上 下
5 / 29

5 出会い

しおりを挟む
「何をしているんだ?」
「なっ…何だお前は!?」
「物凄い音がしたから来てみたら…これは大変だな」

一体誰が来たのか─確認したくても、まぶたが重たくて目が開けられない。

「お前には関係無いから、その女には触るぬぁーっ!!??」
「何しやがーあぁーっ!!」

ガツンッ─ガタガタッ───

「!!??」

ー一体、何が起こってるの!?ー

「今奴等は──って、この子大丈夫なのか!?」
「パッと見たところ、大丈夫そうだけど、急いで医者に診てもらったら方が良いだろうな。ただ……」
「黒色持ちか……一般の所より、に連れて来た方が良さそうだね」
「そうだな…」

ー“俺達の所”とは……どこ?私は……どうなるの?ー

逃げないと─と思っているけど、体中が痛くて動けない。もう、このまま──と、意識が途切れかけた時


「綺麗な黒色の髪だな……」


そんな都合の良い言葉が聞こえたような気がした。






******


「ん………」

目を開けると、そこには普段見慣れないレースの天蓋があった。勿論、ウェント家の私の部屋に天蓋なんてものはない。ただただ寝るだけのベッドだ。

ーここは……何処?ー


「──なら、このまま俺達が───」
「その方が───あ、目が覚めた?」

ひょこっと私の目の前に顔を寄せて来たのは、白色の髪に紺碧色の瞳の、スラッとした男性だった。

ー綺麗な色の瞳だなぁー

「そう?ありがとう」
「──え?あ?あれ?」

どうやら、声に出てしまっていたみたい?

「大丈夫?見た目の怪我は手当をしたんだけど、どこか体で痛みがある所は無い?」
「え?あ?痛み?あっ!」

そうだ、買い物の帰りに馬車が倒れて……それで……って、この人達が、私の乗っていた馬車を襲撃して来た人達なら───と、今更ながら体がカタカタと震え出す。気を失う前に耳にしたのは、私を変態貴族に預けるとか何とか──

「どこか痛みが───って、そうか、まず先に言っておかなければいけなかったな。君を襲っていた連中は治安部隊に引き渡しておいたから。それで、気を失った君が黒色持ちだったから、取り敢えず俺達の邸に連れ帰って来て、医者に診てもらったんだ」
「あ…それじゃあ……」

『綺麗な黒色の髪だな……』と言ったのは、この人だった?それとも……幻聴だった?

「助けていただいて、ありがとうございました。少し、右肩に痛みはありますけど、他は何ともなさそうです」

馬車ごと倒れて、全身打ち付けて体中が痛かった筈なのに、痛みは右肩に少しあるだけで、寧ろ体が軽くなっている。いつも少し冷えた手足も、何となく温かい気がするのは……久し振りにフカフカの布団で寝たから?

「寝た………って、すみません、今、何時でしょうか!?」

帰りの約束をしていたのが夕方の4時。邸に帰った後は、夕食迄にお風呂場の掃除を言われていて、夕食迄に済まさなければいけなかった。それができていなければ、勿論夕食は食べられず、明日は罰としていつもより多くの仕事が科せられる。

「今は夜の7時だ。黒色持ちは珍しいから、直ぐに身元は分かったんだけど……君を診た医者に、ここで預かって様子をみた方が良いと言われたから、君の家には連絡だけやって、ここで寝てもらっていたんだ」
「あ………」

医者に診てもらった──体を見られたと言う事だ。

「わたし……」
「今は何も話さなくて良いよ。今はゆっくり休むと良い。ちなみに、俺達はこの国の者ではないんだ。そこに居る彼もそうだけど、俺達の国では黒色は珍しくはないし、偏見や差別は無いから安心してもらって良いよ」

そこに居る彼と言われて、その方を見ると、そこには黒色の髪と瞳の男の子が居た。髪と瞳の両方が黒色と言う人は初めて見た。その彼を見ても不快感なんてものはない。とても綺麗な黒色だ。
その彼は、私と目が合うとニッコリ微笑んで

「グウェインの言う通り、安心してゆっくり休むと良いよ。話はまた、落ち着いたらで」
「はい………」

本当は、このまま急いでウェント家へと帰った方が良いと言う事は分かっている。それでも、黒色持ちの私と目を合わせて微笑んでくれて、優しい声を掛けてくれた事が嬉しくて、お互い挨拶もまだで名前すら分からないのに安心してしまって、私はまた、そのまま眠ってしまった。





