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第四章ー未来へー
ダレル
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あの最後の時から役80年後─10歳の頃に、リオネルの記憶が蘇った。
今世の俺は、男爵家の次男─ダレル=フィリーズだった。記憶が蘇った時、俺は錯乱状態に陥った。そんな俺を、両親や兄は見捨てる事は無く、いつも俺に寄り添ってくれていた。
ー俺は、幸せになる資格なんてないのにー
そんな思いを抱きつつも、家族に愛され守られ癒され、落ち着きを取り戻した時、真っ先にした事が─
今世に、アディーも生まれ変わっているかどうか─だった。生まれ変わっている確証は無いし、生まれ変わっているとしても、アディーだと分かるかどうかも分からない。それでも──
スペイシー家には、今世でも令嬢は居たが、アディーではなかった。スペイシー特有のピンクゴールドの髪に碧色の瞳。アディーを思い出させる容姿ではあるが、アディーでなない。
そして、アディーを探すだけではなく、大切なものを守る為の力もつける努力をした。幸い、俺の魔力は強くて大きいものだった。そのお陰で、俺は城付きの魔道士にもなれた。それでも、アディーを見付ける事はなく……
「ダレル様、私と……結婚していただけませんか?」
30歳も優に超えた頃、同じ男爵位の令嬢─アンリエット=スウェインから求婚された。
彼女は、スウェイン家の嫡子で、数年後には男爵を引き継ぐとの事だった。そんな彼女が、どうして今迄殆ど接点の無かった俺を?と、不思議に思った。それに、俺には幸せになる資格は無い。
「すみませんが、お受けする事はできません。」
素直に断ると、「取り敢えず、今日は帰ります。」と言って、その日は直ぐに帰った彼女だったけど、それからも幾度となく彼女は俺の元にやって来て、一緒にお茶をしたりしたが、結婚の話が出る事はなかった。
そんな日々を送っていたある日─
「ダレルは、どうして結婚しないの?」
1年も経てば、お互い気心の知れた友達の様な関係になっていた。
「──俺は……好きだった子を守れなかったんだ…。そんな俺が……俺は、幸せになんてなってはいけないんだ。」
誰かに話したのは、それが初めてだった。
「そうなんだ…。」
と、彼女はそれだけ呟いた後
「私ね…子供が……できないかもしれないの。」
「え?」
「子供の頃高熱を出して…男爵家の嫡子なのに、後継ぎとなる子を生めないの……だからね…正直、結婚相手は…誰でも良かったのよ。適当に探している時に、ダレルを見付けたの。」
ある夜会に参加した時に、俺を見掛けたそうだ。
容姿が好みと言う事もあり、その夜会の間、俺を見ていたと。そして、見ているうちに、俺の存在が儚げに見えたと。
「放っておくと、居なくなってしまうような感じで……それが気になって…放っておけなくなって…それで、ダレルに求婚したのよ。」
ふふっ─と笑う彼女は、素直に可愛らしいなと思った。
「私は、結局のところ、後継ぎを生むことはできないだろうから、繋ぎの男爵でしかないわ。周りも、きっとそんな目でしか見ないだろうし……私と結婚したところで、ダレルも幸せにはなれないと思うの。だから、私との結婚は……ダレルにとっても丁度良くない?」
結婚しても、ダレルに男爵家の財産も子供もあげることができないから─と、言いながら微笑んだ彼女は……悲しげでも儚げでもなく、楽しそうな顔をしていた。
今世でアディー─アドリーヌを見付ける事ができず、もう、アドリーヌとは会う事はないだろう─そう思い、俺はアンリエットと結婚する事にした。
ーアドリーヌにできなかった分、アンリエットを……守ろうー
そこに、“俺の幸せ”を求める事はしなかった。
ただ、彼女との生活は、とても穏やかなものだった。
「私の事を、無理に好きになる事はしなくて良いから。ダレルはダレルのままで居てくれたら良いから。」
と、彼女は柔らかく微笑む。そんな彼女を──いつしか好ましく思うようになっていた。幸せになってはいけない俺なのに……幸せだな─と、思ってしまったから、天罰が下ったのかもしれない。
結婚して4年程経った頃から、彼女は寝込むようになった。医師に診てもらっても原因は分からず、日々やつれていくアンリエット。
ーどうしてアンリエットが?どうして俺じゃない?ー
天罰を喰らうと言うなら、俺でなければ。
「…ダレル…自分を責めては駄目よ?貴方が何をして、何を後悔して自分を責めているのかは分からないけど……私にとってのダレルは…私に幸せをくれた……私にとって大切で大好きな人よ。ダレル、愛してる。何も…貴方に残してあげられなくて…ごめんなさい……」
「アンリエット──っ」
アンリエットは、その日、静かに…眠るようにして息を引き取った。
アンリエットを喪って、守る者が居なくなると、城付きの魔道士でいる意味も失ってしまった。だから、城付きも辞めて、領地へと引き籠もった。
******
そして、領地の役所に勤めて数年経ったある日─
「ナディアです。今日からここに配属になりました。宜しくお願いします。」
と、新人魔道士のナディアが、私の部下としてやって来たのだ。
