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21.問答の魔王
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魔王アザゼル。
クエレブレから1度聞いたことがある名だ。所在地不明とのことだったが、もしかしたらこいつが知っているかもしれない。
レメクと名乗った少年姿の魔族を見下ろし、俺は名乗るべきか名乗らないべきか迷った。結局何も喋らずに無反応で返すこととなる。
「ふ、ふ。魔族を目の前にして、声も出ませんかぁ? 長耳族のお兄さーん。ボクのナワバリを管理させてた奴らを殺した、わるーい賞金稼ぎを探してるんだよねぇ。知ってる?」
俺だ。
魔族様が背後にいるとかなんとか言っていたが、その魔族様っていうのがこいつのことか。
「それは俺だが。報復のつもりかよ?」
「べっつに。でもまあ、魔族をナメてたらどうなるか──教えてあげようと思ってね」
ちっちっと指を振り、片腕を広げて答える。呆れるような仕草だな。
「探す手間が省けてよかった。人生最後に何か言いたいこととか、あったらどうぞ!」
人生最後? それはそちらの台詞では。こんな稚拙な魔法を使い、俺を長耳族だと思っている時点で実力はたかが知れているが。
「アザゼルはどこにいる?」
言うに迷って、単刀直入に聞きたいことを聞いた。が、まあ答えてはくれない。小馬鹿にしたように笑って大袈裟に肩をすくめてみせられた。
「それで教えると思ってる? ていうか、お兄さん誰。紫ランクにはいなかったし……。もしかして、伝説の金ランク? それともそれとも、魔族に故郷を滅ぼされて復讐を誓ったとか! ボクのこと魔族ってすぐに見破っちゃうくらいだから、結構強いのかなぁ?」
見事なまでに考察が掠ってすらいない。もしかしたら、この問答に意味はないかもしれないと思い始めてきた。
「さっきから質問が多い。1つにしろ」
「お兄さんこそ、質問を質問で返してると思うんだけど?」
「…………」
埒があかなさそうだ。結局アザゼルのことについては教えてくれそうにもないしな。
「ねぇねぇ。じゃ、質問いっこだけなら答えてくれるってことだよね」
「ああ」
人生最後に、訊きたいことがあるなら答えてやらんでもない。
「……お兄さん、なんで魔力抑えてるの?」
「…………は?」
何を言っている。
魔力を抑える?
全然理解していないという表情の俺に、レメクは顎に手を当てて考えるようなポーズを取る。
「長耳族も魔力多いんだけどさ、君の魔力量ってボクの力をもってしても、ちょっと底が見えなさすぎるんだよね。それで、なんでかわかんないけどお兄さん、魔力を自分の力で抑制してるみたいなんだよね。ボクじゃないと抑えてるかどうか感知すらできないと思うんだけど。もしかして……お兄さんも魔族、とか?」
レメクの口の端が歪み、鋭い犬歯が露わになった。冗談のつもりか、それとも真にそう思っているのか。得意げに捲し立てる様子からは真偽が見抜けない。
俺は勇者に首枷で魔力を封じられた。なら抑えられているというこいつの見立ても間違ってはいないのかもしれない。だが、そうじゃないだろう。
要するに、俺自身が魔力を封じていると。
首枷の効果ではなく。
確かにこれは魔法が込められている類いのものではなかった。
本当の効果は、俺に魔力が使えないと思い込ませることだったのか……?
「なーに、余所見してるの。ふふ、折角だからぁ……お兄さんの悩みのもの、首ごと壊してあげる」
考えを巡らせていると、レメクが小さな指をパチンと鳴らした。
鎧の下で金属の壊れる音がする。
重力系の土属性魔法を使ったようだが、俺はもちろん鎧にもダメージはない。
壊れたのは首枷だけか。今までの自分が馬鹿丸出しすぎて嫌になってくるほど、脆い。
「って、全然効いてないんだけど……?」
魔法を使ったレメクは、首を落とすと豪語したにも関わらず俺が無傷なのを見、焦りの表情を浮かべていた。
「お前、弱すぎ」
今度は俺が嘲笑する番だった。
俺の思考は、首枷が壊れたことで魔法が使えるようになったのかどうかにほとんど割かれていた。目当ての魔王情報は貰えないし、アレーナなど街の人達の状況も気になる。
もうこいつに構う必要はないか。
「…………本気で、殺すから!」
「できないだろ」
俺に指をさしながら、子供特有の甲高い声で激昂するレメク。大規模な魔法を展開しながら俺と相対するのは些か無謀じゃないか?