「よく…寝てるね」
「だな……」
「「…………」」

彼女を診察した医者オティリーが、扉を破壊する勢いでやって来た理由は、彼女の体に体罰の痕があったからだった。


『あんな幼い子に!この国はどうなっているの!?私が1から躾けて───』
『落ち着け!他国で問題を起こすな』


この国の黒色持ちへの扱いが良くなっていないと聞いてはいたが、ここ迄酷いものとは思ってもみなかった。

「上も、把握し切れてないんだろうね。一応報告はしておこう。それと、彼女が聞いていただろうから、それも込で相談してみるよ」
「それが良いな」




私が寝ている間に、私を取り巻く環境が少しずつ変わっていく事になっているとは──寝ていた私には、未だ知る由もなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

【完結】「聖女として召喚された女子高生、イケメン王子に散々利用されて捨てられる。傷心の彼女を拾ってくれたのは心優しい木こりでした」

まほりろ
恋愛
 聖女として召喚された女子高生は、王子との結婚を餌に修行と瘴気の浄化作業に青春の全てを捧げる。  だが瘴気の浄化作業が終わると王子は彼女をあっさりと捨て、若い女に乗 り換えた。 「この世界じゃ十九歳を過ぎて独り身の女は行き遅れなんだよ!」  聖女は「青春返せーー!」と叫ぶがあとの祭り……。  そんな彼女を哀れんだ神が彼女を元の世界に戻したのだが……。 「神様登場遅すぎ! 余計なことしないでよ!」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※他サイトにも投稿しています。 ※カクヨム版やpixiv版とは多少ラストが違います。 ※小説家になろう版にラスト部分を加筆した物です。 ※二章に王子と自称神様へのざまぁがあります。 ※二章はアルファポリス先行投稿です! ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※小説家になろうにて、2022/12/14、異世界転生/転移・恋愛・日間ランキング2位まで上がりました! ありがとうございます! ※感想で続編を望む声を頂いたので、続編の投稿を始めました!2022/12/17 ※アルファポリス、12/15総合98位、12/15恋愛65位、12/13女性向けホット36位まで上がりました。ありがとうございました。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

異世界で狼に捕まりました。〜シングルマザーになったけど、子供たちが可愛いので幸せです〜

雪成
恋愛
そういえば、昔から男運が悪かった。 モラハラ彼氏から精神的に痛めつけられて、ちょっとだけ現実逃避したかっただけなんだ。現実逃避……のはずなのに、気付けばそこは獣人ありのファンタジーな異世界。 よくわからないけどモラハラ男からの解放万歳!むしろ戻るもんかと新たな世界で生き直すことを決めた私は、美形の狼獣人と恋に落ちた。 ーーなのに、信じていた相手の男が消えた‼︎ 身元も仕事も全部嘘⁉︎ しかもちょっと待って、私、彼の子を妊娠したかもしれない……。 まさか異世界転移した先で、また男で痛い目を見るとは思わなかった。 ※不快に思う描写があるかもしれませんので、閲覧は自己責任でお願いします。 ※『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎
恋愛
江島七海はごく平凡な普通のOL。取り立てて目立つ美貌でも無く、さりとて不細工でも無い。仕事もバリバリ出来るという言う訳でも無いがさりとて愚鈍と言う訳でも無い。しかし陰で彼女は『魔性の女』と噂されるようになって――― 生まれてこのかた四半世紀モテた事が無い、男性と付き合ったのも高一の二週間だけ―――という彼女にモテ期が来た、とか来ないとかそんなお話 ※2018.1.27~別作として掲載していたこのお話の前日譚『太っちょのポンちゃん』も合わせて収録しました。 ※本編は全年齢対象ですが『平凡~』後日談以降はR15指定内容が含まれております。 ※なろうにも掲載中ですが、なろう版と少し表現を変更しています(変更のある話は★表示とします)

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結済み】番(つがい)と言われましたが、冒険者として精進してます。

BBやっこ
ファンタジー
冒険者として過ごしていたセリが、突然、番と言われる。「番って何?」 「初めて会ったばかりなのに?」番認定されたが展開に追いつけない中、元実家のこともあり 早々に町を出て行く必要がある。そこで、冒険者パーティ『竜の翼』とともに旅立つことになった[第1章]次に目指すは? [おまけ]でセリの過去を少し! [第2章]王都へ!森、馬車の旅、[第3章]貿易街、 [第4章]港街へ。追加の依頼を受け3人で船旅。 [第5章]王都に到着するまで 闇の友、後書きにて完結です。 スピンオフ⬇︎ 『[R18]運命の相手とベッドの上で体を重ねる』←ストーリーのリンクあり 『[R18] オレ達と番の女は、巣篭もりで愛欲に溺れる。』短編完結済み 番外編のセリュートを主人公にパラレルワールド 『当主代理ですが、実父に会った記憶がありません。』  ※それぞれ【完結済み】

処理中です...