39 / 51
39 聖女③
しおりを挟む
❋引き続き、リュウ視点になります❋
召喚したばかりで、まだ訓練をしていないと言っても、異世界からこちらに来た時には、それなりの光の魔力を持っていた筈で、その魔力を維持できていれば、清水渚沙も、この場所が危険だと無意識にでも感じる事ができていた筈だ。それが、全く反応していないと言う事は、清水渚沙はこの世界に来てから、聖女としての訓練どころか、聖女の務めが何かを、全く理解していない─と言う事だ。プラス、聖女だからと既に驕りがあるのだろう。
この世界の聖女は、聖女だからと言うだけでは、聖女で居続ける事はできない。ハル曰く、この世界の聖女はRPGゲームと同じらしい。確かに、ミヤ様を見ていると、その通りだと思う。
ミヤ様は、本当に凄い聖女だ。王妃となってからは毎日ではないが、週に3日は必ず聖女としての訓練をこなし、月に数回は慣れ親しんだ王都にある修道院で、平民達に無料で治癒や癒やしを施している。その上、ハルと共に、水属性も訓練次第で浄化と治癒のレベルが光属性並になると言う事を発見し、ミヤ様の指導のもと、水属性持ちの希望者に、訓練をつけたりしている。これは本当に凄い事で、他国からもその訓練を受けにやって来る者達も居る。
ハルはハルで、質の良いポーションや安くて効き目の良い新しいポーションの研究などもしたりしている。
そんな訳で、ミヤ様もハルも、毎日毎日忙しなく働いているのだ。
この世界は、苦労すればするほど、努力をすればするほど報われる。だから、ミヤ様とハルは、どんどん……チートレベルが……
「上がり過ぎだろう………」
本当に、この2人は怖ろしい存在だ。この2人が善良な人間で良かったと心底思う。
そんなご立派な大聖女と魔法使いが居るのだ。“ラノベ展開ヨロシク!”な聖女が来ても、この世界での居場所なんてない。過去に、そんな脳内お花畑な聖女が来て……大変だった……
ーいや、俺が言えた立場では無いが……ー
兎に角、清水渚沙には、ここでしっかり現実を見てもらうしかない。ミヤ様とゼンが居るから、きっと、ここでケリがつくだろう。容赦なく。
そんな事を考えていると、本当にタイミング良く魔獣が現れた。比較的小物な魔獣だが、向こうの世界では目にする事のない生き物だ。
「ひいっ!」
その生き物を目の当たりにして、顔を引き攣らせているのは清水渚沙。そして、その魔獣は清水渚沙をジッと見据えている。ここに居る者の中で、一番弱い者を標的にしているのだ。誰が見ても、その魔獣が清水渚沙を狙っていると分かっているが、誰も庇おうとしない。ミヤ様も、ただただジッ─と、清水渚沙とその魔獣を見ているだけだ。そして、暫くその状態が続いた後、その魔獣が清水渚沙に飛び掛かった。
「いやぁ──っ!」
清水渚沙が叫ぶのと同時に、ミヤ様から光の魔力が溢れ、その光が魔獣を包み込み、一瞬のうちにその魔獣を消滅させた。普通の光の魔力では消滅させる事迄はできないのだが、ミヤ様に限っては、ある程度の魔獣なら消滅させてしまうのだ。
「あ…あぁ………助かった?」
そう呟きながら、清水渚沙はその場にへたり込んだ。
「言っておくけど、今の魔獣は、レベルで言えば下の下のレベルよ。聖女としてではなく、平民としてここで生きて行くと言うのなら、今みたいな魔獣といつ遭遇してもおかしくない─と思いなさい。」
ーミヤ様のお陰で、魔獣の出現率もかなり低くはなっているがー
「聖女として生きて行くと言うのなら、今の魔獣や、それよりもレベルの高い魔獣と対峙する事もある─と言う事を忘れずに、しっかり訓練を受けなさい。」
ーまぁ…基本、聖女は浄化メインで、魔獣と対峙するのは魔道士や騎士だけど…ー
「それでも、この世界で王子様を夢見るなら、この世界に留まれば良いわ。但し、ラノベ展開な恋愛ができるかどうかは…分からないわ。確実な事はただ一つ。衣食住だけには困らない補償がある─と言う事だけかしら?」
「……」
