27 / 61
第三章ー学園生活ー
異変
しおりを挟むその異変は、2学期も半分を過ぎた頃に起こった。
「それじゃあ、来週行う実地試験のペアを発表する。」
“実地試験”と言っても、ルシエント様と私が魔法で創り上げた低級レベルのゴーレムを、ペアで戦略を練って倒す─と言う、簡単な実地試験である。
そのペアについては、基本は男女のペアで、2人の魔法のレベルに合わせて組んでいる。魔力を持たない生徒に関しては、戦略を考え指示を出させて、助手である私が動いてゴーレムを倒す事になっている。
今日、そのペアを発表するのは、来週迄の1週間の間に2人で戦略を練って、来週の授業の時にその実地試験を行う為だ。
そのペアを考えるのも大変だった。
貴族に於ける派閥や、婚約者の有無、魔力の相性など……考慮すべきモノが……多かった。本当に、貴族とは……面倒なモノだなと思った。
「シモン=オドリクスとオレリア=エタシエル」
ーえ?ー
「アルビー=モランドルとシェイラ=ペイトリン」
ーは?ー
「以上。ペアで名前が上がって居ない者は、先述した通り、戦略のみ考えて来るように。はい、今日の授業はこれで終わりだ。」
ルシエント様がそう言うのと同時に、授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響き、生徒達は発表されたペア同士で運動場を後にした。
「ちょっ……ルシエント様!何故!?」
「ん?ナディア、どうかした?」
「いや……“どうかした?”じゃないですよね!?何故、勝手にペアを変えたんですか!?」
ペア組みは、主に私が考えて、組み上がったモノをルシエント様に確認してもらい、「完璧だね。これでいこう。」と、ルシエント様本人から了承を得たのだ。その時は確かに─
“アルビー=モランドルとオレリア=エタシエル”
“シモン=オドリクスとシェイラ=ペイトリン”
のペアにしたのだ。
「どうして─って…その方が相性が良いと思ったからだ。それに、王子として、聖女を守らなければならないだろう?」
「何を────」
振り返ったルシエント様の顔を見て、ヒュッと息を呑んだ。
私は、この瞳を知っている。
ーどうして?いつから?ー
それに、もう一つおかしいし事もある。
婚約者である第三王子とペアにならなかった事を、オレリア本人だけでなく、シモンもシェイラも何も言わなかった事。
ただ、ここで私が何かを言ったところで、ルシエント様の意見は変わらないだろう。言えば言うほど、刺激してしまうのだ。
「……分かり……ました………」
「分かってもらえて良かった。」
素直に受け入れた─フリをすると、ルシエント様はニッコリ微笑んだ後、校舎の方へと歩き出した。
そのルシエント様が校舎へと入って行く後ろ姿を見送り、周りに誰も居ない事を確認した後、どこへとも言わずに声を掛けた。
「出来るだけ早くに……オードリック=モンテルアーノ様にお会いしたい─と。」
すると、そこで初めて、薄っすらとだけど、そこにあった何かが動いて消えた─ようなモノを感じる事ができた。
ー本当に…“影なる者”が、居たんだー
ソレを感じる事ができた私!凄くない!?なんて、喜んでいる場合ではないけど……。
兎に角、ルシエント様をあのまま放っておくのは危険だ。ルシエント様は城付き魔道士。ただの平魔道士の私では、何もできない。
「最悪、リゼットにも話をしやきゃ…だよね……」
モンテルアーノ様と会えるのがいつなるのかは分からないけど、それ迄は、見ているだけしかできない。
特に、あの聖女を──
何度か深呼吸をして心を落ち着かせてから、私は急ぎ足で校舎へと向かった。
******
「直ぐに時間がとれなくて、すまなかった。」
「いえ、こちらこそ、急にすみませんでした。それに…こんなにも早く時間ができるとは…思ってませんでしたから……」
“直ぐに時間がとれなくて”と、モンテルアーノ様は申し訳無さそうな顔をしているけど……昨日頼んで、今日─1日も掛らずに会う事ができたのだ。早過ぎてビックリしたぐらいだ。
「影からも報告があって、ナディアが影に声を掛けるぐらいだから、緊急かと思って…リュカに相談したら、時間を作ってくれたんだ。」
“リュカ”
そう簡単に名前を呼ぶけど……ソレ、王太子殿下の事ですよね!?王族と接点なんて…作りたくないのになぁ…って、取り敢えず私情は置いといて──
「影なる者を勝手に使ってしまい、申し訳ありません。そして、ご配慮、ありがとうございます。」
本来、影を使って良いのは、王族と、直属の上司である第二騎士団の団長と副団長だけなのだ。
「それに関しては問題無い。影は主には忠実であり、如何なる時も裏切る事はないが、自己判断する能力にも長けているから、ナディアの願いを聞き入れたと言う事は、それが優先すべき事だと判断したからだ。それに、影からの報告からしても、それは間違った行動ではないと確信している。」
「本当に、ありがとうございます。」
ー相談したり、頼れる人が居る─と言う事は…これ程まで安心できる事なのかー
ナディアとして、心が少しだけ軽くなった。
❋誤字報告、ありがとうございます❋
❋エールを頂き、ありがとうございます❋
(人´∀`*)(*´ワ`人)
48
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説
「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。
わたしは婚約者の不倫の隠れ蓑
岡暁舟
恋愛
第一王子スミスと婚約した公爵令嬢のマリア。ところが、スミスが魅力された女は他にいた。同じく公爵令嬢のエリーゼ。マリアはスミスとエリーゼの密会に気が付いて……。
もう終わりにするしかない。そう確信したマリアだった。
本編終了しました。
妹と寝たんですか?エセ聖女ですよ?~妃の座を奪われかけた令嬢の反撃~
岡暁舟
恋愛
100年に一度の確率で、令嬢に宿るとされる、聖なる魂。これを授かった令嬢は聖女と認定され、無条件で時の皇帝と婚約することになる。そして、その魂を引き当てたのが、この私、エミリー・バレットである。
本来ならば、私が皇帝と婚約することになるのだが、どういうわけだか、偽物の聖女を名乗る不届き者がいるようだ。その名はジューン・バレット。私の妹である。
別にどうしても皇帝と婚約したかったわけではない。でも、妹に裏切られたと思うと、少し癪だった。そして、既に二人は一夜を過ごしてしまったそう!ジューンの笑顔と言ったら……ああ、憎たらしい!
そんなこんなで、いよいよ私に名誉挽回のチャンスが回ってきた。ここで私が聖女であることを証明すれば……。
婚約者がツンツンしてきてひどいから婚約はお断りするつもりでしたが反省した彼は直球デレデレ紳士に成長して溺愛してくるようになりました
三崎ちさ
恋愛
伯爵家の娘ミリアは楽しみにしていた婚約者カミルと初めての顔合わせの際、心ない言葉を投げかけられて、傷ついた。
彼女を思いやった父の配慮により、この婚約は解消することとなったのだが、その婚約者カミルが屋敷にやってきて涙ながらにミリアに謝ってきたのだ。
嫌な気持ちにさせられたけれど、その姿が忘れられないミリアは彼との婚約は保留という形で、彼と交流を続けることとなる。
初めのうちは照れながらおずおずとミリアに接するカミルだったが、成長に伴い、素直に彼女に気持ちを伝えられるようになっていき、ミリアも彼に惹かれていくようになる。
極度のシャイで素直な気持ちを言うのが苦手な本来ツンデレ属性な男の子が好きな女の子を傷つけないために、素直な気持ちを伝えることを頑張るお話。
小説家になろうさんにも掲載。
聖女のわたしを隣国に売っておいて、いまさら「母国が滅んでもよいのか」と言われましても。
ふまさ
恋愛
「──わかった、これまでのことは謝罪しよう。とりあえず、国に帰ってきてくれ。次の聖女は急ぎ見つけることを約束する。それまでは我慢してくれないか。でないと国が滅びる。お前もそれは嫌だろ?」
出来るだけ優しく、テンサンド王国の第一王子であるショーンがアーリンに語りかける。ひきつった笑みを浮かべながら。
だがアーリンは考える間もなく、
「──お断りします」
と、きっぱりと告げたのだった。
1番近くて、1番遠い……僕は義姉に恋をする
桜乃
恋愛
僕、ミカエル・アルフォントは恋に落ちた。
義姉クラリス・アルフォントに。
義姉さまは、僕の気持ちはもちろん、同じく義姉さまに恋している、この国の王子アルベルトと友人のジェスターの気持ちにも、まったく、これっぽっちも気がつかない。
邪魔して、邪魔され、そんな日々。
ある日、義姉さまと僕達3人のバランスが崩れる。
魔道士になった義姉さまは、王子であるアルベルトと婚約する事になってしまったのだ。
それでも、僕は想い続ける。
そして、絶対に諦めないから。
1番近くて、1番遠い……そんな義姉に恋をした、一途な義弟の物語。
※不定期更新になりますが、ストーリーはできておりますので、きちんと完結いたします。
※「鈍感令嬢に恋した時から俺の苦労は始まった」に出てくる、ミカエル・アルフォントルートです。
同じシチュエーションでリンクしているところもございますが、途中からストーリーがまったく変わります。
別の物語ですので「鈍感令嬢に〜」を読んでない方も、単独でお読みいただけると思います。
※ 同じく「鈍感令嬢に〜」にでてくる、最後の1人。
ジェスタールート「グリム・リーパーは恋をする ~最初で最後の死神の恋~」連載中です。
ご縁がございましたらよろしくお願いいたします。
※連載中に題名、あらすじの変更、本文の加筆修正等する事もございます。ストーリー展開に大きく影響はいたしませんが、何卒、ご了承くださいませ。
【完結】聖女を害した公爵令嬢の私は国外追放をされ宿屋で住み込み女中をしております。え、偽聖女だった? ごめんなさい知りません。
藍生蕗
恋愛
かれこれ五年ほど前、公爵令嬢だった私───オリランダは、王太子の婚約者と実家の娘の立場の両方を聖女であるメイルティン様に奪われた事を許せずに、彼女を害してしまいました。しかしそれが王太子と実家から不興を買い、私は国外追放をされてしまいます。
そうして私は自らの罪と向き合い、平民となり宿屋で住み込み女中として過ごしていたのですが……
偽聖女だった? 更にどうして偽聖女の償いを今更私がしなければならないのでしょうか? とりあえず今幸せなので帰って下さい。
※ 設定は甘めです
※ 他のサイトにも投稿しています
捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。
彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。
さて、どうなりますでしょうか……
別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。
突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか?
自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。
私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。
それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。
ありがとうございます。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。
7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。
※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる