上 下
51 / 61
第四章ー未来へー

心の隙

しおりを挟む
「モンテルアーノ様!」

シェイラが発動させた魔法が、一瞬のうちにモンテルアーノ様を包み込む。
その魔法─魔力は聖女の魔力とは思えないような、嫌な感じのねっとりと絡みつくようなものだった。とても気持ち悪い魔力だ。ひょっとしたら、コレが禁忌とされている“魅了”の魔法なのかもしれない。

まとわりついていた魔力が無くなると、モンテルアーノ様の肩越しに、シェイラがこちらへと近付いて来るのが見えた。
シェイラはそのまま私達の側迄来ると、モンテルアーノ様の腕を絡め取り、その触れている所からまた、嫌な感じの魔力がモンテルアーノ様に絡み始めた。

モンテルアーノ様の魔具はネックレスタイプの物で、服の下に隠れている為確認はできないけど、おそらく、さっきのシェイラからの魔法を防いだと同時に壊れただろう。なら、今、シェイラが発動させている魔法は防ぎようがない。モンテルアーノ様もまた……聖女の魅了にやられてしまうかもしれない。

枷を外されて魔力は戻ってきたけど、いまいち魔力の流れが安定していない。このまま魔法を使っても、ちゃんと発動するのかは…微妙なところだし、狙いが外れてモンテルアーノ様に当たったら…。
それに、悔しいけど、私の魔法では、シェイラには……勝てないだろう。

「オードリック様。私達の邪魔をするこの女─ナディア先生を排除して下さい。」

儚げに微笑むその顔は、ローゼ=ルードモントその者の顔だった。その彼女に、“可哀想に…”と憐れんでいたのだ。
でも、今は違う。同じ顔でも、その顔は何とも怖ろしいものに見える。他人ひとを壊して操り、他人ひとを簡単に貶める。

「──排除?」
「ええ。どんなやり方でも良いですよ?」
「分かった───」

と、モンテルアーノ様は、シェイラを見つめたままニッコリ微笑む。その笑顔を見て、胸がツキン─と痛みを覚えたのは……今更だ。
私だって、素直にやられるつもりはない──けど。

ビリビリと、肌が痛くなるような殺気を感じて、思わず目をギュッと瞑る。

「──っ!い─────っ!!なっ!?」

シェイラの叫び声が響き、慌てて目を開けると、モンテルアーノ様がシェイラを床に押し付けて腕を捻り上げていた。

「え?あっ…と……え?」

ー一体…何が起こったの?ー

キョトン─と2人の様子を窺っていると、モンテルアーノ様がシェイラを押さえ込んだまま私へと視線を向ける。

「一発目の魔法は、魔具がギリギリ防いでくれた。そのせいで壊れてしまったようだけど。それから、直接触れられてからも、何か俺に魔法を掛けていたようだけど……それは、ただ単に、気持ち悪い何かがまとわりついているなぁ─ぐらいにしか感じなかった。あまりの気持ち悪さに、この女を剣で切り裂いてやろうか─とさえ思ってしまった。」

「え………?切り……裂く?」

「それでも、コレは女だし聖女だから、我慢はしたが……」

シェイラが掛けていただろ魔法は、かなり強い魔力が使われていたのに。普通なら、直ぐに影響が出てもおかしくないレベルのものだったのに。

「──どう……して……い────っ!!」

“どうして?”と、顔を上げて口を開こうとしたシェイラを、モンテルアーノ様は更に力を入れて床に押し付けた。もう、“女だから”とか“聖女だから”なんて事は頭にないのかもしれない。

「“どうして?”─か?理由は簡単だ。俺の心の隙に入れるのはナディアだけだからだ。お前が入れるような隙は無い。微塵も無い。喩え、お前が俺に“魅了”を掛けようとも無駄だ。ナディアが居る限り、お前の魅了に掛かる事はない。」