「これで…解かった?私は確かに、良い御身分な立場になったけど、聖女としてやるべき事以上にやって来たから今の私が在るの。恋愛をする為だけに、この世界に居るのではないのよ。狡い─なんて、貴方の様な、“アレも嫌、コレも嫌だけどソレは欲しい”と言う様な人に言われたく無いわ。」
ーミヤ様の場合は、王太子だったランバルトの一目惚れだったからなぁー
「わ…わた…し………」
地面にへたり込み、俯いたままの清水渚沙が震えながら口を開いた時だった。
「「ワイバーンだ!!」」
「「「「…………」」」」
狩り仲間となった2人が、上空を見つめて叫んだのに対し、ミヤ様とジン様とエディオルとゼンと俺はチラリ─とハルに視線を向ける。
清水渚沙に至っては、今にでも倒れそうな程顔色が真っ青になって震えている。
そのワイバーンが上空を旋回した後、こちら側に向かって急降下して来た。
「いやあぁぁぁぁ──────っ!!」
「戒めの拘束!」
清水渚沙のお叫びと同時に、ハルが魔獣対策専用の魔法を展開させ、ワイバーンを薔薇の蔦のようなモノで拘束して、そのまま一気に魔力を吸い取り、そのワイバーンは魔力を喪い霧散して、そこにはワイバーンの核であるエメラルドグリーン色の魔石だけが残っていた。
ー相変わらず、魔獣に対してえげつない魔法だなー
「あ、これ、ブルーナ様の瞳の色にそっくりだね。うん、これで、ブルーナ様に何か作ろう。」
ニコニコと笑うハルの少し後ろに、気を失って倒れている清水渚沙が居た。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(*˘︶˘*).。.:*♡
召喚したばかりで、まだ訓練をしていないと言っても、異世界からこちらに来た時には、それなりの光の魔力を持っていた筈で、その魔力を維持できていれば、清水渚沙も、この場所が危険だと無意識にでも感じる事ができていた筈だ。それが、全く反応していないと言う事は、清水渚沙はこの世界に来てから、聖女としての訓練どころか、聖女の務めが何かを、全く理解していない─と言う事だ。プラス、聖女だからと既に驕りがあるのだろう。
この世界の聖女は、聖女だからと言うだけでは、聖女で居続ける事はできない。ハル曰く、この世界の聖女はRPGゲームと同じらしい。確かに、ミヤ様を見ていると、その通りだと思う。
ミヤ様は、本当に凄い聖女だ。王妃となってからは毎日ではないが、週に3日は必ず聖女としての訓練をこなし、月に数回は慣れ親しんだ王都にある修道院で、平民達に無料で治癒や癒やしを施している。その上、ハルと共に、水属性も訓練次第で浄化と治癒のレベルが光属性並になると言う事を発見し、ミヤ様の指導のもと、水属性持ちの希望者に、訓練をつけたりしている。これは本当に凄い事で、他国からもその訓練を受けにやって来る者達も居る。
ハルはハルで、質の良いポーションや安くて効き目の良い新しいポーションの研究などもしたりしている。
そんな訳で、ミヤ様もハルも、毎日毎日忙しなく働いているのだ。
この世界は、苦労すればするほど、努力をすればするほど報われる。だから、ミヤ様とハルは、どんどん……チートレベルが……
「上がり過ぎだろう………」
本当に、この2人は怖ろしい存在だ。この2人が善良な人間で良かったと心底思う。
そんなご立派な大聖女と魔法使いが居るのだ。“ラノベ展開ヨロシク!”な聖女が来ても、この世界での居場所なんてない。過去に、そんな脳内お花畑な聖女が来て……大変だった……
ーいや、俺が言えた立場では無いが……ー
兎に角、清水渚沙には、ここでしっかり現実を見てもらうしかない。ミヤ様とゼンが居るから、きっと、ここでケリがつくだろう。容赦なく。
そんな事を考えていると、本当にタイミング良く魔獣が現れた。比較的小物な魔獣だが、向こうの世界では目にする事のない生き物だ。
「ひいっ!」
