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1章 闘技大会
6.葛藤ともいえないような
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今日もスラストはVanguardの決闘場へ来ていた。洛叉とほか何人かのメンバーと幾度か刃を交え、丁度対戦を終えたところだった。
最初から良かったスラストの戦績は、回数を重ねるごとに向上している。少し余裕ができると、以前は完璧だと思っていた自分自身の欠点を見つめ直すこともできるようになっていた。
明らかに臨時加入前よりもプレイヤースキルが上がっている。良い傾向だ、とスラストは満足げに頷いた。闘技大会までの関係なのだから、その分密度の高い時間を過ごした方がいいだろう。
Vanguardと臨時契約を結んでから、元の星系に戻るのも面倒という理由で拠点内でログアウトしていたため、今回もそうやってログアウトしようとしたのだが、寸前になって一通の個人チャットに気付く。誰からかと思えば、革命的敗北主義者からだった。時間は……30分前か。スラストは遅れながらも返信を打つ。
『最近あんま会ってないけど、モチベ下がったとかか?』
『今見た。拠点行く』
『了解。俺も拠点行くわ』
スラストは浮遊する銀色の直方体から勝手に洛叉のホバーバイクを借り、ジャングルを抜けて発着場まで向かうと乗り捨てて宇宙船に乗り換え、申し訳程度に洛叉へ「ホバーバイク発着場に置いた」と個人チャットを送った。
宇宙船同士のPvPにはあまり興味のないスラストの宇宙船は、多くの同様のプレイヤーと同じように速度特化だ。コックピットに搭乗すると、視界いっぱいにややこしい表示が現れる。スラストはそれらを全て無視して「自動操縦」の箇所にチェックを入れると、音声を切って音楽を聞いていつもの星系に到着するのを待った。
青や緑の惑星が多い中で、どんよりとした灰色の惑星が近づいてくる。排気ガスとビルに地上を覆われた色だ。スラスト達四人が拠点にしている惑星へ宇宙船はどんどん近付き、大気圏へ突入する。そこを抜ければ、空から星全体を一望できた。灰色の靄に包まれてぼんやりとした姿しか見えない星は、ところどころが照明の灯で光っている。さらに近寄れば、色とりどりのネオンや電光掲示板のギラギラとした明かりが曇った街をどぎつく照らし、ディストピアな未来都市を彩っていた。
発着場に降りたスラストは宇宙船を降りて鍵をかけると、いつものパブへと歩みを進める。スラストの名前の隣の髑髏のマークはもう付いていなかったが、たむろするプレイヤー達は水色髪のサイバネティック・エルフを視界に捉えると、取り出した武器をしまっていそいそと退散していくのだった。
何度も曲がり角を曲がり、スラム近くの裏路地に向かう。薄暗い星の、さらに暗い通りにあるネオンの看板を見つけて扉を押して店内に入った。
そこには予想通り、スペースノイドの男がいる。
「よう、スラスト。お前にしてはあり得ないくらい真面目くさった顔してるな」
「そうか?」
デフォルトのままで、キャラメイクに一切のやる気が感じられないスペースノイドの男──革命的敗北主義者の隣のカウンター席に座る。スラストはどうにも落ち着かず、座った丸椅子をくるくると回しながら革命的敗北主義者の話を聞くことにした。
「最近別星系にいるから何か心境の変化でもあったのかと思ったんだが、どうした」
「それか。闘技大会の集団戦でVanguardに所属することになったからな。Vanguard拠点の決闘場に入り浸ってんだよ」
スラストがVanguardと臨時契約を結んで闘技大会に出ることを確定的敗北主義者に伝えると、納得して頷いた。
「Vanguardに? それは見かけないわけだ。じゃ、やっぱり戻るのか」
「いや、戻んねえよ。今のところは戻る気はねえ」
きっぱりと言い切るスラストに、革命的敗北主義者は意外そうな顔をした。
「そう言う割には、楽しそうに語ってるぞ。格下をPKしている時の数倍はな」
「まあ格下PKは大して面白くないからな。仕方なくやってるだけだ」
椅子の動きは止めないまま、スラストは肩をすくめて応えた。今度まじめな顔になったのは革命的敗北主義者の方だった。
「スラスト、俺はお前のこと割と不誠実な奴だと思ってるんだけど」
「オイ」
「変なところで真面目だよな。俺もピンクのおっさんも、たぶんパインキラーもだろうが、みんな一つのゲームの一つのコミュニティだけが居場所なわけじゃないぞ。Vanguardに戻るなら誰も止めないし、ゲームは楽しむためにやるものだ。お前は引きこもりだから疎いかもしれないけど、リアルだって苦しむために生きてるわけじゃない。やりたいことならやっとけ」
古くからの付き合いである革命的敗北主義者に諭され、それもそうだとスラストは思ったが、人の感情は複雑なもので、心の底では、結局バランスよく人付き合いするのは難しいんだからどちらかを選ぶしかないだろうとも考えていた。
