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11_地下①
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王城でイベントが開かれた日から、時間が経った。
そして今日、私は何度めかの王城への転移を試みようとしている。
(もう、部屋にルーファスがいるかいないかは運だわ。イベントで王城に勤めている人が話している内容を確認して、出来るだけ部屋にルーファスがいなさそうな日と時間を選んでみたけど……)
いつのタイミングなら大丈夫なのか、私には確信が持てない。
それでも、やってみないことには始まらない。
深呼吸をして、私はルーファスの部屋に転移した。
++++
(やった……!)
転移した結果、部屋には誰もいなかった。今日もルーファスは外にいるようだ。
この機会を逃してはいけない。
私は気を引き締めつつ、部屋の扉へと向かった。
王城の廊下に出るのはこれで二回目だ。
この短い期間のうちに内装ががらりと変わっていたりしたらどうしよう、と思ったけど、前と同じように廊下には赤い絨毯が敷かれていた。
私は以前と同じく赤いローブを身に纏って歩き始める。
(地下室までの道のりは、前に城に入ったときに把握している。急いで走ったら気付かれちゃうかもしれないから、慎重に行こう)
私は音を立てずに廊下を歩いた。
その途中で人とすれ違うこともあったけど、うまく気付かれずにやり過ごした。
(仮に人に気付かれたとしても、また私の演技で誤魔化せばいい……と考えると、どこか気持ちに余裕が出来るものね)
今まで試行錯誤していたからか、何だか城に侵入するスキルのレベルが上がった気がする。
そんなことを考えながら、私は歩き続けた。
++++
(この廊下を曲がったら、もうちょっとで地下室だ)
逸る気持ちを抑えつつ、私は周囲の様子を伺いながら歩き続ける。
と――、後ろから、何者かが走ってくる気配がする。
私はくるりと後ろを向いた。
「アレキサンダー……来たわね」
城の廊下を巡回している、白くてふわふわの小型犬――アレキサンダーは私の匂いを知っているらしく、私を見つけることが出来る。
前回は突然襲いかかられて、連れ去られてしまった。
でも、今の私はアレキサンダーがどういう動きをしてくるかがわかっている。
だから対策が出来た。
「アレキサンダー……、『私に構わないで、食べた後は眠っていてね』」
「……わふ!?」
口を開けているアレキサンダーに、私は懐からあるものを出した。
王城の犬まっしぐら、おやつのフードである。
アレキサンダーの口の中に、魔法をかけたフードをそっと投げた。
アレキサンダーはフードを咀嚼した後、私の横を通って廊下を歩いて行き、窓から陽が入っているところに転がった。
「良かった……寝てくれた……」
王城のイベントに子供の姿で参加しているとき、『動物とのふれあいコーナー』があったのだ。テイマーが動物との芸を見せて、世話の仕方や接し方を学んで貰うように働きかけていた。
私はそのイベントに参加しつつ、こっそりと犬のおやつを持って帰った。
王城の警護犬を好物だけで懐柔するのは難しいかもしれない。
でも、魔法と組み合わせたらどうにか切り抜けられるかも、と思ったのだ。
(服従の魔法は、術を掛けたい対象の好物と……術者が『自分は対象を従える』って強く思う気持ちが必要。つまり、自信が要る。
私にとっては扱いづらい魔法かもって思ってたけど、成功した。良かった……)
私は絶対に地下室に行くし、それはアレキサンダーが私を止めたい気持ちよりも強い――と念じながら魔法の練習をしたのが功を奏したのかもしれない。
今回地下室を目指すに当たって、私はあらゆる知識を動員して成功率を上げようと考えた。
今まではルーファスの部屋で起きたことはあまり思い出さないようにしていたけど、ルーファスとのやり取りにも参考になることはあるかもしれない――と思い、彼が使おうとしていた服従の魔法を練習することにしたのだ。
(ルーファスはずっと私にとっての壁だったけど、学ぶべきこともあったわね。……さて)
アレキサンダーに魔法が効いているうちに、やるべきことをやらないと。
私は隠されている地下室の前まで行き、師匠から教えて貰った魔法を唱える。
地下室の扉が現われ、その鍵が開いた。
そして今日、私は何度めかの王城への転移を試みようとしている。
(もう、部屋にルーファスがいるかいないかは運だわ。イベントで王城に勤めている人が話している内容を確認して、出来るだけ部屋にルーファスがいなさそうな日と時間を選んでみたけど……)
いつのタイミングなら大丈夫なのか、私には確信が持てない。
それでも、やってみないことには始まらない。
深呼吸をして、私はルーファスの部屋に転移した。
++++
(やった……!)
