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12 お別れ

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私の体を包んでいた光が無くなると、そこには─

「あぁ、これが、ミヅキ様の姿なんですね」

肩甲骨の下辺りまで伸びた茶色の髪に、浅葱色の瞳をした深月みづき千花ちか、26歳の姿があった。

「イシュメルさんは、気付いていたんですか?」

黒色の髪と瞳をした18歳のミヅキは、この世界での理想的な聖女の姿だ。

「ミヅキ様が纏っていた色が、何となく違和感があったので……その違和感が何かは分からなかっのですが、今の姿を見て、ようやくその違和感が分かりました」

なるほど…イシュメルさんに視えると言う色は、本当に凄いのかもしれない。あぁ、そうか。“面白い”のか。だから、オールデンさんは、イシュメルさんに対して好意的だったんだ。まぁ、人となりもとても良い人だけど。

「あの……また、イシュメルさんに会いに来ても良いですか?」
「勿論です。ミヅキ様なら、いつでも大歓迎ですから」
「本当は、ジェナさんにはお礼と挨拶をしたかったんですけど…」

ジェナさんは、いつも私を守ってくれていた。アイルとフラムもジェナさんの周りをよく飛び回っていたから、ジェナさんは私に対して悪感情を持っていないんだろうと思っている。

「落ち着いたら、ジェナさんにも……会いに来ます」
「そうしてあげて下さい。彼女もきっと、喜びますよ。」

ふと、葵色の瞳が思い浮かんだ。

ーブラントさんは、私に対しては裏表が無かったなぁー

王弟で第二騎士団の副団長で、公爵でもあるブラントさん。身分として凄い人なんだろうけど、嫌味や傲慢さが全く無い人だった。
子供扱いされていた事や、色々弄られたりした事は納得いかないけど……ブラントさんにも、お礼と挨拶は…したかったかも……。

もう、ブラントさんと会う事はないだろうけど──

「それじゃあ、取り敢えず……今からイシュメルさんのお家に行きますね。イシュメルさん、本当にありがとうございました」
「お礼を言うのは、私達の方ですよ。聖女ミヅキ様、本当に、ありがとうございました。これから先、ミヅキ様に幸多からん事を祈っております」


『ミヅキ、迎えに来たわよ!』

丁度、そのタイミングでフラムが私を迎えに来てくれた。なんでも、フラムは転移の魔法が使えるそうだ。手のひらサイズの妖精なのに、魔力は魔道士以上とか──妖精、恐るべし!









*その頃の王城にて*
(王太子ルドヴィク視点)




魔法陣で3回目に転移して来たのは、予定通りの魔道士団長グリシャと旅のメンバーの荷物だけで、やはり、そこにミヅキの姿は無かった。

「グリシャ、ミヅキはどうした?」
「ミヅキ様…ですか?私より先に、フラヴィア達と一緒に──」
「ミヅキだけが居ないんだ」
「───は?」

普段冷静なグリシャが、ポカンと口を開けて固まっていると言う事は、魔道士団長グリシャがミヅキに何かをしたと言う事ではないと言う事だ。ならば、ミヅキはどこへ?


「元の世界に還った可能性が高いのでは?」
「元の世界へ?」

そんな事を言い出したのは、ミヅキに付いていた護衛のジェナ。ネッドもそうだが、ジェナもどこか怒っている。

「聖女ミヅキを、“無能”呼ばわりした上、“デメリット”扱いしたのですから、もう、私達と一緒に居たくない!と思われても可笑しくはありませんから」

「な───っ!!」
「“無能”?“デメリット”?ジェナ、それはどう言う事だ?」

私の横にいるミリウスが焦っているが、今はそれどころではない。

「第二王子ミリウス様が仰ったんですよ。“聖女ミヅキは、聖女の能力しかない無能な聖女だから、王家にとってはデメリットしかない”と。それに…ジュリアス様ならから、ジュリアス様にミヅキを充てがうと」
「ジュリアスに……充てがう?」
「国を助けてもらっておいて、そんな扱いをする王族が居る国…世界に、誰が居たいと思いますか?私なら……逆にこの国を呪うかもしれませんね」

「ジェナ!口が過ぎるぞ!それに……王子であるミリウスわたしに無礼ではないか!?」
「どちらが無礼ですか!?」
「な────っ!」
「ミリウス、お前は黙っていろ!」
「兄上!?」

ギャンギャンと騒ぎ立てるミリウスを黙らせる。

「ミリウス、勘違いするな。ジェナの主はお前や私の王家ではなく……大神官だ。例えお前が王子であっても、お前がジェナを罰する事はできない。それと、ネッドは私の側近であり、ネッドの主は勿論、王太子である私だ。そのネッドからは、旅の間毎日報告を飛ばしてもらっていた。その報告では、ミヅキは完璧に浄化を成功させ、領主や領民からもとても感謝されていたと。」

それと、これはまだ国王父上にも報告を上げてはいないが、浄化の済んだ土地は、以前よりも良い質の食物が育つようになったのだとか。聖女ミヅキは、決して無能ではないのだ。

「お前達の話が聞きたいから、部屋を移動するぞ」

静かな声でそう言ったのは、叔父上だった。




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