決闘ならともかく、スラストはレスバトルではむしろ弱い方だ。考えを言語化しようとしてしばらく黙った後「……そうかもな」とだけ返事をした。
最初から良かったスラストの戦績は、回数を重ねるごとに向上している。少し余裕ができると、以前は完璧だと思っていた自分自身の欠点を見つめ直すこともできるようになっていた。
明らかに臨時加入前よりもプレイヤースキルが上がっている。良い傾向だ、とスラストは満足げに頷いた。闘技大会までの関係なのだから、その分密度の高い時間を過ごした方がいいだろう。
Vanguardと臨時契約を結んでから、元の星系に戻るのも面倒という理由で拠点内でログアウトしていたため、今回もそうやってログアウトしようとしたのだが、寸前になって一通の個人チャットに気付く。誰からかと思えば、革命的敗北主義者からだった。時間は……30分前か。スラストは遅れながらも返信を打つ。
『最近あんま会ってないけど、モチベ下がったとかか?』
『今見た。拠点行く』
『了解。俺も拠点行くわ』
スラストは浮遊する銀色の直方体から勝手に洛叉のホバーバイクを借り、ジャングルを抜けて発着場まで向かうと乗り捨てて宇宙船に乗り換え、申し訳程度に洛叉へ「ホバーバイク発着場に置いた」と個人チャットを送った。
宇宙船同士のPvPにはあまり興味のないスラストの宇宙船は、多くの同様のプレイヤーと同じように速度特化だ。コックピットに搭乗すると、視界いっぱいにややこしい表示が現れる。スラストはそれらを全て無視して「自動操縦」の箇所にチェックを入れると、音声を切って音楽を聞いていつもの星系に到着するのを待った。
青や緑の惑星が多い中で、どんよりとした灰色の惑星が近づいてくる。排気ガスとビルに地上を覆われた色だ。スラスト達四人が拠点にしている惑星へ宇宙船はどんどん近付き、大気圏へ突入する。そこを抜ければ、空から星全体を一望できた。灰色の靄に包まれてぼんやりとした姿しか見えない星は、ところどころが照明の灯で光っている。さらに近寄れば、色とりどりのネオンや電光掲示板のギラギラとした明かりが曇った街をどぎつく照らし、ディストピアな未来都市を彩っていた。
発着場に降りたスラストは宇宙船を降りて鍵をかけると、いつものパブへと歩みを進める。スラストの名前の隣の髑髏のマークはもう付いていなかったが、たむろするプレイヤー達は水色髪のサイバネティック・エルフを視界に捉えると、取り出した武器をしまっていそいそと退散していくのだった。
何度も曲がり角を曲がり、スラム近くの裏路地に向かう。薄暗い星の、さらに暗い通りにあるネオンの看板を見つけて扉を押して店内に入った。
そこには予想通り、スペースノイドの男がいる。
「よう、スラスト。お前にしてはあり得ないくらい真面目くさった顔してるな」
「そうか?」
デフォルトのままで、キャラメイクに一切のやる気が感じられないスペースノイドの男──革命的敗北主義者の隣のカウンター席に座る。スラストはどうにも落ち着かず、座った丸椅子をくるくると回しながら革命的敗北主義者の話を聞くことにした。
「最近別星系にいるから何か心境の変化でもあったのかと思ったんだが、どうした」
「それか。闘技大会の集団戦でVanguardに所属することになったからな。Vanguard拠点の決闘場に入り浸ってんだよ」
スラストがVanguardと臨時契約を結んで闘技大会に出ることを確定的敗北主義者に伝えると、納得して頷いた。
「Vanguardに? それは見かけないわけだ。じゃ、やっぱり戻るのか」
「いや、戻んねえよ。今のところは戻る気はねえ」
きっぱりと言い切るスラストに、革命的敗北主義者は意外そうな顔をした。
「そう言う割には、楽しそうに語ってるぞ。格下をPKしている時の数倍はな」
「まあ格下PKは大して面白くないからな。仕方なくやってるだけだ」
椅子の動きは止めないまま、スラストは肩をすくめて応えた。今度まじめな顔になったのは革命的敗北主義者の方だった。
「スラスト、俺はお前のこと割と不誠実な奴だと思ってるんだけど」
「オイ」
「変なところで真面目だよな。俺もピンクのおっさんも、たぶんパインキラーもだろうが、みんな一つのゲームの一つのコミュニティだけが居場所なわけじゃないぞ。Vanguardに戻るなら誰も止めないし、ゲームは楽しむためにやるものだ。お前は引きこもりだから疎いかもしれないけど、リアルだって苦しむために生きてるわけじゃない。やりたいことならやっとけ」
古くからの付き合いである革命的敗北主義者に諭され、それもそうだとスラストは思ったが、人の感情は複雑なもので、心の底では、結局バランスよく人付き合いするのは難しいんだからどちらかを選ぶしかないだろうとも考えていた。
決闘ならともかく、スラストはレスバトルではむしろ弱い方だ。考えを言語化しようとしてしばらく黙った後「……そうかもな」とだけ返事をした。
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