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42 訓練終了
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「それと、この世界の聖女は、基本は召喚された国だけを浄化するの。他国が、他国の聖女に浄化を頼む事はないし、取り合いになる事もないの。聖女の力にも限界はあるから。それに、聖女を傷付けたり、無理矢理聖女の意思に反する事をさせたりすると、その国には二度と聖女は現れない─と言われているから。だから、私がいくら優秀な聖女だとしても、この国の穢れを浄化する事はないわ。もし、貴方がこれから頑張って聖女になれたら……イーレンの魔道士や騎士と共に行動しても、浄化だけは1人でしなければいけないのよ。」
それも…知らなかった。
でも、それは良いルール?だと思う。どこでも浄化させられる─なんて、聖女とは便利屋ではないし、珍しい光属性の魔力持ちと言うだけで、命の限りのある人間なのだ。酷使して良い理由にはならない。
「貴方には、その覚悟がある?」
「…………」
「覚悟があるなら…私が貴方をキッチリと指導してあげるわ。」
「………ます…………」
「何か…言った?ちゃんと聞こえなかったんだけど…」
「日本に!還ります!」
「あら、そうなの?残念だわ……」
「「………」」
“残念だわ”─と、副声音が聞こえたのは気のせいじゃないと思う。しかも、ミヤ様の返しがかぶせ気味だったのも気のせいじゃない。
「─と言う事らしいから、ハル、申し訳無いけど、彼女の事、よろしくね?」
「はい、了解です!」
「ブルーナ王女、王太子殿下に、報告をお願いできるかしら?」
「分かりました。」
そうして、清水さんは日本に還る事になった。
******
「“還る”と言う選択肢を選んでくれて……本当に良かった……」
ー聖女が還ると聞いて喜ぶのも……滅多にないよね?ー
本当に、心底思っていた事が分かる程、ホッとした顔で呟いたお兄様は、ここ数日で少しやつれたような顔をしている。その理由は、お姉様─ニコルに原因があるようだ。
ニコルは既に王族籍から外されていて、今は魔塔の地下にある魔力持ち専用の牢に入れられている。その牢自体に無効化の魔法が掛けられている上、リュウさんが魔法封じの魔法を掛けている為、ニコルが魔法を使う事はないが、牢に入れられてからずっと叫んでいるらしい。
そんなニコルも、魔法使いには変わりは無い訳で、イーレンの魔道士や一部の貴族の中には、未だにニコルを崇拝している者も居て、その魔道士達の対応やらで、かなりバタバタしているらしい。それでも、大きなトラブルが起きていないのは、今現在、リュウさんが居ると言う事が大きいそうだ。
「魔道士達が、いくらニコルを助けたいと思ったところで、リュウ殿には敵わないからね。」
ただ、リュウさんが隣国へ帰ってしまったら──そんな訳で、1日でも早く、ニコルをどうするのか─と、議論も紛糾しているそうだ。
「それで……ブルーナは?ブルーナは、これからどうしたい?」
「私は───」
あれから、私も色々考えた。父が国王陛下である限り、1日でも早く王族籍から抜いてもらって、イーレンからも出て行きたいと。でも……
「ブルーナ、私の事は気にしなくて良いからね。」
「え?」
「正直、ブルーナがこれからの私を支えてくれれば嬉しいけど、今迄、王族としてブルーナには何もしてあげられなかったから、ブルーナが王族の為に何かする必要も…ない。もともと、ブルーナは表には出てないから、このままフェードアウトしても問題無い。残ってくれたら嬉しいけど、ブルーナは、ブルーナが思う通りに動けば良い。」
「………」
お兄様が即位した後、お兄様の為に何か出来る事はないのか?─と考えたのも事実。でも、このまま王族で居る事──イーレンに居る事が嫌だと言う事も事実だ。
「お兄様、ごめんなさい。それと…ありがとうございます。私は…やっぱり、王族籍からもイーレンからも出たいと思っています。可能であれば……セオドア=カルザイン様と一緒に、ウォーランド王国に行きたいと思っています。」
「うん。それで……それが良い。セオドア殿なら、ブルーナを幸せにしてくれるだろう。それで─」
スッ─とお兄様が差し出した2枚の書類。何だろう?と思いながら受け取ると、それは、1枚は“ブルーナ=リスタリア”と言う名前が書かれた養子縁組の書類だった。
「“リスタリア”とは、私の婚約者アーニャの家名だ。ブルーナは、そのリスタリア侯爵家の養女─アーニャの妹となっている。」
もう1枚の書類は、婚約証明書だった。
「カルザイン家の動きが早くてね。ノアと言う者が、後はブルーナがサインをすれば調うようになった状態で持って来たんだ。」
確かに、私の名前を書く欄だけが空欄になっていて、相手の名前を書く欄には、既にセオ君の名前が書かれていて、見届け人として、ミヤ様とお兄様の名前が書かれていた。
ー文句は無いし嬉しいけど…仕事が早過ぎない?ー
「本当に、ビックリだよね?でも、それだけ、向こうがブルーナを歓迎してくれてるって事だから、嬉しい事だね。これなら、私も安心してブルーナをウォーランド王国に送り出せるよ。」
お兄様は、優しく微笑んでくれた。
*???*
「最後のお別れに─とでも言って、会いに行ってあげて下さいませんか?それで、会うことができるようなら、コレを渡して欲しいのです。」
「会えるかどうかは、分かりませんよ?」
「はい。それで構いません。会えない場合は……ソレは貴方様で処分してもらっても構いませんから。」
「分かりました。一応、お願いしてみます。」