その生き物を目の当たりにして、顔を引き攣らせているのは清水渚沙。そして、その魔獣は清水渚沙をジッと見据えている。ここに居る者の中で、一番弱い者を標的にしているのだ。誰が見ても、その魔獣が清水渚沙を狙っていると分かっているが、誰も庇おうとしない。ミヤ様も、ただただジッ─と、清水渚沙とその魔獣を見ているだけだ。そして、暫くその状態が続いた後、その魔獣が清水渚沙に飛び掛かった。
「いやぁ──っ!」
清水渚沙が叫ぶのと同時に、ミヤ様から光の魔力が溢れ、その光が魔獣を包み込み、一瞬のうちにその魔獣を消滅させた。普通の光の魔力では消滅させる事迄はできないのだが、ミヤ様に限っては、ある程度の魔獣なら消滅させてしまうのだ。
「あ…あぁ………助かった?」
そう呟きながら、清水渚沙はその場にへたり込んだ。
「言っておくけど、今の魔獣は、レベルで言えば下の下のレベルよ。聖女としてではなく、平民としてここで生きて行くと言うのなら、今みたいな魔獣といつ遭遇してもおかしくない─と思いなさい。」
ーミヤ様のお陰で、魔獣の出現率もかなり低くはなっているがー
「聖女として生きて行くと言うのなら、今の魔獣や、それよりもレベルの高い魔獣と対峙する事もある─と言う事を忘れずに、しっかり訓練を受けなさい。」
ーまぁ…基本、聖女は浄化メインで、魔獣と対峙するのは魔道士や騎士だけど…ー
「それでも、この世界で王子様を夢見るなら、この世界に留まれば良いわ。但し、ラノベ展開な恋愛ができるかどうかは…分からないわ。確実な事はただ一つ。衣食住だけには困らない補償がある─と言う事だけかしら?」
「……」
「これで…解かった?私は確かに、良い御身分な立場になったけど、聖女としてやるべき事以上にやって来たから今の私が在るの。恋愛をする為だけに、この世界に居るのではないのよ。狡い─なんて、貴方の様な、“アレも嫌、コレも嫌だけどソレは欲しい”と言う様な人に言われたく無いわ。」
ーミヤ様の場合は、王太子だったランバルトの一目惚れだったからなぁー
「わ…わた…し………」
地面にへたり込み、俯いたままの清水渚沙が震えながら口を開いた時だった。
「「ワイバーンだ!!」」
「「「「…………」」」」
狩り仲間となった2人が、上空を見つめて叫んだのに対し、ミヤ様とジン様とエディオルとゼンと俺はチラリ─とハルに視線を向ける。
清水渚沙に至っては、今にでも倒れそうな程顔色が真っ青になって震えている。
そのワイバーンが上空を旋回した後、こちら側に向かって急降下して来た。
「いやあぁぁぁぁ──────っ!!」
「戒めの拘束!」
清水渚沙のお叫びと同時に、ハルが魔獣対策専用の魔法を展開させ、ワイバーンを薔薇の蔦のようなモノで拘束して、そのまま一気に魔力を吸い取り、そのワイバーンは魔力を喪い霧散して、そこにはワイバーンの核であるエメラルドグリーン色の魔石だけが残っていた。
ー相変わらず、魔獣に対してえげつない魔法だなー
「あ、これ、ブルーナ様の瞳の色にそっくりだね。うん、これで、ブルーナ様に何か作ろう。」
ニコニコと笑うハルの少し後ろに、気を失って倒れている清水渚沙が居た。
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(*˘︶˘*).。.:*♡
78
お気に入りに追加
777
あなたにおすすめの小説
【完結】初恋の彼が忘れられないまま王太子妃の最有力候補になっていた私は、今日もその彼に憎まれ嫌われています
Rohdea
恋愛
───私はかつてとっても大切で一生分とも思える恋をした。
その恋は、あの日……私のせいでボロボロに砕け壊れてしまったけれど。
だけど、あなたが私を憎みどんなに嫌っていても、それでも私はあなたの事が忘れられなかった──
公爵令嬢のエリーシャは、
この国の王太子、アラン殿下の婚約者となる未来の王太子妃の最有力候補と呼ばれていた。
エリーシャが婚約者候補の1人に選ばれてから、3年。
ようやく、ようやく殿下の婚約者……つまり未来の王太子妃が決定する時がやって来た。
(やっと、この日が……!)
待ちに待った発表の時!
あの日から長かった。でも、これで私は……やっと解放される。
憎まれ嫌われてしまったけれど、
これからは“彼”への想いを胸に秘めてひっそりと生きて行こう。
…………そう思っていたのに。
とある“冤罪”を着せられたせいで、
ひっそりどころか再び“彼”との関わりが増えていく事に──
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
辺境伯聖女は城から追い出される~もう王子もこの国もどうでもいいわ~
サイコちゃん
恋愛
聖女エイリスは結界しか張れないため、辺境伯として国境沿いの城に住んでいた。しかし突如王子がやってきて、ある少女と勝負をしろという。その少女はエイリスとは違い、聖女の資質全てを備えていた。もし負けたら聖女の立場と爵位を剥奪すると言うが……あることが切欠で全力を発揮できるようになっていたエイリスはわざと負けることする。そして国は真の聖女を失う――
【完結】慰謝料は国家予算の半分!?真実の愛に目覚めたという殿下と婚約破棄しました〜国が危ないので返して欲しい?全額使ったので、今更遅いです
冬月光輝
恋愛
生まれつき高い魔力を持って生まれたアルゼオン侯爵家の令嬢アレインは、厳しい教育を受けてエデルタ皇国の聖女になり皇太子の婚約者となる。
しかし、皇太子は絶世の美女と名高い後輩聖女のエミールに夢中になりアレインに婚約破棄を求めた。
アレインは断固拒否するも、皇太子は「真実の愛に目覚めた。エミールが居れば何もいらない」と口にして、その証拠に国家予算の半分を慰謝料として渡すと宣言する。
後輩聖女のエミールは「気まずくなるからアレインと同じ仕事はしたくない」と皇太子に懇願したらしく、聖女を辞める退職金も含めているのだそうだ。
婚約破棄を承諾したアレインは大量の金塊や現金を規格外の収納魔法で一度に受け取った。
そして、実家に帰ってきた彼女は王族との縁談を金と引き換えに破棄したことを父親に責められて勘当されてしまう。
仕事を失って、実家を追放された彼女は国外に出ることを余儀なくされた彼女は法外な財力で借金に苦しむ獣人族の土地を買い上げて、スローライフをスタートさせた。
エデルタ皇国はいきなり国庫の蓄えが激減し、近年魔物が増えているにも関わらず強力な聖女も居なくなり、急速に衰退していく。
【完結】無能な聖女はいらないと婚約破棄され、追放されたので自由に生きようと思います
黒幸
恋愛
辺境伯令嬢レイチェルは学園の卒業パーティーでイラリオ王子から、婚約破棄を告げられ、国外追放を言い渡されてしまう。
レイチェルは一言も言い返さないまま、パーティー会場から姿を消した。
邪魔者がいなくなったと我が世の春を謳歌するイラリオと新たな婚約者ヒメナ。
しかし、レイチェルが国からいなくなり、不可解な事態が起き始めるのだった。
章を分けるとかえって、ややこしいとの御指摘を受け、章分けを基に戻しました。
どうやら、作者がメダパニ状態だったようです。
表紙イラストはイラストAC様から、お借りしています。
王太子殿下が私を諦めない
風見ゆうみ
恋愛
公爵令嬢であるミア様の侍女である私、ルルア・ウィンスレットは伯爵家の次女として生まれた。父は姉だけをバカみたいに可愛がるし、姉は姉で私に婚約者が決まったと思ったら、婚約者に近付き、私から奪う事を繰り返していた。
今年でもう21歳。こうなったら、一生、ミア様の侍女として生きる、と決めたのに、幼なじみであり俺様系の王太子殿下、アーク・ミドラッドから結婚を申し込まれる。
きっぱりとお断りしたのに、アーク殿下はなぜか諦めてくれない。
どうせ、姉にとられるのだから、最初から姉に渡そうとしても、なぜか、アーク殿下は私以外に興味を示さない? 逆に自分に興味を示さない彼に姉が恋におちてしまい…。
※史実とは関係ない、異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる