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10_嘘②

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(気付かれた!?)


 ざっと血の気が引いた私は、慌てて別方向を目指した。


 幸い今は沢山の人がいる。
 私は人混みに紛れて移動する。


 無事に一人で別の場所に行くことが出来て、私はほっとした。


(今日はルーファスにも仕事があるでしょうし、大っぴらにこちらを探したりはしない……はず。そうでありますように……)


 仮にまたルーファスに会っても、さっきみたいに人混みに紛れて逃げれば問題ないはず。

 ……でも、一応もう少し対策をしておこう、と考えつつ、私は物陰を探した。


 ++++


「ふう……。あっちも見てみようかな」

 私は、王城のイベントを参加者として回っていた。


(地下室を目指すのにどこまで役に立つかはわからないけど、今集められる情報は集めていこう)


 ちなみに、今の私は子供の姿に変身している。
 小型化する魔法と同じ系統で、子供の姿になる魔法もあるのだ。
 ついでに、髪色も変えておいた。


(変身魔法を多用すると魔力を結構消費しちゃうから、普段王城に転移するときはここまでは変えないようにしているけど。流石にこの姿ならルーファスには気付かれないでしょう)


 子供の姿で城の人と接すると、大人の姿よりも警戒されづらい。
 そのこともあって、この見た目にした。


 歩いていると、一際大きな人だかりが出来ている場所があった。


(あ……)


 私は、人混みの中にある人物を見つける。


 以前に私を地下室の近くまで運んでくれた、ベールを被った女性がいた。


 その女性の周りには、沢山の客で溢れている。
 女性は魔法を使い、それで衆目を集めているようだ。
 あの魔法の効果は……確か、聖魔術だ。師匠が私に教えてくれたことがある。


(そうか。彼女は聖魔術師なんだ……)


 彼女以外にも、ローブと魔導具を身にまとった者が多くいる。
 彼らは王家に使える魔術師として注目を集めているのだろう。
 ベールを被った女性は魔術師たちの中でも一際若いので、客として来た子どもたちに話しかけやすい相手として人気を集めているようだ。


「セレスティアお姉さん、またキラキラしてるのやってー!」

「はいはい」


(あの人、セレスティアって名前なんだ。

 彼女はたまたま城で会った私にも優しかったしね。人気があるのもわかるな)


 それにしても、次から次へと客が来るので、応対する彼女は大変そうだ。


 暫くすると、他の魔術師と交代で、セレスティアは休憩に向かったようだった。


(あ……)


 セレスティアの向かっていった方向を見て、私はびくりとする。

 その先にはルーファスがいた。


 セレスティアはルーファスに話しかけ、二人で食事の置いてあるテーブルの方へ向かったようだ。
 私から遠い方向へ向かったようで、私は一人ほっとする。


(あの二人は知り合いだったのね。セレスティアは城の中にいたし、普段働いている場所が近いんだろうな。歳も近いみたいだし、喋る機会があるのは納得かも)


 食事が置かれ始めてから時間が経過したため、今置かれているものはメインの食事からティータイムのメニューに変わっている。
 私も先程から、折を見て食べに行っている。どのスイーツもお茶もとろけるような美味しさだった。



 私の想定通り、ルーファスはこちらに目をやることは無く、セレスティアと二人で話しているようだった。


 セレスティアは、ルーファスに紅茶を勧めているようだ。

(あ……)


 あの紅茶は、私も飲んだことがある。
 以前ルーファスの部屋で飲んだ紅茶だ。


 セレスティアはルーファスに砂糖の缶を勧め、ルーファスは頷いて紅茶に砂糖を入れて飲んだ。

 そして、二人は談笑を続けている。


(…………)


 前から薄々気付いていたことだが。


 ルーファスは傍若無人な人間なのかと思っていたけど、どうもそうではない。


 働いたアレキサンダーに対しては優しく労って撫でてあげていた。
 使用人に対しては上に立つ者として常識的な態度を取っていた。

 聖魔術師として働いているセレスティアとも穏やかな時間を過ごしている。


(ルーファスは……確か、砂糖を入れた紅茶は飲まないって言ってた。でも、今は飲んでる。私には嘘をついてたんだ)


 私は二人に背を向けて、別の場所を目指して歩くようにした。



 私の狙い通り、ルーファスには気付かれることが無かった。


 でも――何故だか、私は落ち込んでいた。


 今日のイベントでは、家族や仲間と一緒に来場している人たちも沢山いた。
 私はひとりでそんな人たちの様子を見ていた。

 師匠がいれば私も他の人と同じようにイベントを回ることが出来たかもしれない。
 でも、今の会場の中で、私の顔見知りと言えるのはルーファスだけだ。


 そのルーファスが親しく接する相手は、私ではないのだ。
 それを見て、自分はいよいよ一人なんだと自覚して、じわじわと辛くなってしまったのだろう。


(ルーファスは私で遊んでいるんだろうと思ってた。けど、他の人にはちゃんと対応しているところを実際に見ると、こう……堪えるな)


 そう思う一方で、こうも思う。


(でも、私だってルーファスに誠実に対応しているとは言えなかった。

 それ以前に、客観的に見て私は王城に侵入している不審者なんだから……。ちゃんと対応してもらえないのは当たり前だわ)


 私は、顔を上げて空を見つめた。

 太陽は少しずつ傾き始めていて、夕暮れが近付いてきている。

 でも、まだイベントは開催されている。


(今の状況は、ルーファスにとっても私にとっても良くない。

 早く地下室にたどり着いて、こんな日々は終わりにしたい。

 そのために、情報を集めよう……自分のやれる限り)
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