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55 安定印の
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あれから1週間程してから、またピアスを着けるようになった。また葵色のピアスを着けた私を見たブラントさんの嬉しそうに笑った顔の破壊力は…私の顔を赤くさせるのには十分過ぎるものだった。
ブラントさんは相変わらず毎日花を送って来るし、休みになるとアルスティア迄やって来る。
リンも相変わらず週3、4日は王城へと通っていて、ルドヴィクさんとの仲も良好なようだ。
そんな穏やかな日々を過ごしていたある日。
「いらっしゃいませ」
「見付けたわ」
今日もメイジーさんのパン屋でバイトをしていると、身なりの綺麗な女性がやって来た。ウェーブのあるピンクブロンドの髪をハーフアップにして、瞳は綺麗な青色。ここに居るのが場違いな程キラキラしている……多分、それなりの爵位のご令嬢だろう。平民が滅多に付けない香水の薫りがフワリと鼻腔をくすぐる。
そして、何故か臨戦態勢に入るフラム。
「その葵色のピアスにパン屋。噂は本当だったのね」
「一体何のご用ですか?」
メイジーさんが私とその女性の間に割り込む。
「貴方は関係ないわ。下がっていてちょうだい。私が用があるのは、そこの葵色のピアスをした女よ」
「関係ない事はありません。彼女は私が雇っている子ですから」
「生意気ね……私は公爵家の者よ。貴方は控えなさい」
「なっ──」
「メイジーさん、私は大丈夫なので。少し…このご令嬢と話をして来ますね」
王都に住んでいる公爵令嬢だろうけど、ここで問題を起こせばメイジーさんのパン屋がどうなるか分からない。迷惑を掛ける訳にはいかない。
「物分かりが良くて助かるわ」
と、その令嬢はニッコリと微笑んだ。
その令嬢は─エグランティーヌ=フォルストス─
公爵令嬢だった。
「まさか、本当に居るとは思わなかったわ。ブラント様は、貴方の何処がお気に召したのかしら?」
本当に意味が分からないと言った様子で首を傾げている。
そんな事を私に言われても分からない。私だってどうしてなのかを訊いてみたい。
「まあ、それはどうでも良いわ。兎に角、あなた、ブラント様の事は諦めなさい。ブラント様は私と結婚する予定なの」
「…結婚する……予定?」
胸がチクリと痛みを感じた。
「ええ、そうよ。ルドヴィク様が国王となって国も落ち着いて来た今、王族であるブラント様もそろそろ落ち着かなければならないの。そこで、その相手として私程相応しい者は他には居ないのよ。平民の貴方は暇潰し程度でしかないの。分かる?少しは夢を見る事ができて良かったわね。平凡な何の取り柄もなさそうな貴方なんかに、ブラント様が本気になる訳なんてないのよ」
そんな事はない───
今迄のブラントさんを見ていれば、目の前に居るエグランティーヌさんが嘘をついていると断言できる。過去のブラントさんならどうかは分からないけど、私に向き合ってくれたブラントさんは、そんな事をする人ではない。と分かっているのに胸が痛むのは……きっと過去のせいだ。
「何をしている?」
エグランティーヌさんの視線から、私を隠すように私の目の前に現れたのはブラントさんだ。
「ブラントさ───」
「フォルストス様、今、チカさ─んに何を言ったのかお訊きしても宜しいでしょうか?いえ、途中からは耳に入っていましたけどね?何とも聞くに耐えない言葉の数々でしたね。そもそも、平民を馬鹿にしたり見下す事自体がおかしい話だとお分かりですか?あぁ、分かってらっしゃらないから平民を見下す事ができるんですね。貴族がどうして優雅に暮らせているか知ってますか?いえ、その前に優雅に暮らす為のお金ではないんですけど、それは、平民が汗水流して働いて得たお金を納税しているからです。いくら公爵であっても領民が居なければお金を得る事ができませんよ?領民、平民の方がよっぽど貴方より優れていると思いますけどね?貴方は何ができるんですか?あぁ、そうでした。嘘をつく事が得意でいらっしゃいますね。ブラント殿下と婚約するとか聞こえましたけど、そんな話を私は聞いた事がないんですよね。あぁ、失礼しました。私は国王陛下の側近の1人で魔道士のネッドと言います。家名は……とうに捨てましたから、所謂私も平民ですが、それでも国王陛下の側近です。本当に有り難い事です。それで?誰がブラント殿下と婚約なさるんでしょう?それが嘘だと言う場合、それ相応の沙汰があると思っておいて下さい。さあ、どうぞ」
「「「………」」」
ここに、安定印のネッドさんが居ました。
「フォルストス嬢、確かに公爵から婚約の打診はされたが、それはキッパリと断った筈だ。公爵から何も聞いていないのか?」
「いえ…私は………」
「それと、彼女が私に言い寄っているのではなく、私が彼女を望んでいるんだ。だから文句があるなら彼女ではなく私に言ってもらいたい。もっとも、フォルストス嬢に文句を言われる筋合いは無いけどね。それと、名前で呼ばれるのは不快だから、今後は名前で呼ばないで欲しい」
「なっ…ブラ…カールストン様にネッドもですが、酷い言いようではありませんか?」
「酷いのはどちらでしょうね?自分より下だと見下して平民を馬鹿にするフォルストス様の方がよっぽど──」
「ネッドさん、助けてくれてありがとうございました。あとでお礼をさせて下さいね」
「───っ!はい!お構い無く!!」
ネッドさんは、やっぱりネッドさんだった。
❋あれ?ブラントの影が薄い(笑)❋
(*´・ω・)...ン??
