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二度目の召喚
今だけ
しおりを挟む『兎に角、そこに関しては安心してちょうだい。』
それを聞いたバーミリオンさんとアズールさんは、ホッとしたような顔で頷いた。
『それと、エメラルドからは聖女の能力は取らせてもらうわ。勿論、魔力や加護を与える事もしない。他人を殺めようとした者には、喩え召喚された者であっても与える事はできないわ。』
エメラルドにとって、聖女ではなくなると言う事は、これからは大変な事になるだろう。
“聖女だから”と崇拝されチヤホヤされていた。
では、その聖女の能力を失くした“元聖女”の扱いは、どんなモノになるのか──おそらく、それらは180度変化するだろう。それに、エメラルドは耐えられるのか。耐えられなくても…頑張るしかない。
『それと、そこのメイナード。』
「──っ!はいっ!!」
急に声を掛けられたメイナードさんの驚きっぷりは凄かった。そりゃそうだ。相手は女神様だもんね。
『ウィステリアを襲わせた者が居るでしょう?あの者も……暫くの間預かるわ。良いかしら?』
「はい!全く問題ありません!好きなだけどうぞ!」
『キッカ─』
『承知しました。今すぐに送ります!』
“送ります”──なるほど。あの脳筋は、千代様の逆鱗に触れたから、アリシア様のように日本で預かるのか…。
あの脳筋も、“丑三つ時行脚”とやらをさせられるんだろうか?あれ?ひょっとして、アイリーン様より千代様の方が……格上だったりするのかなぁ?
『あの騎士は、また頃合いを見て……返してくれると思うわ。』
「分かりました。」
『さて、ウィステリア。他には何もない?』
「───あの湖に沈んだルーファスさんは……」
『ごめんなさい。あの湖に関しては、私からは何も言えないのよ。ただ……あの湖に沈んだ者は……この地には二度と上がって来る事は無いわ。私が掬い上げる事もできないの。』
“掬い上げる事もできない”
もう無理だよね─と思いながらも、ひょっとしたらと言う思いがあったけど、その可能性は無いようだ。
あの顔面攻撃や砂糖口撃を喰らうことは───
もう、ないらしい──────
『──ウィステリア……必ず……元の世界に還れ………』
還ろう──
赤いピアスと一緒に────
『一週間後に迎えに来るわ』
そう言って、アイリーン様は塔全体に張っていた結界を解いて姿を消した。
未だ気を失ったままのエメラルドは、アイリーン様と言葉を交わす事無く、言い訳すらさせてもらえないまま、聖女としての能力を取り上げられ、“愛し子”からも外された。ここに居るのは、“罪を犯したただの女の子”でしかなかった。
いや、この世界は貴族主義の階級社会だ。能力を取り上げられた平民の女の子が、伯爵家嫡男の死に関わっていた─となると…
ー私が考えても仕方無いよねー
フルフルと軽く頭を振って、それ以上考えるのを止めた。
『すみません。3日程留守にします。』
少しやつれた?感じのキッカさんは、そう言って、転移魔法でどこかへと行ってしまった。
「取り敢えず、今のこの状態のエメラルドをどうこうする事はできないから、医師を呼ぶついでに、俺達も城の方に戻ろうか」
と言うバーミリオンさんの言葉に賛同して、私達4人はその場を後にした。
*王城応接室*
「女神……アイリーン様が!?」
「あぁ!本当に目の前に現れて!話もしたんだ!!」
「「「…………」」」
応接室にはアレサンドル様が待っていて、興奮しまくっているメイナードさんと2人で盛り上がっている。そんな2人を笑いながら見ているのは、バーミリオンさんとアズールさんと私の3人だ。
「あと1週間か…何する?やっぱり毎日のお茶は必要だよな?美味しい物を食べ納めしないとな?」
「バーミリオンさんとエラさんは、毎日は無理ですよね?」
「魔導士達はリアの事を知っているから、1週間ぐらいなら何とかなると思うし、何とかするよ。」
「じゃあ、毎日でも大丈夫!」
「本当にリアはぶれないな!いっそ、気持ちいいな!」
ーだって、やっぱりモテるイケメン有名人と2人きりと言うのは遠慮したいからねー
「また、還りは突然かもしれないから、先に言っておくけど…リア。リアにとっては辛い事になってしまったけど、俺は、またリアに会えて嬉しかったよ。万にーつも可能性は無いらしいから、もう…二度と会えないんだろうけど……日本では、元気でな。リアの幸せを、この世界から祈ってるから。」
バーミリオンさんはフワリと微笑んで、私の頭をポンポンと優しく叩いた。
「リアなら…きっと幸せになれるよ。」
今度はアズールさんが優しく私の背中をポンポンと叩く。
「ありがとう…ございます……」
どうやら、私はまた泣いているらしい。
元の世界に還れる喜びからなのか、2人の優しさからなのか、それとも………何処にも居ないルーファスさんを思ってなのか───
この世界を楽しむ─と、一度は決めたのだから、残りの1週間は思い残す事なく楽しもう。
泣くのは、今だけだ─────
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