転移した結果、部屋には誰もいなかった。今日もルーファスは外にいるようだ。
この機会を逃してはいけない。
私は気を引き締めつつ、部屋の扉へと向かった。
王城の廊下に出るのはこれで二回目だ。
この短い期間のうちに内装ががらりと変わっていたりしたらどうしよう、と思ったけど、前と同じように廊下には赤い絨毯が敷かれていた。
私は以前と同じく赤いローブを身に纏って歩き始める。
(地下室までの道のりは、前に城に入ったときに把握している。急いで走ったら気付かれちゃうかもしれないから、慎重に行こう)
私は音を立てずに廊下を歩いた。
その途中で人とすれ違うこともあったけど、うまく気付かれずにやり過ごした。
(仮に人に気付かれたとしても、また私の演技で誤魔化せばいい……と考えると、どこか気持ちに余裕が出来るものね)
今まで試行錯誤していたからか、何だか城に侵入するスキルのレベルが上がった気がする。
そんなことを考えながら、私は歩き続けた。
++++
(この廊下を曲がったら、もうちょっとで地下室だ)
逸る気持ちを抑えつつ、私は周囲の様子を伺いながら歩き続ける。
と――、後ろから、何者かが走ってくる気配がする。
私はくるりと後ろを向いた。
「アレキサンダー……来たわね」
城の廊下を巡回している、白くてふわふわの小型犬――アレキサンダーは私の匂いを知っているらしく、私を見つけることが出来る。
前回は突然襲いかかられて、連れ去られてしまった。
でも、今の私はアレキサンダーがどういう動きをしてくるかがわかっている。
だから対策が出来た。
「アレキサンダー……、『私に構わないで、食べた後は眠っていてね』」
「……わふ!?」
口を開けているアレキサンダーに、私は懐からあるものを出した。
王城の犬まっしぐら、おやつのフードである。
アレキサンダーの口の中に、魔法をかけたフードをそっと投げた。
アレキサンダーはフードを咀嚼した後、私の横を通って廊下を歩いて行き、窓から陽が入っているところに転がった。
「良かった……寝てくれた……」
王城のイベントに子供の姿で参加しているとき、『動物とのふれあいコーナー』があったのだ。テイマーが動物との芸を見せて、世話の仕方や接し方を学んで貰うように働きかけていた。
私はそのイベントに参加しつつ、こっそりと犬のおやつを持って帰った。
王城の警護犬を好物だけで懐柔するのは難しいかもしれない。
でも、魔法と組み合わせたらどうにか切り抜けられるかも、と思ったのだ。
(服従の魔法は、術を掛けたい対象の好物と……術者が『自分は対象を従える』って強く思う気持ちが必要。つまり、自信が要る。
私にとっては扱いづらい魔法かもって思ってたけど、成功した。良かった……)
私は絶対に地下室に行くし、それはアレキサンダーが私を止めたい気持ちよりも強い――と念じながら魔法の練習をしたのが功を奏したのかもしれない。
今回地下室を目指すに当たって、私はあらゆる知識を動員して成功率を上げようと考えた。
今まではルーファスの部屋で起きたことはあまり思い出さないようにしていたけど、ルーファスとのやり取りにも参考になることはあるかもしれない――と思い、彼が使おうとしていた服従の魔法を練習することにしたのだ。
(ルーファスはずっと私にとっての壁だったけど、学ぶべきこともあったわね。……さて)
アレキサンダーに魔法が効いているうちに、やるべきことをやらないと。
私は隠されている地下室の前まで行き、師匠から教えて貰った魔法を唱える。
地下室の扉が現われ、その鍵が開いた。
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