「宜しくお願い致します。」
男が頭を下げると、女はコツコツと靴音を響かせながらその場を後にした。
「イーレンに必要なのは、王太子ではなく──」
その後に続く言葉は風の音に掻き消された。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
٩(*´꒳`*)۶°˖✧
それも…知らなかった。
でも、それは良いルール?だと思う。どこでも浄化させられる─なんて、聖女とは便利屋ではないし、珍しい光属性の魔力持ちと言うだけで、命の限りのある人間なのだ。酷使して良い理由にはならない。
「貴方には、その覚悟がある?」
「…………」
「覚悟があるなら…私が貴方をキッチリと指導してあげるわ。」
「………ます…………」
「何か…言った?ちゃんと聞こえなかったんだけど…」
「日本に!還ります!」
「あら、そうなの?残念だわ……」
「「………」」
“残念だわ”─と、副声音が聞こえたのは気のせいじゃないと思う。しかも、ミヤ様の返しがかぶせ気味だったのも気のせいじゃない。
「─と言う事らしいから、ハル、申し訳無いけど、彼女の事、よろしくね?」
「はい、了解です!」
「ブルーナ王女、王太子殿下に、報告をお願いできるかしら?」
「分かりました。」
そうして、清水さんは日本に還る事になった。
******
「“還る”と言う選択肢を選んでくれて……本当に良かった……」
ー聖女が還ると聞いて喜ぶのも……滅多にないよね?ー
本当に、心底思っていた事が分かる程、ホッとした顔で呟いたお兄様は、ここ数日で少しやつれたような顔をしている。その理由は、お姉様─ニコルに原因があるようだ。
ニコルは既に王族籍から外されていて、今は魔塔の地下にある魔力持ち専用の牢に入れられている。その牢自体に無効化の魔法が掛けられている上、リュウさんが魔法封じの魔法を掛けている為、ニコルが魔法を使う事はないが、牢に入れられてからずっと叫んでいるらしい。
そんなニコルも、魔法使いには変わりは無い訳で、イーレンの魔道士や一部の貴族の中には、未だにニコルを崇拝している者も居て、その魔道士達の対応やらで、かなりバタバタしているらしい。それでも、大きなトラブルが起きていないのは、今現在、リュウさんが居ると言う事が大きいそうだ。
「魔道士達が、いくらニコルを助けたいと思ったところで、リュウ殿には敵わないからね。」
ただ、リュウさんが隣国へ帰ってしまったら──そんな訳で、1日でも早く、ニコルをどうするのか─と、議論も紛糾しているそうだ。
「それで……ブルーナは?ブルーナは、これからどうしたい?」
「私は───」
あれから、私も色々考えた。父が国王陛下である限り、1日でも早く王族籍から抜いてもらって、イーレンからも出て行きたいと。でも……
「ブルーナ、私の事は気にしなくて良いからね。」
「え?」
「正直、ブルーナがこれからの私を支えてくれれば嬉しいけど、今迄、王族としてブルーナには何もしてあげられなかったから、ブルーナが王族の為に何かする必要も…ない。もともと、ブルーナは表には出てないから、このままフェードアウトしても問題無い。残ってくれたら嬉しいけど、ブルーナは、ブルーナが思う通りに動けば良い。」
「………」
お兄様が即位した後、お兄様の為に何か出来る事はないのか?─と考えたのも事実。でも、このまま王族で居る事──イーレンに居る事が嫌だと言う事も事実だ。
「お兄様、ごめんなさい。それと…ありがとうございます。私は…やっぱり、王族籍からもイーレンからも出たいと思っています。可能であれば……セオドア=カルザイン様と一緒に、ウォーランド王国に行きたいと思っています。」
「うん。それで……それが良い。セオドア殿なら、ブルーナを幸せにしてくれるだろう。それで─」
スッ─とお兄様が差し出した2枚の書類。何だろう?と思いながら受け取ると、それは、1枚は“ブルーナ=リスタリア”と言う名前が書かれた養子縁組の書類だった。
「“リスタリア”とは、私の婚約者アーニャの家名だ。ブルーナは、そのリスタリア侯爵家の養女─アーニャの妹となっている。」
もう1枚の書類は、婚約証明書だった。
「カルザイン家の動きが早くてね。ノアと言う者が、後はブルーナがサインをすれば調うようになった状態で持って来たんだ。」
確かに、私の名前を書く欄だけが空欄になっていて、相手の名前を書く欄には、既にセオ君の名前が書かれていて、見届け人として、ミヤ様とお兄様の名前が書かれていた。
ー文句は無いし嬉しいけど…仕事が早過ぎない?ー
「本当に、ビックリだよね?でも、それだけ、向こうがブルーナを歓迎してくれてるって事だから、嬉しい事だね。これなら、私も安心してブルーナをウォーランド王国に送り出せるよ。」
お兄様は、優しく微笑んでくれた。
*???*
「最後のお別れに─とでも言って、会いに行ってあげて下さいませんか?それで、会うことができるようなら、コレを渡して欲しいのです。」
「会えるかどうかは、分かりませんよ?」
「はい。それで構いません。会えない場合は……ソレは貴方様で処分してもらっても構いませんから。」
「分かりました。一応、お願いしてみます。」
「宜しくお願い致します。」
男が頭を下げると、女はコツコツと靴音を響かせながらその場を後にした。
「イーレンに必要なのは、王太子ではなく──」
その後に続く言葉は風の音に掻き消された。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
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