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二度目の召喚

少しずつ、動き出す

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甘味に罪はない。

私は、どうせ還れないなら、この1年はこの世界を楽しむ!と決めたから、エメラルドのお陰で嫌な事があったから─と言っても、パンケーキを諦める!と言う選択肢はなかった。

そのパンケーキ屋さんは、小さいお店で行列ができていて、私達も1時間程並んでようやく入店できた。




「ふわぁー」

目の前に出て来たパンケーキは、平たいモノではなく、厚みのあるフワフワのパンケーキで、少し蕩けた感じの生クリームが掛かっている。食べてみると、見た目に反して甘さ控えめ─どころか、ベリー系の味がするサッパリした感じの生クリームで、パンケーキ自体はフワフワではなく、もっっちりとしていた。

「色んな意味で裏切られた!」

勿論、良い意味で。見た目とのギャップ?で、脳がビックリしている。

「──くくっ…気に入ってもらえた?」
「はっ!─はい、すごく美味しいです!」

ルーファスさんが居る事を忘れていた─なんて事はありませんよ?

一緒に注文した紅茶も美味しい。と言うか、この世界の紅茶は、どの種類のモノも飲みやすくて美味しいモノばかりだ。この1年、キッカさんと食べ歩きならぬ、食べ転移するのもアリかもしれない。

「ルーファスさんは、甘い物は大丈夫なんですか?」

「あぁ。俺の両親が甘い物が好きで、よくウチの料理にも食後のデザートとして色々出て来るんだ。ここのパンケーキ屋も、母のお気に入りのお店なんだ。」

なるほど。てっきり、過去にデートで来たお店なのかと思ってたけど…。
確か…ルーファスさんは伯爵家の嫡男だったっけ?“ウチの 料理”なんてサラッと言うけど、フルコースで出て来たりするんだろうな…。

「デートにはお勧めだ─と、母には微笑まれたけどね」
「ぐっ───」

親に知られるデートって、恥ずかしくな─────

「─────デート?」
「ん?」

頭からスッポリと抜けていた。もともとキッカさんと3人で来る予定だったから、“お出掛け”と思ってたけど…た…確かに。異性2人で出掛けたら…デートになる……のか!?

チラッとルーファスさんを見ると、「どうかした?」と言いながら笑っている。笑わなくなったと言うルーファスさんは、どのルーファスさんなんだろうか?と思ってしまうくらい、やっぱりルーファスさんはいつも笑顔だ──ではなくて…

「デートになるんだな…と思いまして……」
「今頃?」
「あー……エメラルドの事でスッポリ抜けてました。」
「なるほど……」

「んー」と、ルーファスさんは少し思案した後「もっと意識してもらえるように…頑張らないと駄目なんだな…」と呟いた。

ー違うから!意識はしてるから!ー

なんて恥ずかしくて言えないよね!?

それからは、またまた砂糖口撃を喰らう事になり、パンケーキの味も、最後の方はよく分からなくなってしまったのは……仕方無い。











*ルーファス視点*

『今日は………本っ当に色々ありましたけど、ありがとうございました。』

ペコリと頭を下げてお礼をするウィステリア殿の顔は、なんとも微妙な顔なのは…仕方無い。それでも、また次の約束はできたから良しとする。





─アレサンドル執務室─


「あ、ルーファス、おかえり。楽しかったか?」

「楽しかったが8割、どうしてくれようが2割だな。」

「は?“どうしてくれよう”??」

俺は、今日あった出来事をアレサンドルに話した。




「それは大変だったな……と言うか、そんな報告は、エメラルド殿側からは上がっていないぞ?」

「上がる訳ないだろう。聖女にとって都合の悪い事だからな。」

聖女付きの侍女や護衛騎士は、聖女に傾倒している者が多い。それが、今のエメラルド殿を作った原因の一つにもなっている。人員を変えても、結局は同じパターンになってしまうのだ。
あんな聖女であっても、聖女は聖女。キッカ殿でさえ、エメラルド殿の扱いには困っているのに手が出せない状態だと言っていたから、俺達にもどうする事もできない。
早く、女神アイリーン様が目覚めれば良いと思う反面、ずっと眠っていれば良いのにとも思ってしまう。
何となく、ウィステリア殿は、元の世界に還るんだろうな─と思っているからだろう。

「取り敢えず、同じ愛し子のウィステリア殿から言われたなら…少しは反省してくれれば良いが……」

ー無理だよなー

とは、俺もアレサンドルも口には出さなかった。

「もう二度と関わりたくないと言っていたから、大丈夫だとは思うが……後は、聖女の周りの者達がこの事を知った時に、どう動くか─だな。」

“聖女の為に”と、勝手に動く者は居ないとは言い切れない。

「キッカ殿にも、報告しておいた方が良いな。」

それしかないと思っていると


「話はウィステリア様から聞いたわ。」

と、ニッコリ微笑むキッカ殿が現れた。
いや、微笑んではいるが、殺気を含んだ圧が半端無い。

「ウィステリア様は私が護るけど、お前達はもう少し、あの聖女を見張っておいてちょうだい。もう、あそこ迄来たら……はアイリーン様も赦してくれると思うから。」

それだけ言うと、キッカ殿はまた姿を消した。











*??*


『あまり、悠長な事は言ってられないわね…鹿を……なんとかしましょうか………』






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