❋感想やエールを頂き、ありがとうございます❋
*。ヾ(。>v<。)ノ゙*。
今世の俺は、男爵家の次男─ダレル=フィリーズだった。記憶が蘇った時、俺は錯乱状態に陥った。そんな俺を、両親や兄は見捨てる事は無く、いつも俺に寄り添ってくれていた。
ー俺は、幸せになる資格なんてないのにー
そんな思いを抱きつつも、家族に愛され守られ癒され、落ち着きを取り戻した時、真っ先にした事が─
今世に、アディーも生まれ変わっているかどうか─だった。生まれ変わっている確証は無いし、生まれ変わっているとしても、アディーだと分かるかどうかも分からない。それでも──
スペイシー家には、今世でも令嬢は居たが、アディーではなかった。スペイシー特有のピンクゴールドの髪に碧色の瞳。アディーを思い出させる容姿ではあるが、アディーでなない。
そして、アディーを探すだけではなく、大切なものを守る為の力もつける努力をした。幸い、俺の魔力は強くて大きいものだった。そのお陰で、俺は城付きの魔道士にもなれた。それでも、アディーを見付ける事はなく……
「ダレル様、私と……結婚していただけませんか?」
30歳も優に超えた頃、同じ男爵位の令嬢─アンリエット=スウェインから求婚された。
彼女は、スウェイン家の嫡子で、数年後には男爵を引き継ぐとの事だった。そんな彼女が、どうして今迄殆ど接点の無かった俺を?と、不思議に思った。それに、俺には幸せになる資格は無い。
「すみませんが、お受けする事はできません。」
素直に断ると、「取り敢えず、今日は帰ります。」と言って、その日は直ぐに帰った彼女だったけど、それからも幾度となく彼女は俺の元にやって来て、一緒にお茶をしたりしたが、結婚の話が出る事はなかった。
そんな日々を送っていたある日─
「ダレルは、どうして結婚しないの?」
1年も経てば、お互い気心の知れた友達の様な関係になっていた。
「──俺は……好きだった子を守れなかったんだ…。そんな俺が……俺は、幸せになんてなってはいけないんだ。」
誰かに話したのは、それが初めてだった。
「そうなんだ…。」
と、彼女はそれだけ呟いた後
「私ね…子供が……できないかもしれないの。」
「え?」
「子供の頃高熱を出して…男爵家の嫡子なのに、後継ぎとなる子を生めないの……だからね…正直、結婚相手は…誰でも良かったのよ。適当に探している時に、ダレルを見付けたの。」
ある夜会に参加した時に、俺を見掛けたそうだ。
容姿が好みと言う事もあり、その夜会の間、俺を見ていたと。そして、見ているうちに、俺の存在が儚げに見えたと。
「放っておくと、居なくなってしまうような感じで……それが気になって…放っておけなくなって…それで、ダレルに求婚したのよ。」
ふふっ─と笑う彼女は、素直に可愛らしいなと思った。
「私は、結局のところ、後継ぎを生むことはできないだろうから、繋ぎの男爵でしかないわ。周りも、きっとそんな目でしか見ないだろうし……私と結婚したところで、ダレルも幸せにはなれないと思うの。だから、私との結婚は……ダレルにとっても丁度良くない?」
結婚しても、ダレルに男爵家の財産も子供もあげることができないから─と、言いながら微笑んだ彼女は……悲しげでも儚げでもなく、楽しそうな顔をしていた。
今世でアディー─アドリーヌを見付ける事ができず、もう、アドリーヌとは会う事はないだろう─そう思い、俺はアンリエットと結婚する事にした。
ーアドリーヌにできなかった分、アンリエットを……守ろうー
そこに、“俺の幸せ”を求める事はしなかった。
ただ、彼女との生活は、とても穏やかなものだった。
「私の事を、無理に好きになる事はしなくて良いから。ダレルはダレルのままで居てくれたら良いから。」
と、彼女は柔らかく微笑む。そんな彼女を──いつしか好ましく思うようになっていた。幸せになってはいけない俺なのに……幸せだな─と、思ってしまったから、天罰が下ったのかもしれない。
結婚して4年程経った頃から、彼女は寝込むようになった。医師に診てもらっても原因は分からず、日々やつれていくアンリエット。
ーどうしてアンリエットが?どうして俺じゃない?ー
天罰を喰らうと言うなら、俺でなければ。
「…ダレル…自分を責めては駄目よ?貴方が何をして、何を後悔して自分を責めているのかは分からないけど……私にとってのダレルは…私に幸せをくれた……私にとって大切で大好きな人よ。ダレル、愛してる。何も…貴方に残してあげられなくて…ごめんなさい……」
「アンリエット──っ」
アンリエットは、その日、静かに…眠るようにして息を引き取った。
アンリエットを喪って、守る者が居なくなると、城付きの魔道士でいる意味も失ってしまった。だから、城付きも辞めて、領地へと引き籠もった。
******
そして、領地の役所に勤めて数年経ったある日─
「ナディアです。今日からここに配属になりました。宜しくお願いします。」
と、新人魔道士のナディアが、私の部下としてやって来たのだ。
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*。ヾ(。>v<。)ノ゙*。
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