14 / 40
14.異端審問官と魔王
しおりを挟む
デイブの監視を頼まれ、残りの昼休憩はデイブが見える位置で保存食を摘むことにした。
クエレブレに干し肉をやりながら魔法行使の実験をしていると、あることに気が付く。
「手に魔力を伝えるより、小石の方が伝導率が高いな」
「首枷がシェミハザ様への魔力伝導を阻害しているんじゃないですか? 折角武器をお持ちなのですから、そちらで試してはいかがかと」
「なるほど。やっと大鎌の使い道を思いついたよ」
大鎌にエンチャントして戦えば、魔法で補助のようなことができるだろう。
昼休憩にはデイブの不審な行動は見られなかった。休憩が終わると、俺は訓練中ずっとそうしてきたようにエイブラハムさんと戦い、型の練習をした。
不審な行動があったのは、翌日の夕方だった。ハルフォーフ姉妹が休憩に行った直後、デイブが拙者もと2人の後について行ったのだ。念のため俺も感覚を開けて追跡すると、嫌な光景が目の前にあった。
怯えたようなイルマの前にヘルマが小さな両手を広げ、庇うように立っていた。
それから少し離れた距離にデイブがいる。
乱暴でもする気かと思って、咄嗟に姉妹とデイブの間に割り込んだ。
いや、違う。
デイブの手には投擲用のようにも見える小型のナイフが数本握られていた。暗器か。小さな目には殺意が宿っている。しかし何故だ?
「シェミ、イルマを守って」
「状況がわからんが、そのつもりだ」
ヘルマが頼んでくるが、頼まれるまでもない。こういうところを見るとやっぱり姉なんだ、とぼんやりと考えた。
助けようと思ったならヒロイックで格好付けられるが、頼まれたことだし、単純にデイブに喧嘩を売りたかったという理由だ。喧嘩を売るチャンスを虎視眈々と狙っているわけじゃないが、絶好の機会じゃないか。
「おい。何やってんだよ」
「コポォ……拙者の正体は王都から派遣された異端審問官。シェミハザくんが試験官から拙者の監視を頼まれたことは勿論把握しておりますぞ」
デイブは俺との距離を詰め、暗器を構える。エイブラハムさんとの話を聞いていたのか。王都も異端審問官も意味不明なんだが、スルーしてデイブの次の言葉を待った。正体とかはどうでもいいんだ。後でクエレブレが解説してくれることだろうし。
「このイルマとかいう少女こそ、最近セバルドの街を裏から支配しているという魔族! 魔族は略式裁判で問答無用の死刑に処すことが決められている悪の種族ですぞ。ここは見なかったことにして立ち去るのが唯一の道でしょうな」
いや、違うだろう。
クエレブレから聞いた魔族の特徴もなく、魔法で外見を偽装しているというわけでもない。
そういえば潰した盗賊団の頭も魔族様がどうたらと言っていたな。どっちにしろそれはイルマのことじゃないし、クラウスでもエイブラハムさんでもない。
「まず、なんで魔族って思ったんだ? 俺の聞いてる魔族とは全然違うんだが」
「その年齢にしては不自然なほど魔力が多い。それで充分ですな!」
「証拠はそれだけかよ。なら退かない」
「魔族を庇えばシェミハザくんも異端として処分しなければならなくなりますな」
話が通じない。短気な俺は段々とそのことに苛ついてきた。
「俺が魔族とか思わないわけ? ああ、魔力量を見ているんだっけか」
「その通りですわな。魔族は例外なく魔法師、徒手で戦い武器を携えるシェミハザくんは真っ先に候補から外しましたな」
さっきから滑稽で仕方がない。
セバルドを裏から牛耳ってる魔族は俺じゃないが、俺のことを疑うのは不可抗力だし、そう思われても仕方のないことだ。だけど魔族のことを魔族じゃないと言い切り、関係ない女の子を魔族だと決め付けるのは馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「イルマは魔族じゃねえよ。さっさと消えろ」
俺は背中の大鎌に手を掛け、回転させながら構えた。クエレブレに目で合図を出す。
「失せるか死ぬか、この場で選べ…………エンチャント・ダーク」
詠唱が引き金となって付与魔法が発動し、不気味な発動音とともに紫に燃える闇のオーラが大鎌を包んだ。
「なッ!? 魔力はない筈なのに……まあ構いませんな、シェミハザくんと拙者の相性はお互いに最悪なようですからな。拙者は隠密系ですぞ」
