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1章 闘技大会
9.開戦
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20時まであと30秒……20秒……10秒……。
穴が開くほど時計を見つめるスラストは、開戦の時刻をただ待った。
20時ちょうど。まだ始まらない。
「オーバータイムです」
ユキカゼが遅延を告げる。まあ、よくあることだ。
20時の30秒を過ぎたあたりで、ようやく戦闘開始の電子音が鳴った。
各陣地を覆っていた透明な壁が消え、プレイヤー達は武器を構えて一斉に飛び出していく。
スラストはアルストロメリアのパワージェネレーターへ向かう攻撃部隊の一人として、先陣を切って向かっていた。
VCの声に耳を傾けるが、未だにアルストロメリアなどの他陣営は発見していないらしい。
盾職はHPと防御力が高いため、多少の戦線離脱は許容される。スラストはややスピードを上げて部隊の前方に出た。
偵察に行くとチャットを打ち、視線を会場である深い森林の木立の向こうに巡らせ、ミニマップと交互に見ながら進むと…………いた。どこの所属かはわからないがミニマップには敵だと表示されているプレイヤーだ。
方角は4時、距離は約50メートル。
ロイヤルナイトで遠距離の相手の裏を取るのは難しいが、可能だ。
移動スキルと縮地でまず相手の真横に一気に出た。相手も既にこちらを認識し、先攻するスラストに対して待ちの姿勢で構えている。
やはりアルストロメリアのプレイヤーだ。知らない名前だから新人とみえる。職は……武器が見えない。拳法士か。
モーションをキャンセルすると、十八番のランスチャージを曲げて拳法士をすり抜け、振り返ってキャッチから弱めのコンボを入れて記念すべき初キルだ。ロイヤルナイトのコンボ一発で倒せるほど柔らかいということは、やはり新人か。バフもそれほど炊いていなかったから、偵察係なんだろう。
本隊の大軍と遭遇すると秒殺されることは火を見るよりも明らかなので、スラストは近くの木陰でしゃがみ込んで仲間が追いつくのを待った。
「アルストロメリア一人発見。拳法士、4時の方向から。もう倒したけど本隊いるかもしれないです」
「スラストさんありがとうございます~。攻撃部隊は集合してアルストロメリア方面行きましょう」
VCのミュートを解除して簡潔に報告、再びミュートに戻す。ミニマップに味方を示す点が集まり、方向に近寄ってくるのを確認するとスラストはその場に立ち上がった。
集合した味方と共に進軍するとまもなく、ミニマップにも視界にも敵が複数現れた。
おそらくこれが本隊だろう。
しかし、本隊というには数が少ないな……。
やはり大部分のプレイヤーは防衛に回っているのか。
「敵2パーティーと交戦中。どうしますか」
「アタッカー残して盾ヒラはジェネレーター行きましょう」
「おけです」
アタッカーはその場で敵を相手取り、スラスト達は先に進む。
どうにも敵の集合が甘いと思ったが、アルストロメリアのパワージェネレーターはすぐ近くにあったようだ。防衛には先程交戦したよりも多くの人員が配置されている。単騎で突っ込むのは無謀だろう。が、ヒットアンドアウェイでいけば生還は可能と判断し、スラストは敵攻撃が当たるか当たらないかくらいのところに立ち、盾でガードの姿勢をとった。
矢が飛んできたが、ランスチャージの発動の方が少し早い。手前にいた敵集団に突っ込んで、PvEの時のようにスーパーアーマーのスキルを使って散々殺し散らかした挙句とんぼ返りをうった。
背後からは味方の矢と魔法が降り注いで殺し損ねたプレイヤーの残り体力を削る。スラストは後続の盾にバトンタッチをして一度戦列の後ろの方に退却しHPの回復とCT明け待ちをした。回復したらまた前線を掻き乱しては戻り、掻き乱しては戻りを何度か繰り返しているうちに戦線がジリジリと前進していっているのが感じ取れる。そうなればもうわざわざ戻る必要はない。
アルストロメリアのパワージェネレーター付近まで殴り込みをかけ、ジェネレーターごと敵プレイヤーに攻撃を与え続ける。反撃が来そうになればジェネレーターを盾として、殴りながらうまいこと周りをグルグル回っていれば被弾しない。スラストを執拗に付け狙うプレイヤーは遠距離職がマークして潰してくれるため、敵の処理も比較的簡単だ。
(総与ダメージ量とキルデスを見るのが楽しみだ)
自陣側にも他陣営やアルストロメリアから何人か送り込まれているらしいが充分排除できているらしい。指揮はこのままアルストロメリアを総攻撃で削り切る決定をしたため、段々と最前線にも増援が増えてきた。
パワージェネレーターは現在6割。削り始めてから2分でこれだ。かなりのスピードといえる。スラストの耳にもアルティメットスキルを使ったという報告が次々に入り、その分だけ削りも大きくなる。もうあと3割だ。
「アルストロメリア終わったら防衛部隊は一旦自陣戻っちゃってください! 攻撃部隊は今うちに攻撃ちょこちょこ来てる『冥華』を攻めます。集合場所まで来たらすぐ行って大丈夫です。生存優先で!」
削れると踏んでユキカゼが指示を飛ばす。スラストは冥華攻めだ。
アルストロメリアのパワージェネレーターは残り2割。アルストロメリアの復活は間に合っていない。
残り1割。スラストはあとの削りを仲間に任せて集合場所の方まで一足早く駆けていった。
ギルド:アルストロメリアをギルド:Vanguardが撃破────
