫌われてしまったのでしょうか。

「南東の帝国から来たと聞いていたから、もっと物珍しい方なのかと思っていたわ。案外普通ね」
 文化は違えども、民族的には近い筈ですからそれはそうですとしか。多少なりとももてなそうと思っていたらお世辞のような言葉を掛けられるはずですから、これは友好的なスタートとはいえなさそうです。

「そういえば、叔父上の披露宴も盛大に執り行われたとか。捕らえたトラレス侯爵から没収した財産で催したのですか?」
「冗談を。トラレス侯爵の財産はすべからく国庫に入ったとも。私の懐には硬貨一枚すら入っていない。全て自費だ」
 こちらでも火花が散っていました。本当に仲が悪いわけではないのですか?

「私の代へ国庫を潤して下さって誠にありがたいですね」
「全て自分のためにやったことだ。それと、未来の王妃のために」
 王太子妃殿下の眉がピクリと動きます。未来の王妃……旦那様はきっと私のことを指したのでしょうが。

「未来の王妃って、もちろんわたくしのことでしょう? なぜだか、そこの異国の女人のことのように聞こえてしまうのだけれど」
「王の妃となるべき人物は、もちろん私の妻のテオドラただ一人だろう」
「わたくしにはそう思えませんわ。だって、どうやら王弟殿下は誰が王になるかを間違えていらっしゃるみたいですもの」
 ああ。もう。胃が痛いです。
 伯爵邸で争いに巻き込まれていた日々がフラッシュバックしてしまいました。ここで言い争いをするより、どちらが継承するべきかを有耶無耶にしないできちんと話し合うべきだと思うのです。そうもいかないのが現実なのでしょうけど……。
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