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『還れないのなら、心だけでも還りたい』
あの時、あの空間でウォルテライト女神と話している時には──既にそう思っていたと思う。
あの世界の人達は、とても良い人達だった。特にフロイド様には本当によくしてもらったし、いつも助けてもらっていた。衛と結婚していなくて美幸も生まれていなかったら、フロイド様となら─と、思った事もあった。それでも、私は衛と美幸を忘れられなかったし、捨てる事もできなかった。
聖女として動いているうちは、衛の事も美幸の事も忘れる事ができた。だから、私は一生懸命に頑張った。「頑張り過ぎです」と言われても、「大丈夫です」と笑っていられた。
たからか…浄化巡礼の旅が無事に終わると、私の中で何かが切れてしまったのだ。全てが…“無”になった感覚だった。
目を瞑ると、そこには衛と美幸の姿があるのに、私が居ない。
ーどうしてそこに、私が居ないの?ー
きっと、私の心は壊れていたんだと思う。
私はあの日の夜、何も躊躇う事なく、自ら命を断ったのだ。それが、私─美南の一度目の人生だった。
イグニアス=レイナイト
彼に会った瞬間、“衛だ!”と分かった。でも、彼には前世の記憶がなかった。それでも、彼を見た瞬間泣いてしまった。
イグニアスとライラとして初めて会ったのは、レイナイト邸で開かれた婦人会のお茶会に連れて行かれた時だった。私が5歳位の時だっただろうか?会った瞬間泣いてしまった私を、泣き止む迄一緒に居て背中を優しく撫でてくれた。彼は、衛と同じように優しい人だった。
それ以降も、母がレイナイト邸へ行く時は一緒に付いて行き、イグニアスと一緒に遊んで──そのまま婚約を結んだ。前世の記憶が無くとも彼は私には優しかった。私に向ける感情が妹みたいであっても、お互い“好き”の種類が違ったとしても、うまく─仲良くやっていけると思っていた。
それが、まさかの愛妾とその愛妾の妊娠発覚。
日本ならばアウトだけど、ここは異世界であり貴族社会よろしくな世界。愛妾、愛人なんてよくある話なのだ──と、自分に言い聞かせた。
「心臓が……少しずつ弱って来ています。」
レイナイト付きの医者に告げられたのは、余命1年だった。
ー私は、何の為に転生させられたの?ー
思わず、この世界の女神達を……恨んでしまった。
目の前に愛しい人が居るのに、心を捉える事ができず、もう一度我が子になってくれた娘の成長を、また見届ける事ができない。
「こんな事なら、生まれ変わりたくなんて…なかった…」
「───みな?」
彼の口からその名を聞いた瞬間、ドロドロしていた感情が一気に爆発した。思っていた事、言いたかった事全てを彼─イグニアスにぶつけた。ハッキリ覚えてはいないけど、結構酷い言葉も口にしたと思う。それなのに、イグニアスは嬉しそうに笑っていた。容姿は全く違うのに、その笑顔は衛の時と同じ笑顔に見えた。
それからの1年は、本当に幸せだった。イグニアスは、私─ライラを最期迄愛してくれた。
ーもう、これで十分だ。心残りがあるとすれば…ミシュの事だけだー
今世こそは、孫の顔を見る迄は来るなと念押しをしておいた。
目が覚めると、そこはまた、真っ白な空間だった。
『ミナ─いえ、今はアンジーだったわね。久し振りね?』
目の前に、以前会った時と全く変わらない姿をしたウォルテライト女神が居た。
『前前世、前世の時は…ごめんなさい。二度もあなたを傷付ける事になるとは…。』
早死云々は置いておいて、イグニアスの浮気?は女神のせいではないけど。ただ、何となくだけど、人の命を操作?転生させるのは、神々の世界でも禁忌に近いとされているから、三度目の転生は無いと思っていた。でも───
「あれ?私、三度目?」
ようやく蘇った記憶。
『ええ。三度目の転生は、本来であれは不可能に近いのだけど…もとは、私達神々の失態であった事と…数多の者達が貴方の幸せを願ってくれたお陰で、三度目の転生が可能になったのよ。』
「…数多の?」
『特に…ミナの時には、大陸全土で貴方に祈りが捧げられたわ。そして──フロイドと言う魔導師の願いは特に強かった。“貴方に幸せを”と』
ーフロイド様…ー
『アンジー、今回こそは……幸せになれる事を…私からも祈っています。良い意味で、もう貴方に会う事がないように……』
と、ウォルテライト女神はニコリと微笑んで──私の景色は暗転した。
ー怠いー
体が重い────重い?
「────っ!!」
目を開けると、そこには彼─フェリクスの寝顔があった。
そして、一気に蘇った記憶。
「まもる……イグニアス………フェリクス………」
「───ん??」
フェリクスの目がソロリと開かれて、青色の瞳が現れた。
「んー…アンジー、おはよう……えっと…その…大丈夫?」
申し訳無さそうな顔をしているフェリクス。
「───フェリクスの馬鹿!初めてな相手に…有り得ないからね!」
「ゔっ─ごめん!アン………ジー?」
と、私の名前を呼びながら、少し躊躇うフェリクス。きっと、私の口調や雰囲気が変わった事に気が付いたんだろう。
「一度目と二度目は優しかったのに…」
「───っ!アンジー!!!」
「えー何で!?」
と、何故かまた、手加減無しに攻められた──
「男の子と女の子の双子ですよ!」
はい。初夜で妊娠し、結婚後1年も経たずに双子を出産しました。その双子を見た瞬間─
「「ライ!ミシュ!」」
と、フェリクスと一緒に呟いて泣いてしまったのは……許して欲しい。お互いの両親は不思議そうな顔をしていたけど、それは見なかった事にした。
「うーん……やっぱり、エブリンの背中には高機能、高性能なボタンが付いてるわ。」
「だね。その分、ニックは本当によく寝る子だね。」
美幸、ミシュエルリーナ改め─エブリンは、今世でも背中にボタンがあり、常に私かフェリクスが抱いている。
コーライル改め─ニックは、エブリンとは真逆で「息、してる?」と、何度も確かめたくなる程にベッドの上でよく寝ている。
日本人の記憶がある私達は、出来る限り自分達だけで育児をしている。本当に大変だけど、その大変さがとても嬉しい。子供の成長を見られる喜び。一つだけ……問題があるとすれば───
「ねぇ、フェリクス。そろそろ下ろしてくれない?」
「え?嫌だ。今日は久し振りの休みなんだから、アンジーを補充しないと明日から頑張れない。」
私は今、ソファーに座っているフェリクスの膝の上に抱き抱えられるようにして座って──座らされている。どうやら、三度目の人生にして、フェリクスは“溺愛”を会得したらしい。
こればっかりは未だに慣れないし恥ずかしい。
でも───
ようやく手に入れた幸せだ
今度こそ──
フロイド様。本当に、ありがとうございました──
ようやく、本当に……幸せになりました───
❋これにて完結となります。最後迄お付き合いいただき、ありがとうございました❋
゚+。:.゚(*゚▽゚*)゚.:。+゚
あの時、あの空間でウォルテライト女神と話している時には──既にそう思っていたと思う。
あの世界の人達は、とても良い人達だった。特にフロイド様には本当によくしてもらったし、いつも助けてもらっていた。衛と結婚していなくて美幸も生まれていなかったら、フロイド様となら─と、思った事もあった。それでも、私は衛と美幸を忘れられなかったし、捨てる事もできなかった。
聖女として動いているうちは、衛の事も美幸の事も忘れる事ができた。だから、私は一生懸命に頑張った。「頑張り過ぎです」と言われても、「大丈夫です」と笑っていられた。
たからか…浄化巡礼の旅が無事に終わると、私の中で何かが切れてしまったのだ。全てが…“無”になった感覚だった。
目を瞑ると、そこには衛と美幸の姿があるのに、私が居ない。
ーどうしてそこに、私が居ないの?ー
きっと、私の心は壊れていたんだと思う。
私はあの日の夜、何も躊躇う事なく、自ら命を断ったのだ。それが、私─美南の一度目の人生だった。
イグニアス=レイナイト
彼に会った瞬間、“衛だ!”と分かった。でも、彼には前世の記憶がなかった。それでも、彼を見た瞬間泣いてしまった。
イグニアスとライラとして初めて会ったのは、レイナイト邸で開かれた婦人会のお茶会に連れて行かれた時だった。私が5歳位の時だっただろうか?会った瞬間泣いてしまった私を、泣き止む迄一緒に居て背中を優しく撫でてくれた。彼は、衛と同じように優しい人だった。
それ以降も、母がレイナイト邸へ行く時は一緒に付いて行き、イグニアスと一緒に遊んで──そのまま婚約を結んだ。前世の記憶が無くとも彼は私には優しかった。私に向ける感情が妹みたいであっても、お互い“好き”の種類が違ったとしても、うまく─仲良くやっていけると思っていた。
それが、まさかの愛妾とその愛妾の妊娠発覚。
日本ならばアウトだけど、ここは異世界であり貴族社会よろしくな世界。愛妾、愛人なんてよくある話なのだ──と、自分に言い聞かせた。
「心臓が……少しずつ弱って来ています。」
レイナイト付きの医者に告げられたのは、余命1年だった。
ー私は、何の為に転生させられたの?ー
思わず、この世界の女神達を……恨んでしまった。
目の前に愛しい人が居るのに、心を捉える事ができず、もう一度我が子になってくれた娘の成長を、また見届ける事ができない。
「こんな事なら、生まれ変わりたくなんて…なかった…」
「───みな?」
彼の口からその名を聞いた瞬間、ドロドロしていた感情が一気に爆発した。思っていた事、言いたかった事全てを彼─イグニアスにぶつけた。ハッキリ覚えてはいないけど、結構酷い言葉も口にしたと思う。それなのに、イグニアスは嬉しそうに笑っていた。容姿は全く違うのに、その笑顔は衛の時と同じ笑顔に見えた。
それからの1年は、本当に幸せだった。イグニアスは、私─ライラを最期迄愛してくれた。
ーもう、これで十分だ。心残りがあるとすれば…ミシュの事だけだー
今世こそは、孫の顔を見る迄は来るなと念押しをしておいた。
目が覚めると、そこはまた、真っ白な空間だった。
『ミナ─いえ、今はアンジーだったわね。久し振りね?』
目の前に、以前会った時と全く変わらない姿をしたウォルテライト女神が居た。
『前前世、前世の時は…ごめんなさい。二度もあなたを傷付ける事になるとは…。』
早死云々は置いておいて、イグニアスの浮気?は女神のせいではないけど。ただ、何となくだけど、人の命を操作?転生させるのは、神々の世界でも禁忌に近いとされているから、三度目の転生は無いと思っていた。でも───
「あれ?私、三度目?」
ようやく蘇った記憶。
『ええ。三度目の転生は、本来であれは不可能に近いのだけど…もとは、私達神々の失態であった事と…数多の者達が貴方の幸せを願ってくれたお陰で、三度目の転生が可能になったのよ。』
「…数多の?」
『特に…ミナの時には、大陸全土で貴方に祈りが捧げられたわ。そして──フロイドと言う魔導師の願いは特に強かった。“貴方に幸せを”と』
ーフロイド様…ー
『アンジー、今回こそは……幸せになれる事を…私からも祈っています。良い意味で、もう貴方に会う事がないように……』
と、ウォルテライト女神はニコリと微笑んで──私の景色は暗転した。
ー怠いー
体が重い────重い?
「────っ!!」
目を開けると、そこには彼─フェリクスの寝顔があった。
そして、一気に蘇った記憶。
「まもる……イグニアス………フェリクス………」
「───ん??」
フェリクスの目がソロリと開かれて、青色の瞳が現れた。
「んー…アンジー、おはよう……えっと…その…大丈夫?」
申し訳無さそうな顔をしているフェリクス。
「───フェリクスの馬鹿!初めてな相手に…有り得ないからね!」
「ゔっ─ごめん!アン………ジー?」
と、私の名前を呼びながら、少し躊躇うフェリクス。きっと、私の口調や雰囲気が変わった事に気が付いたんだろう。
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「───っ!アンジー!!!」
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「男の子と女の子の双子ですよ!」
はい。初夜で妊娠し、結婚後1年も経たずに双子を出産しました。その双子を見た瞬間─
「「ライ!ミシュ!」」
と、フェリクスと一緒に呟いて泣いてしまったのは……許して欲しい。お互いの両親は不思議そうな顔をしていたけど、それは見なかった事にした。
「うーん……やっぱり、エブリンの背中には高機能、高性能なボタンが付いてるわ。」
「だね。その分、ニックは本当によく寝る子だね。」
美幸、ミシュエルリーナ改め─エブリンは、今世でも背中にボタンがあり、常に私かフェリクスが抱いている。
コーライル改め─ニックは、エブリンとは真逆で「息、してる?」と、何度も確かめたくなる程にベッドの上でよく寝ている。
日本人の記憶がある私達は、出来る限り自分達だけで育児をしている。本当に大変だけど、その大変さがとても嬉しい。子供の成長を見られる喜び。一つだけ……問題があるとすれば───
「ねぇ、フェリクス。そろそろ下ろしてくれない?」
「え?嫌だ。今日は久し振りの休みなんだから、アンジーを補充しないと明日から頑張れない。」
私は今、ソファーに座っているフェリクスの膝の上に抱き抱えられるようにして座って──座らされている。どうやら、三度目の人生にして、フェリクスは“溺愛”を会得したらしい。
こればっかりは未だに慣れないし恥ずかしい。
でも───
ようやく手に入れた幸せだ
今度こそ──
フロイド様。本当に、ありがとうございました──
ようやく、本当に……幸せになりました───
❋これにて完結となります。最後迄お付き合いいただき、ありがとうございました❋
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(*ノ>ᴗ<)テヘッ
どら様
ありがとうございます。
今作品は短編で、もう終わりまで書いているので、後少しだけ美南について加筆するぐらいなんです。
( -`ω-)✧
3年超えしたスマホの調子がヤバくて、更にヤバくなる前に、無事に完結にさせたいと思っています(笑)
(A;´・ω・)アセアセ
アンジーの家庭については、サラッと出て来ます。
..._〆(゚▽゚*)