SEとともにシステムメッセージが流れ、自分達の勝利を認識する。開戦から僅か7分後のことだった。
穴が開くほど時計を見つめるスラストは、開戦の時刻をただ待った。
20時ちょうど。まだ始まらない。
「オーバータイムです」
ユキカゼが遅延を告げる。まあ、よくあることだ。
20時の30秒を過ぎたあたりで、ようやく戦闘開始の電子音が鳴った。
各陣地を覆っていた透明な壁が消え、プレイヤー達は武器を構えて一斉に飛び出していく。
スラストはアルストロメリアのパワージェネレーターへ向かう攻撃部隊の一人として、先陣を切って向かっていた。
VCの声に耳を傾けるが、未だにアルストロメリアなどの他陣営は発見していないらしい。
盾職はHPと防御力が高いため、多少の戦線離脱は許容される。スラストはややスピードを上げて部隊の前方に出た。
偵察に行くとチャットを打ち、視線を会場である深い森林の木立の向こうに巡らせ、ミニマップと交互に見ながら進むと…………いた。どこの所属かはわからないがミニマップには敵だと表示されているプレイヤーだ。
方角は4時、距離は約50メートル。
ロイヤルナイトで遠距離の相手の裏を取るのは難しいが、可能だ。
移動スキルと縮地でまず相手の真横に一気に出た。相手も既にこちらを認識し、先攻するスラストに対して待ちの姿勢で構えている。
やはりアルストロメリアのプレイヤーだ。知らない名前だから新人とみえる。職は……武器が見えない。拳法士か。
モーションをキャンセルすると、十八番のランスチャージを曲げて拳法士をすり抜け、振り返ってキャッチから弱めのコンボを入れて記念すべき初キルだ。ロイヤルナイトのコンボ一発で倒せるほど柔らかいということは、やはり新人か。バフもそれほど炊いていなかったから、偵察係なんだろう。
本隊の大軍と遭遇すると秒殺されることは火を見るよりも明らかなので、スラストは近くの木陰でしゃがみ込んで仲間が追いつくのを待った。
「アルストロメリア一人発見。拳法士、4時の方向から。もう倒したけど本隊いるかもしれないです」
「スラストさんありがとうございます~。攻撃部隊は集合してアルストロメリア方面行きましょう」
VCのミュートを解除して簡潔に報告、再びミュートに戻す。ミニマップに味方を示す点が集まり、方向に近寄ってくるのを確認するとスラストはその場に立ち上がった。
集合した味方と共に進軍するとまもなく、ミニマップにも視界にも敵が複数現れた。
おそらくこれが本隊だろう。
しかし、本隊というには数が少ないな……。
やはり大部分のプレイヤーは防衛に回っているのか。
「敵2パーティーと交戦中。どうしますか」
「アタッカー残して盾ヒラはジェネレーター行きましょう」
「おけです」
アタッカーはその場で敵を相手取り、スラスト達は先に進む。
どうにも敵の集合が甘いと思ったが、アルストロメリアのパワージェネレーターはすぐ近くにあったようだ。防衛には先程交戦したよりも多くの人員が配置されている。単騎で突っ込むのは無謀だろう。が、ヒットアンドアウェイでいけば生還は可能と判断し、スラストは敵攻撃が当たるか当たらないかくらいのところに立ち、盾でガードの姿勢をとった。
矢が飛んできたが、ランスチャージの発動の方が少し早い。手前にいた敵集団に突っ込んで、PvEの時のようにスーパーアーマーのスキルを使って散々殺し散らかした挙句とんぼ返りをうった。
背後からは味方の矢と魔法が降り注いで殺し損ねたプレイヤーの残り体力を削る。スラストは後続の盾にバトンタッチをして一度戦列の後ろの方に退却しHPの回復とCT明け待ちをした。回復したらまた前線を掻き乱しては戻り、掻き乱しては戻りを何度か繰り返しているうちに戦線がジリジリと前進していっているのが感じ取れる。そうなればもうわざわざ戻る必要はない。
アルストロメリアのパワージェネレーター付近まで殴り込みをかけ、ジェネレーターごと敵プレイヤーに攻撃を与え続ける。反撃が来そうになればジェネレーターを盾として、殴りながらうまいこと周りをグルグル回っていれば被弾しない。スラストを執拗に付け狙うプレイヤーは遠距離職がマークして潰してくれるため、敵の処理も比較的簡単だ。
(総与ダメージ量とキルデスを見るのが楽しみだ)
自陣側にも他陣営やアルストロメリアから何人か送り込まれているらしいが充分排除できているらしい。指揮はこのままアルストロメリアを総攻撃で削り切る決定をしたため、段々と最前線にも増援が増えてきた。
パワージェネレーターは現在6割。削り始めてから2分でこれだ。かなりのスピードといえる。スラストの耳にもアルティメットスキルを使ったという報告が次々に入り、その分だけ削りも大きくなる。もうあと3割だ。
「アルストロメリア終わったら防衛部隊は一旦自陣戻っちゃってください! 攻撃部隊は今うちに攻撃ちょこちょこ来てる『冥華』を攻めます。集合場所まで来たらすぐ行って大丈夫です。生存優先で!」
削れると踏んでユキカゼが指示を飛ばす。スラストは冥華攻めだ。
アルストロメリアのパワージェネレーターは残り2割。アルストロメリアの復活は間に合っていない。
残り1割。スラストはあとの削りを仲間に任せて集合場所の方まで一足早く駆けていった。
ギルド:アルストロメリアをギルド:Vanguardが撃破────
SEとともにシステムメッセージが流れ、自分達の勝利を認識する。開戦から僅か7分後のことだった。
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