驚くデイブだったが、すぐに余裕を取り戻して汗まみれの顔で笑みを浮かべた。
隠密系ときたか。
戦闘なら確実に勝てるビジョンが見えたが、隠れられたり逃げられたりすると手も足も出ない。俺の魔力探知の範囲はかなり広い。が、確か隠密の技には一時的に魔力の放出を抑えるものがあったはずだ。
阻止する程度でも上出来だろうが、殺しておくか。闇の魔力を纏った大鎌を振りかぶり、デイブの方へと地面を蹴って距離を詰める。
鎌の刃が届くかどうかのところで、デイブが煙のような物を出した。この距離で目眩しではないだろうから逃げる気だ。
間に合うかは知らないが、煙の中へ刃を振るった。
斬った感覚は、ある。
しかし煙が消えた後、そこに死体はなかった。大鎌の刃にはべったりと血が付いている。逃げられたか。惜しかった、心底悔しい。
煮え切らない思いで消えた場所を見つめていると、背後から2人分の声がかけられた。
「あ、あの……ありがとうございます」
「ん。ありがと」
ハルフォーフ姉妹からお礼を言われ、戸惑った俺はつられてお辞儀を返した。
クエレブレに干し肉をやりながら魔法行使の実験をしていると、あることに気が付く。
「手に魔力を伝えるより、小石の方が伝導率が高いな」
「首枷がシェミハザ様への魔力伝導を阻害しているんじゃないですか? 折角武器をお持ちなのですから、そちらで試してはいかがかと」
「なるほど。やっと大鎌の使い道を思いついたよ」
大鎌にエンチャントして戦えば、魔法で補助のようなことができるだろう。
昼休憩にはデイブの不審な行動は見られなかった。休憩が終わると、俺は訓練中ずっとそうしてきたようにエイブラハムさんと戦い、型の練習をした。
不審な行動があったのは、翌日の夕方だった。ハルフォーフ姉妹が休憩に行った直後、デイブが拙者もと2人の後について行ったのだ。念のため俺も感覚を開けて追跡すると、嫌な光景が目の前にあった。
怯えたようなイルマの前にヘルマが小さな両手を広げ、庇うように立っていた。
それから少し離れた距離にデイブがいる。
乱暴でもする気かと思って、咄嗟に姉妹とデイブの間に割り込んだ。
いや、違う。
デイブの手には投擲用のようにも見える小型のナイフが数本握られていた。暗器か。小さな目には殺意が宿っている。しかし何故だ?
「シェミ、イルマを守って」
「状況がわからんが、そのつもりだ」
ヘルマが頼んでくるが、頼まれるまでもない。こういうところを見るとやっぱり姉なんだ、とぼんやりと考えた。
助けようと思ったならヒロイックで格好付けられるが、頼まれたことだし、単純にデイブに喧嘩を売りたかったという理由だ。喧嘩を売るチャンスを虎視眈々と狙っているわけじゃないが、絶好の機会じゃないか。
「おい。何やってんだよ」
「コポォ……拙者の正体は王都から派遣された異端審問官。シェミハザくんが試験官から拙者の監視を頼まれたことは勿論把握しておりますぞ」
デイブは俺との距離を詰め、暗器を構える。エイブラハムさんとの話を聞いていたのか。王都も異端審問官も意味不明なんだが、スルーしてデイブの次の言葉を待った。正体とかはどうでもいいんだ。後でクエレブレが解説してくれることだろうし。
「このイルマとかいう少女こそ、最近セバルドの街を裏から支配しているという魔族! 魔族は略式裁判で問答無用の死刑に処すことが決められている悪の種族ですぞ。ここは見なかったことにして立ち去るのが唯一の道でしょうな」
いや、違うだろう。
クエレブレから聞いた魔族の特徴もなく、魔法で外見を偽装しているというわけでもない。
そういえば潰した盗賊団の頭も魔族様がどうたらと言っていたな。どっちにしろそれはイルマのことじゃないし、クラウスでもエイブラハムさんでもない。
「まず、なんで魔族って思ったんだ? 俺の聞いてる魔族とは全然違うんだが」
「その年齢にしては不自然なほど魔力が多い。それで充分ですな!」
「証拠はそれだけかよ。なら退かない」
「魔族を庇えばシェミハザくんも異端として処分しなければならなくなりますな」
話が通じない。短気な俺は段々とそのことに苛ついてきた。
