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第三章ー学園生活ー

異変

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その異変は、2学期も半分を過ぎた頃に起こった。



「それじゃあ、来週行う実地試験のペアを発表する。」

“実地試験”と言っても、ルシエント様と私が魔法で創り上げた低級レベルのゴーレムを、ペアで戦略を練って倒す─と言う、簡単な実地試験である。
そのペアについては、基本は男女のペアで、2人の魔法のレベルに合わせて組んでいる。魔力を持たない生徒に関しては、戦略を考え指示を出させて、助手である私が動いてゴーレムを倒す事になっている。

今日、そのペアを発表するのは、来週迄の1週間の間に2人で戦略を練って、来週の授業の時にその実地試験を行う為だ。

そのペアを考えるのも大変だった。
貴族に於ける派閥や、婚約者の有無、魔力の相性など……考慮すべきモノが……多かった。本当に、貴族とは……面倒なモノだなと思った。


「シモン=オドリクスとオレリア=エタシエル」

ーえ?ー

「アルビー=モランドルとシェイラ=ペイトリン」

ーは?ー

「以上。ペアで名前が上がって居ない者は、先述した通り、戦略のみ考えて来るように。はい、今日の授業はこれで終わりだ。」

ルシエント様がそう言うのと同時に、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、生徒達は発表されたペア同士で運動場を後にした。


「ちょっ……ルシエント様!何故!?」
「ん?ナディア、どうかした?」
「いや……“どうかした?”じゃないですよね!?何故、勝手にペアを変えたんですか!?」

ペア組みは、主に私が考えて、組み上がったモノをルシエント様に確認してもらい、「完璧だね。これでいこう。」と、ルシエント様本人から了承を得たのだ。その時は確かに─

“アルビー=モランドルとオレリア=エタシエル”
“シモン=オドリクスとシェイラ=ペイトリン”

のペアにしたのだ。

「どうして─って…その方が相性が良いと思ったからだ。それに、王子として、聖女を守らなければならないだろう?」
「何を────」

振り返ったルシエント様の顔を見て、ヒュッと息を呑んだ。

私は、を知っている。

ーどうして?いつから?ー

それに、もう一つおかしいし事もある。
婚約者である第三王子とペアにならなかった事を、オレリア本人だけでなく、シモンもシェイラも何も言わなかった事。

ただ、ここで私が何かを言ったところで、ルシエント様の意見は変わらないだろう。言えば言うほど、刺激してしまうのだ。

「……分かり……ました………」
「分かってもらえて良かった。」

素直に受け入れた─フリをすると、ルシエント様はニッコリ微笑んだ後、校舎の方へと歩き出した。
そのルシエント様が校舎へと入って行く後ろ姿を見送り、周りに誰も居ない事を確認した後、どこへとも言わずに声を掛けた。

「出来るだけ早くに……オードリック=モンテルアーノ様にお会いしたい─と。」

すると、そこで初めて、薄っすらとだけど、そこにあったが動いて消えた─ようなモノを感じる事ができた。

ー本当に…“影なる者”が、居たんだー

ソレを感じる事ができた私!凄くない!?なんて、喜んでいる場合ではないけど……。
兎に角、ルシエント様をあのまま放っておくのは危険だ。ルシエント様は城付きエリート魔道士。ただの平魔道士の私では、何もできない。

「最悪、リゼットにも話をしやきゃ…だよね……」

モンテルアーノ様と会えるのがいつなるのかは分からないけど、それ迄は、見ているだけしかできない。

特に、あの聖女を──

何度か深呼吸をして心を落ち着かせてから、私は急ぎ足で校舎へと向かった。





******


「直ぐに時間がとれなくて、すまなかった。」
「いえ、こちらこそ、急にすみませんでした。それに…こんなにも早く時間ができるとは…思ってませんでしたから……」

“直ぐに時間がとれなくて”と、モンテルアーノ様は申し訳無さそうな顔をしているけど……昨日頼んで、今日─1日も掛らずに会う事ができたのだ。早過ぎてビックリしたぐらいだ。

「影からも報告があって、ナディアが影に声を掛けるぐらいだから、緊急かと思って…に相談したら、時間を作ってくれたんだ。」

“リュカ”

そう簡単に名前を呼ぶけど……ソレ、王太子殿下の事ですよね!?王族と接点なんて…作りたくないのになぁ…って、取り敢えず私情は置いといて──

「影なる者を勝手に使ってしまい、申し訳ありません。そして、ご配慮、ありがとうございます。」

本来、影を使って良いのは、王族と、直属の上司である第二騎士団の団長と副団長だけなのだ。

「それに関しては問題無い。影は主には忠実であり、如何なる時も裏切る事はないが、自己判断する能力にも長けているから、ナディアの願いを聞き入れたと言う事は、それが優先すべき事だと判断したからだ。それに、影からの報告からしても、それは間違った行動ではないと確信している。」

「本当に、ありがとうございます。」

ー相談したり、頼れる人が居る─と言う事は…これ程まで安心できる事なのかー

ナディアとして、心が少しだけ軽くなった。








❋誤字報告、ありがとうございます❋
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(人´∀`*)(*´ワ`人)



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