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『──ならば、全てを捨てて、で、新たな路を進んでみるか?』


足元から光が溢れ出し「誰か助けて!」と叫ぶ間も無く、辺り一面が眩しい程の光に包まれて目をギュッと瞑り、その場にしゃがみこんだ。




『どうだ?で、新たな路を行ってみるか?』
「!?」

ーさっきは脳内で響いていたような声が、今はハッキリと耳から聞こえるー

しゃがんでいるままでゆっくりと目を開けると、辺り一面真っ白な空間が広がっていた。そして、目の前には腰辺りまである長髪の綺麗だけど、どこか冷たい印象の……男性?が立っている。

「えっと……」

ーどこから、何を訊けば良いのか……ー

『ふむ。お前は冷静過ぎるな……まぁ、煩いよりはマシか?先ずは、ここにお前を呼んだ理由から話そうか?』

パチン─とその男性が指を鳴らせば、パッと椅子と円卓が現れた。円卓には紅茶とお菓子が置いてあり、円卓を挟んで向かい合うように椅子が2脚置かれている。

『話は長くなるだろうから、座って話そう』

そう言って、私達2人は椅子に腰を下ろした。






目の前に居る男性は─オールデン。
何でも、とある異世界の神様なんだとか。しかも、もともとは“破壊神”と呼ばれる神様だったらしい。神様にも、色んな神様が存在するそうだ。

神様が一つの世界を創ると、そこで生きる者達をある程度後は、となる。

『神が手を出し過ぎると、世界の理が壊れるから。生きている者には意思があり、その彼らの意思は彼らのモノであるから。創世神とは、世界を創り基礎を植えるだけの存在だ』

ただ、人間ひとだけでは解決できない事が起こると、直接ではないが、間接的に助言を与えたりもする。その為に、その世界には神の声を聞く事のできる神官が必ず居ると言う。

神からの助言で、その世界が好転すれば善し。好転できず、悪化すれば───


『その為に破壊神は存在する訳だが……そんな私も一つの世界を創った。魔法の存在する世界だ』


魔法が存在する世界で、どうしても避けられない問題がある。それが、空気中に存在する“魔素”。魔素があるからこそ、人が魔素を取り込み魔法が使える。ただ、その魔素が溜まり過ぎたりすると、それは穢れになり瘴気を発生させる。そして、その瘴気から魔獣や魔物を発現させてしまうそうだ。

そこで、その穢れや瘴気を浄化する力を持つ者が、浄化をする旅に出る。そうして世界の安定を保っているそうなのだけど……。

『数百年に一度、魔素の量が増える事があって、その時は、どうしても、その世界の者だけでは浄化が完璧にできないのだ』

どうやら、神であっても、不測の事態が起こるようだ。

そこで、世界中でに見合う者を探したが見付からず、他の神にも相談しつつ探し続けた結果、異世界から召喚すると、より力の強いになる─と言う事が分かったそうだ。

「“器”とは…何ですか?」
『浄化の力に特化した“聖女”となる人間の事だ』

異世界から人を召喚する場合、元の世界での力を維持しつつ、その世界の神からの加護が付与され、召喚した側の力とその世界での神からの加護も付与される為、からだが色んな意味で強くなるそうだ。

『勿論、誰でも良い訳ではない。順応するのかも大事だし、その者の意思もある。無理強いは……したくないからな。兎に角、私の世界では、今、その異世界での聖女が必要だと言う訳だ。』
「その異世界の聖女の器を探していたところ、丁度私が引っ掛かった──と言う事ですか?」
『“引っ掛かった”……ふむ。其方、面白い表現をするのだな?』

うんうん─と頷きながら機嫌よく笑っているオールデンさん……イケメンと言うだけで、何となく胡散臭く見えてしまうのは…航のせいだろう───否。

今思えば、母方の祖父もイケオジだった。高校の時に初めてできた彼氏…と思ってたけど、実は賭けのネタにされてたアイツもイケメンだった……

『其方の思考も読めるからな?胡散臭いと思われても仕方無い…と思っておこう。イケメン嫌いとは…本当に面白いな?』

ー私は全く面白くありませんけどね!?ー

でも───

どうせ、この世界での私には、もう居場所なんて無い。来週からは家も職も失って……家族となるひとも失った。この世界に居る意味は……。

「あの…異世界で、その浄化?とやらを終えた後の私は、どうなるんですか?また、この世界に戻されるんですか?」
『それは、其方が選べる。戻って来たいのなら、異世界へ飛ばされたのと同じ時間に戻れる。異世界にそのまま居たいのであれば、そのまま残る事もできる』
「なるほど…………」

異世界なんて、怖くないわけじゃない。魔法アリの世界だ。平和ボケしている私が生きて行けるのかも微妙だ。でも、ここで全て失って生きていくよりは……マシなのかもしれない。
それに、後1ヶ月も、あの2人と同じ職場で働くとか………


「私、その“聖女”やります。ただ……私のお願いも、きいてもらえますか?」
『勿論。聖女として務めてくれるのであれば、できる限りの願いは叶えよう』

と、オールデンさんはニッコリ微笑んだ。




その顔が黒く見えるのは、髪と瞳が黒色だから─と言う事にしておこう。






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