「俺が魔族とか思わないわけ? ああ、魔力量を見ているんだっけか」
「その通りですわな。魔族は例外なく魔法師、徒手で戦い武器を携えるシェミハザくんは真っ先に候補から外しましたな」
さっきから滑稽で仕方がない。
セバルドを裏から牛耳ってる魔族は俺じゃないが、俺のことを疑うのは不可抗力だし、そう思われても仕方のないことだ。だけど魔族のことを魔族じゃないと言い切り、関係ない女の子を魔族だと決め付けるのは馬鹿馬鹿しいにも程がある。
「イルマは魔族じゃねえよ。さっさと消えろ」
俺は背中の大鎌に手を掛け、回転させながら構えた。クエレブレに目で合図を出す。
「失せるか死ぬか、この場で選べ…………エンチャント・ダーク」
詠唱が引き金となって付与魔法が発動し、不気味な発動音とともに紫に燃える闇のオーラが大鎌を包んだ。
「なッ!? 魔力はない筈なのに……まあ構いませんな、シェミハザくんと拙者の相性はお互いに最悪なようですからな。拙者は隠密系ですぞ」
驚くデイブだったが、すぐに余裕を取り戻して汗まみれの顔で笑みを浮かべた。
隠密系ときたか。
戦闘なら確実に勝てるビジョンが見えたが、隠れられたり逃げられたりすると手も足も出ない。俺の魔力探知の範囲はかなり広い。が、確か隠密の技には一時的に魔力の放出を抑えるものがあったはずだ。
阻止する程度でも上出来だろうが、殺しておくか。闇の魔力を纏った大鎌を振りかぶり、デイブの方へと地面を蹴って距離を詰める。
鎌の刃が届くかどうかのところで、デイブが煙のような物を出した。この距離で目眩しではないだろうから逃げる気だ。
間に合うかは知らないが、煙の中へ刃を振るった。
斬った感覚は、ある。
しかし煙が消えた後、そこに死体はなかった。大鎌の刃にはべったりと血が付いている。逃げられたか。惜しかった、心底悔しい。
煮え切らない思いで消えた場所を見つめていると、背後から2人分の声がかけられた。
「あ、あの……ありがとうございます」
「ん。ありがと」
ハルフォーフ姉妹からお礼を言われ、戸惑った俺はつられてお辞儀を返した。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~
雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ダンジョン配信 【人と関わるより1人でダンジョン探索してる方が好きなんです】ダンジョン生活10年目にして配信者になることになった男の話
天野 星屑
ファンタジー
突如地上に出現したダンジョン。中では現代兵器が使用できず、ダンジョンに踏み込んだ人々は、ダンジョンに初めて入ることで発現する魔法などのスキルと、剣や弓といった原始的な武器で、ダンジョンの環境とモンスターに立ち向かい、その奥底を目指すことになった。
その出現からはや10年。ダンジョン探索者という職業が出現し、ダンジョンは身近な異世界となり。ダンジョン内の様子を外に配信する配信者達によってダンジョンへの過度なおそれも減った現在。
ダンジョン内で生活し、10年間一度も地上に帰っていなかった男が、とある事件から配信者達と関わり、己もダンジョン内の様子を配信することを決意する。
10年間のダンジョン生活。世界の誰よりも豊富な知識と。世界の誰よりも長けた戦闘技術によってダンジョンの様子を明らかにする男は、配信を通して、やがて、世界に大きな動きを生み出していくのだった。
*本作は、ダンジョン籠もりによって強くなった男が、配信を通して地上の人たちや他の配信者達と関わっていくことと、ダンジョン内での世界の描写を主としています
*配信とは言いますが、序盤はいわゆるキャンプ配信とかブッシュクラフト、旅動画みたいな感じが多いです。のちのち他の配信者と本格的に関わっていくときに、一般的なコラボ配信などをします
*主人公と他の探索者(配信者含む)の差は、後者が1~4まで到達しているのに対して、前者は100を越えていることから推察ください。
*主人公はダンジョン引きこもりガチ勢なので、あまり地上に出たがっていません
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる