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壱
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棚橋衛
それが、俺の一度目の人生の名前だった。
彼女─美南と出会ったのは大学で、同じサークルに入った事が切っ掛けで、色々話をするうちに好きになり、俺から告白して付き合うようになった。
大学を卒業と同時に結婚して、その翌年には第1子となる美幸が生まれた。美幸は美南にそっくりで、本当に可愛い娘だった。
ーこんな可愛い子を嫁に……無理だー
なんて、親馬鹿?な考えをしていた自分を殴ってやりたい。
3人で公園を散歩して、美南が途中でトイレに行った─
たったそれだけだった。
「ごめんなさい!その子の事、お願いします!」
「───みな!!」
美南と高校生らしき女の子の足下が光りだしたと思えば、その光が2人を包み込み、その光が消えるのと同時に、そこに居た筈の2人の姿も消えていた。
「美南!?」
ー一体何が起こった!?ー
辺りを見回してみても、美南も女の子も見当たらない。普段はもう少し人が居る公園なのに、人の影すらなく静まり返っている。
それから、暫く探し続けたが美南も女の子も見付からなかった。
俺には、すやすやと眠る美幸だけが残った。
『何かねー、赤ちゃんって、背中にボタンがあるのよ。』
『ボタン?』
『そう。抱っこしてる美幸が寝たからベットに下ろすでしょう?そうしたらね、美幸は必ず1分後には泣き出すの。もうね、高機能、高性能なボタンが背中に付いてるの!凄くない!?』
『───リセットボタンがあったら良いな……くくっ……』
『笑い話じゃないからね!?お陰で寝不足だからね!?』
寝不足だ─と言いながらも笑っていた美南。
確かに、美幸は抱っこして寝た後、ベッドに下ろすと1分後には「ふえっ──」と言って泣き出す。
「本当に……高機能、高性能なボタンが付いてるんだな…」
抱き上げると、また安心したように腕の中で寝る美幸が、とても愛しい。
ー美南の分迄…俺が…ー
ギュッと美幸を抱きしめた。
それから、両親や同僚の手を借りながら美幸を育て、警察官である事を利用して美南を探し続けたが、見付ける事ができなかった。その上……美幸が高校生になる前に、俺は…まさかの殉死。死ぬ直前に思った事は──
「あ、コレ、美南に会ったら…怒られるよな?」
だった。勿論、その日の朝に美幸と交した約束も守れないと言う事も───。
ー可能であれば、どんな形でも良いから、美南に会いたい。美幸に会いたいー
「棚橋さん!しっかりして下さい!娘さん…美幸さんがっ!1人に──っ!」
薄れ行く意識の中で、同僚の叫び声が微かに耳に届いた。
ー美幸……すまない……ー
俺の一度目の人生の記憶は、そこでプツリと途絶えた。
イグニアス=レイナイト
それが、俺の二度目の人生の名前だった。
銀髪に青い瞳。所謂“イケメン”で侯爵家嫡男とくれば、兎に角モテた。それでも、俺には幼馴染みの婚約者─ライラ─が居たし、ライラの事は妹のようではあったが可愛らしく思っていたから、特にこれと言って文句も不満もなかった。それに、何故か、ライラと居ると懐かしいような、安心するような気持ちになった。
ーこのまま、ライラと結婚するんだろうなー
と、その時は本当にそう思っていた───筈だった。
「私、キャスリーン=クルーソンと言います。どうぞ、キャスリーンとお呼び下さい。」
貴族が通う学園でキャスリーンと出会い、そこから、俺の人生が少しずつズレていってしまったのだ。
ライラは、いつも俺の後ろで静かに笑っている控えめな性格で、そんなライラが可愛らしいと思っていた。
キャスリーンは、そんなライラとは真逆の性格で、伯爵令嬢でありながらも、侯爵家の子息である俺にも物怖じせず接して来る女性だった。そんな彼女が新鮮で………ついつい…彼女に惹かれていってしまった。
ライラには悪いと思いながらも、“貴族にはよくある話だ”“学園生活の間だけだから”と、心の中で自分勝手な言い訳をしながらキャスリーンとの仲を深めていってしまった。キスはしたが、最後の一線だけは超える事はしなかった。どんなに誘惑されても、その時には必ずライラの顔が頭の中に浮かび上がり、その時のライラの悲しそうな顔が俺の心を締め付けた。
ーいい加減、キャスリーンとの関係を切らないとー
と思いながら、俺は学園を卒業してからもキャスリーンとの関係を続けてしまっていた。
そして、そのままライラと結婚。結婚してから3年後にコーライルが生まれ、その2年後にミシュエルリーナが生まれた。
俺とライラは、キャスリーンと言う愛人の存在を除けば、比較的仲の良い夫婦だったと思う。
ミシュエルリーナが生まれたのを機に、キャスリーンとの関係を切ろうと決心していた時に、キャスリーンの妹の婚約発表を兼ねた夜会に招待されたのだった。
それは、俺にとって、最悪の始まりだった。
❋棚橋美南、ライラに幸せを……と、思い書き始めました。ミナ、ライラ(ヒロイン)は頑張ったので、今回は、イグニアス(ヒーロー)に頑張ってもらう予定です(笑)。続編?的なお話なので、サクサクと進めたいと思っています。相変わらずのゆるふわ設定なので、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです❋