ブラントさんは相変わらず毎日花を送って来るし、休みになるとアルスティア迄やって来る。
リンも相変わらず週3、4日は王城へと通っていて、ルドヴィクさんとの仲も良好なようだ。
そんな穏やかな日々を過ごしていたある日。
「いらっしゃいませ」
「見付けたわ」
今日もメイジーさんのパン屋でバイトをしていると、身なりの綺麗な女性がやって来た。ウェーブのあるピンクブロンドの髪をハーフアップにして、瞳は綺麗な青色。ここに居るのが場違いな程キラキラしている……多分、それなりの爵位のご令嬢だろう。平民が滅多に付けない香水の薫りがフワリと鼻腔をくすぐる。
そして、何故か臨戦態勢に入るフラム。
「その葵色のピアスにパン屋。噂は本当だったのね」
「一体何のご用ですか?」
メイジーさんが私とその女性の間に割り込む。
「貴方は関係ないわ。下がっていてちょうだい。私が用があるのは、そこの葵色のピアスをした女よ」
「関係ない事はありません。彼女は私が雇っている子ですから」
「生意気ね……私は公爵家の者よ。貴方は控えなさい」
「なっ──」
「メイジーさん、私は大丈夫なので。少し…このご令嬢と話をして来ますね」
王都に住んでいる公爵令嬢だろうけど、ここで問題を起こせばメイジーさんのパン屋がどうなるか分からない。迷惑を掛ける訳にはいかない。
「物分かりが良くて助かるわ」
と、その令嬢はニッコリと微笑んだ。
その令嬢は─エグランティーヌ=フォルストス─
公爵令嬢だった。
「まさか、本当に居るとは思わなかったわ。ブラント様は、貴方の何処がお気に召したのかしら?」
本当に意味が分からないと言った様子で首を傾げている。
そんな事を私に言われても分からない。私だってどうしてなのかを訊いてみたい。
「まあ、それはどうでも良いわ。兎に角、あなた、ブラント様の事は諦めなさい。ブラント様は私と結婚する予定なの」
「…結婚する……予定?」
胸がチクリと痛みを感じた。
「ええ、そうよ。ルドヴィク様が国王となって国も落ち着いて来た今、王族であるブラント様もそろそろ落ち着かなければならないの。そこで、その相手として私程相応しい者は他には居ないのよ。平民の貴方は暇潰し程度でしかないの。分かる?少しは夢を見る事ができて良かったわね。平凡な何の取り柄もなさそうな貴方なんかに、ブラント様が本気になる訳なんてないのよ」
そんな事はない───
今迄のブラントさんを見ていれば、目の前に居るエグランティーヌさんが嘘をついていると断言できる。過去のブラントさんならどうかは分からないけど、私に向き合ってくれたブラントさんは、そんな事をする人ではない。と分かっているのに胸が痛むのは……きっと過去のせいだ。
「何をしている?」
エグランティーヌさんの視線から、私を隠すように私の目の前に現れたのはブラントさんだ。
「ブラントさ───」
「フォルストス様、今、チカさ─んに何を言ったのかお訊きしても宜しいでしょうか?いえ、途中からは耳に入っていましたけどね?何とも聞くに耐えない言葉の数々でしたね。そもそも、平民を馬鹿にしたり見下す事自体がおかしい話だとお分かりですか?あぁ、分かってらっしゃらないから平民を見下す事ができるんですね。貴族がどうして優雅に暮らせているか知ってますか?いえ、その前に優雅に暮らす為のお金ではないんですけど、それは、平民が汗水流して働いて得たお金を納税しているからです。いくら公爵であっても領民が居なければお金を得る事ができませんよ?領民、平民の方がよっぽど貴方より優れていると思いますけどね?貴方は何ができるんですか?あぁ、そうでした。嘘をつく事が得意でいらっしゃいますね。ブラント殿下と婚約するとか聞こえましたけど、そんな話を私は聞いた事がないんですよね。あぁ、失礼しました。私は国王陛下の側近の1人で魔道士のネッドと言います。家名は……とうに捨てましたから、所謂私も平民ですが、それでも国王陛下の側近です。本当に有り難い事です。それで?誰がブラント殿下と婚約なさるんでしょう?それが嘘だと言う場合、それ相応の沙汰があると思っておいて下さい。さあ、どうぞ」
「「「………」」」
ここに、安定印のネッドさんが居ました。
「フォルストス嬢、確かに公爵から婚約の打診はされたが、それはキッパリと断った筈だ。公爵から何も聞いていないのか?」
「いえ…私は………」
「それと、彼女が私に言い寄っているのではなく、私が彼女を望んでいるんだ。だから文句があるなら彼女ではなく私に言ってもらいたい。もっとも、フォルストス嬢に文句を言われる筋合いは無いけどね。それと、名前で呼ばれるのは不快だから、今後は名前で呼ばないで欲しい」
「なっ…ブラ…カールストン様にネッドもですが、酷い言いようではありませんか?」
「酷いのはどちらでしょうね?自分より下だと見下して平民を馬鹿にするフォルストス様の方がよっぽど──」
「ネッドさん、助けてくれてありがとうございました。あとでお礼をさせて下さいね」
「───っ!はい!お構い無く!!」
ネッドさんは、やっぱりネッドさんだった。
❋あれ?ブラントの影が薄い(笑)❋
(*´・ω・)...ン??
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