「なっ!!??」

ーそんな恥ずかしい事を、自信たっぷりに宣言しないでもらいたい!───けど……少し嬉しいな─なんて……思ってる自分が……悔しい!ー

「くっ──照れてるナディアは可愛いけど、その顔はまた後でしてもらえると助かる。」
「はい?助かる?何がですか??」
「色々と──だ。」

何とも場違いなやり取りで、緊張し過ぎていた気持ちが少し落ち着いてきた。

「──っ…な…で……何で、どうして、私の思い通りにならないの!?欲しかったを選んで……オードリック様も…ナディアなんか──いっ!!!」

「ナディアとは何だ?優秀な魔道士な上にツンデレの可愛いナディアに、お前が勝るモノなど何も無いからな?それに……“欲しかった”とは、一体誰の事だ?第三王子アルビーの事か?」

そうだ…モンテルアーノ様には分からないだろう。
その“彼”とは、アドリーヌわたしの元婚約者の事だ。彼は、アドリーヌわたしを殺めた後、自殺した。

「兎に角、禁忌とされる魔法を使用した証拠は得られたから、お前を拘束する。」

と、少しだけ、ほんの少し、力を緩めた瞬間だった。

「思い通りにならないなら、いっその事、心を壊してやるわ!」

どこにそんな力があったのか──

シェイラがモンテルアーノ様の腕を払い除け、透かさず魔法を発動させた。
それはとても大きくて強いもので、とうてい私なんかのレベルでは防ぎきれないものだ。

「ナディア!」と叫びながら、私の体を引き寄せるのはモンテルアーノ様。

そして───

!」と叫びながら部屋へと駆け込んで来たのは──





ダレルさんだった。











❋感想やエールを頂き、ありがとうございます❋
☆*:.。. o(≧▽≦)o .。.:*☆






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】私を嫌う浮気者の婚約者が恋に落ちたのは仮面を付けた私でした。

ユユ
恋愛
仮面舞踏会でダンスを申し込まれた。 その後はお喋りをして立ち去った。  あの馬鹿は私だと気付いていない。   “好きな女ができたから婚約解消したい” そう言って慰謝料をふんだんに持ってきた。 綺麗に終わらせることで、愛する人との 障害を無くしたいんだって。 でも。多分ソレは私なんだけど。 “ありがとう”と受け取った。 ニヤリ。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

没落した元名門貴族の令嬢は、馬鹿にしてきた人たちを見返すため王子の騎士を目指します!

日之影ソラ
ファンタジー
 かつては騎士の名門と呼ばれたブレイブ公爵家は、代々王族の専属護衛を任されていた。 しかし数世代前から優秀な騎士が生まれず、ついに専属護衛の任を解かれてしまう。それ以降も目立った活躍はなく、貴族としての地位や立場は薄れて行く。  ブレイブ家の長女として生まれたミスティアは、才能がないながらも剣士として研鑽をつみ、騎士となった父の背中を見て育った。彼女は父を尊敬していたが、周囲の目は冷ややかであり、落ちぶれた騎士の一族と馬鹿にされてしまう。  そんなある日、父が戦場で命を落としてしまった。残されたのは母も病に倒れ、ついにはミスティア一人になってしまう。土地、お金、人、多くを失ってしまったミスティアは、亡き両親の想いを受け継ぎ、再びブレイブ家を最高の騎士の名家にするため、第一王子の護衛騎士になることを決意する。 こちらの作品の連載版です。 https://ncode.syosetu.com/n8177jc/

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】貴方のために涙は流しません

ユユ
恋愛
私の涙には希少価値がある。 一人の女神様によって無理矢理 連れてこられたのは 小説の世界をなんとかするためだった。 私は虐げられることを 黙っているアリスではない。 “母親の言うことを聞きなさい” あんたはアリスの父親を寝とっただけの女で 母親じゃない。 “婚約者なら言うことを聞け” なら、お前が聞け。 後妻や婚約者や駄女神に屈しない! 好き勝手に変えてやる! ※ 作り話です ※ 15万字前後 ※ 完結保証付き

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

【R18】聖女のお役目【完結済】

ワシ蔵
恋愛
平凡なOLの加賀美紗香は、ある日入浴中に、突然異世界へ転移してしまう。 その国には、聖女が騎士たちに祝福を与えるという伝説があった。 紗香は、その聖女として召喚されたのだと言う。 祭壇に捧げられた聖女は、今日も騎士達に祝福を与える。 ※性描写有りは★マークです。 ※肉体的に複数と触れ合うため「逆ハーレム」タグをつけていますが、精神的にはほとんど1対1です。

処理中です...