•͙‧⁺o(⁎˃ᴗ˂⁎)o⁺‧•͙‧⁺
それが、俺の一度目の人生の名前だった。
彼女─美南と出会ったのは大学で、同じサークルに入った事が切っ掛けで、色々話をするうちに好きになり、俺から告白して付き合うようになった。
大学を卒業と同時に結婚して、その翌年には第1子となる美幸が生まれた。美幸は美南にそっくりで、本当に可愛い娘だった。
ーこんな可愛い子を嫁に……無理だー
なんて、親馬鹿?な考えをしていた自分を殴ってやりたい。
3人で公園を散歩して、美南が途中でトイレに行った─
たったそれだけだった。
「ごめんなさい!その子の事、お願いします!」
「───みな!!」
美南と高校生らしき女の子の足下が光りだしたと思えば、その光が2人を包み込み、その光が消えるのと同時に、そこに居た筈の2人の姿も消えていた。
「美南!?」
ー一体何が起こった!?ー
辺りを見回してみても、美南も女の子も見当たらない。普段はもう少し人が居る公園なのに、人の影すらなく静まり返っている。
それから、暫く探し続けたが美南も女の子も見付からなかった。
俺には、すやすやと眠る美幸だけが残った。
『何かねー、赤ちゃんって、背中にボタンがあるのよ。』
『ボタン?』
『そう。抱っこしてる美幸が寝たからベットに下ろすでしょう?そうしたらね、美幸は必ず1分後には泣き出すの。もうね、高機能、高性能なボタンが背中に付いてるの!凄くない!?』
『───リセットボタンがあったら良いな……くくっ……』
『笑い話じゃないからね!?お陰で寝不足だからね!?』
寝不足だ─と言いながらも笑っていた美南。
確かに、美幸は抱っこして寝た後、ベッドに下ろすと1分後には「ふえっ──」と言って泣き出す。
「本当に……高機能、高性能なボタンが付いてるんだな…」
抱き上げると、また安心したように腕の中で寝る美幸が、とても愛しい。
ー美南の分迄…俺が…ー
ギュッと美幸を抱きしめた。
それから、両親や同僚の手を借りながら美幸を育て、警察官である事を利用して美南を探し続けたが、見付ける事ができなかった。その上……美幸が高校生になる前に、俺は…まさかの殉死。死ぬ直前に思った事は──
「あ、コレ、美南に会ったら…怒られるよな?」
だった。勿論、その日の朝に美幸と交した約束も守れないと言う事も───。
ー可能であれば、どんな形でも良いから、美南に会いたい。美幸に会いたいー
「棚橋さん!しっかりして下さい!娘さん…美幸さんがっ!1人に──っ!」
薄れ行く意識の中で、同僚の叫び声が微かに耳に届いた。
ー美幸……すまない……ー
俺の一度目の人生の記憶は、そこでプツリと途絶えた。
イグニアス=レイナイト
それが、俺の二度目の人生の名前だった。
銀髪に青い瞳。所謂“イケメン”で侯爵家嫡男とくれば、兎に角モテた。それでも、俺には幼馴染みの婚約者─ライラ─が居たし、ライラの事は妹のようではあったが可愛らしく思っていたから、特にこれと言って文句も不満もなかった。それに、何故か、ライラと居ると懐かしいような、安心するような気持ちになった。
ーこのまま、ライラと結婚するんだろうなー
と、その時は本当にそう思っていた───筈だった。
「私、キャスリーン=クルーソンと言います。どうぞ、キャスリーンとお呼び下さい。」
貴族が通う学園でキャスリーンと出会い、そこから、俺の人生が少しずつズレていってしまったのだ。
ライラは、いつも俺の後ろで静かに笑っている控えめな性格で、そんなライラが可愛らしいと思っていた。
キャスリーンは、そんなライラとは真逆の性格で、伯爵令嬢でありながらも、侯爵家の子息である俺にも物怖じせず接して来る女性だった。そんな彼女が新鮮で………ついつい…彼女に惹かれていってしまった。
ライラには悪いと思いながらも、“貴族にはよくある話だ”“学園生活の間だけだから”と、心の中で自分勝手な言い訳をしながらキャスリーンとの仲を深めていってしまった。キスはしたが、最後の一線だけは超える事はしなかった。どんなに誘惑されても、その時には必ずライラの顔が頭の中に浮かび上がり、その時のライラの悲しそうな顔が俺の心を締め付けた。
ーいい加減、キャスリーンとの関係を切らないとー
と思いながら、俺は学園を卒業してからもキャスリーンとの関係を続けてしまっていた。
そして、そのままライラと結婚。結婚してから3年後にコーライルが生まれ、その2年後にミシュエルリーナが生まれた。
俺とライラは、キャスリーンと言う愛人の存在を除けば、比較的仲の良い夫婦だったと思う。
ミシュエルリーナが生まれたのを機に、キャスリーンとの関係を切ろうと決心していた時に、キャスリーンの妹の婚約発表を兼ねた夜会に招待されたのだった。
それは、俺にとって、最悪の始まりだった。
❋棚橋美南、ライラに幸せを……と、思い書き始めました。ミナ、ライラ(ヒロイン)は頑張ったので、今回は、イグニアス(ヒーロー)に頑張ってもらう予定です(笑)。続編?的なお話なので、サクサクと進めたいと思っています。相変わらずのゆるふわ設定なので、軽い気持ちで読んでいただければ幸いです❋
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