「喰らえっ!!」
中空に浮かび、俺と距離を取る。掌から無数の球状魔法──つまり魔弾を生成し、こちらに弾幕として射出した。
弱い。当たっても平気だな。
追尾機能の付与されたそれを完全に無視し、魔弾が俺に到達するより先にレメクに肉薄すると、小柄な魔族の首を360度回転させ、貫手で心臓を貫いて完全に絶命させる。念のため頭を踏み潰した。
こいつがどうかは知らないが、少なくとも俺は再生能力が高い。再生を阻止するために念入りに殺しておく必要があった。
これでセバルドをモンスターに襲撃させていた魔法は停止しただろう。街を一応は救ったことになるのか? いや、既に壊されていたからそうはならないかもしれない。
疑問点はまだ残る。しかし今は、それよりも優先するべきことがある。
原型を留めていない死体を手にぶら下げ、襲撃は終わったことを報せに行こう。
イルマに場所を教えてもらった避難所がいいだろう。アレーナとクエレブレや、エイブラハムさんのところに行くのはその後だな。
早く避難所に行かないとな。
イルマが指で示してくれた方…………。
「……避難所の方角、どっちだ?」
クエレブレから1度聞いたことがある名だ。所在地不明とのことだったが、もしかしたらこいつが知っているかもしれない。
レメクと名乗った少年姿の魔族を見下ろし、俺は名乗るべきか名乗らないべきか迷った。結局何も喋らずに無反応で返すこととなる。
「ふ、ふ。魔族を目の前にして、声も出ませんかぁ? 長耳族のお兄さーん。ボクのナワバリを管理させてた奴らを殺した、わるーい賞金稼ぎを探してるんだよねぇ。知ってる?」
俺だ。
魔族様が背後にいるとかなんとか言っていたが、その魔族様っていうのがこいつのことか。
「それは俺だが。報復のつもりかよ?」
「べっつに。でもまあ、魔族をナメてたらどうなるか──教えてあげようと思ってね」
ちっちっと指を振り、片腕を広げて答える。呆れるような仕草だな。
「探す手間が省けてよかった。人生最後に何か言いたいこととか、あったらどうぞ!」
人生最後? それはそちらの台詞では。こんな稚拙な魔法を使い、俺を長耳族だと思っている時点で実力はたかが知れているが。
「アザゼルはどこにいる?」
言うに迷って、単刀直入に聞きたいことを聞いた。が、まあ答えてはくれない。小馬鹿にしたように笑って大袈裟に肩をすくめてみせられた。
「それで教えると思ってる? ていうか、お兄さん誰。紫ランクにはいなかったし……。もしかして、伝説の金ランク? それともそれとも、魔族に故郷を滅ぼされて復讐を誓ったとか! ボクのこと魔族ってすぐに見破っちゃうくらいだから、結構強いのかなぁ?」
見事なまでに考察が掠ってすらいない。もしかしたら、この問答に意味はないかもしれないと思い始めてきた。
「さっきから質問が多い。1つにしろ」
「お兄さんこそ、質問を質問で返してると思うんだけど?」
「…………」
埒があかなさそうだ。結局アザゼルのことについては教えてくれそうにもないしな。
「ねぇねぇ。じゃ、質問いっこだけなら答えてくれるってことだよね」
「ああ」
人生最後に、訊きたいことがあるなら答えてやらんでもない。
「……お兄さん、なんで魔力抑えてるの?」
「…………は?」
何を言っている。
魔力を抑える?
全然理解していないという表情の俺に、レメクは顎に手を当てて考えるようなポーズを取る。
「長耳族も魔力多いんだけどさ、君の魔力量ってボクの力をもってしても、ちょっと底が見えなさすぎるんだよね。それで、なんでかわかんないけどお兄さん、魔力を自分の力で抑制してるみたいなんだよね。ボクじゃないと抑えてるかどうか感知すらできないと思うんだけど。もしかして……お兄さんも魔族、とか?」
レメクの口の端が歪み、鋭い犬歯が露わになった。冗談のつもりか、それとも真にそう思っているのか。得意げに捲し立てる様子からは真偽が見抜けない。
俺は勇者に首枷で魔力を封じられた。なら抑えられているというこいつの見立ても間違ってはいないのかもしれない。だが、そうじゃないだろう。
要するに、俺自身が魔力を封じていると。
首枷の効果ではなく。
確かにこれは魔法が込められている類いのものではなかった。
本当の効果は、俺に魔力が使えないと思い込ませることだったのか……?
「なーに、余所見してるの。ふふ、折角だからぁ……お兄さんの悩みのもの、首ごと壊してあげる」
考えを巡らせていると、レメクが小さな指をパチンと鳴らした。
鎧の下で金属の壊れる音がする。
重力系の土属性魔法を使ったようだが、俺はもちろん鎧にもダメージはない。
壊れたのは首枷だけか。今までの自分が馬鹿丸出しすぎて嫌になってくるほど、脆い。
「って、全然効いてないんだけど……?」
魔法を使ったレメクは、首を落とすと豪語したにも関わらず俺が無傷なのを見、焦りの表情を浮かべていた。
「お前、弱すぎ」
今度は俺が嘲笑する番だった。
俺の思考は、首枷が壊れたことで魔法が使えるようになったのかどうかにほとんど割かれていた。目当ての魔王情報は貰えないし、アレーナなど街の人達の状況も気になる。
もうこいつに構う必要はないか。
「…………本気で、殺すから!」
「できないだろ」
俺に指をさしながら、子供特有の甲高い声で激昂するレメク。大規模な魔法を展開しながら俺と相対するのは些か無謀じゃないか?
「喰らえっ!!」
中空に浮かび、俺と距離を取る。掌から無数の球状魔法──つまり魔弾を生成し、こちらに弾幕として射出した。
弱い。当たっても平気だな。
追尾機能の付与されたそれを完全に無視し、魔弾が俺に到達するより先にレメクに肉薄すると、小柄な魔族の首を360度回転させ、貫手で心臓を貫いて完全に絶命させる。念のため頭を踏み潰した。
こいつがどうかは知らないが、少なくとも俺は再生能力が高い。再生を阻止するために念入りに殺しておく必要があった。
これでセバルドをモンスターに襲撃させていた魔法は停止しただろう。街を一応は救ったことになるのか? いや、既に壊されていたからそうはならないかもしれない。
疑問点はまだ残る。しかし今は、それよりも優先するべきことがある。
原型を留めていない死体を手にぶら下げ、襲撃は終わったことを報せに行こう。
イルマに場所を教えてもらった避難所がいいだろう。アレーナとクエレブレや、エイブラハムさんのところに行くのはその後だな。
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「……避難所の方角、どっちだ?」
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