上 下
5 / 61
第1章ー前世ー

新たな生活

しおりを挟む
「アドリーヌ、今日は上手にできたわね。」
「アーニーさん、ありがとうございます。」

私─アドリーヌが、この修道院に来てから6ヶ月。今日の私は洗濯の担当だった。3人で2時間程掛けての洗濯からの洗濯干し。
ここに来た当時は何をするにも大変だった。侯爵令嬢として育って来た私は、洗濯どころかお皿の1枚すら洗った事がなかったのだ。それが、ここでは皆が順番に色々な役割を振り当てられ、それをこなしていかなければならないのだ。






からの父の行動は早かった。
私を侯爵家から除籍するのには、母が最後の最後迄反対したけど、日が経つにつれ憔悴していく私を目にして……『籍は外れてしまっても、あなたはずっと……私の娘ですからね!』と、泣きながら私を抱きしめてくれた。

それから、王太后様には悟られないように、国王陛下の助けもあり、私の婚約者側にも知られる事なく除籍され、その足で私は修道院へと送られた。

『たまには、手紙を書いてくれ』
『落ち着いたら…会いにくるわね』

父と母は、この修道院迄一緒に来てくれた。
この修道院は、王都から馬車で3日程掛かる場所にある。そして、ここは私のように、男性から被害を受けた女性を保護している所でもある。その為、修道院で働く使用人達もほぼ女性で、院長も女性である。唯一男性なのは料理長で、その料理長も年配の既婚者だ。後は、護衛。その護衛達も、殆どが既婚者である。


この修道院に来た当時は、“開放された”と言う気持ちとは反対に、の彼の目をふと思い出し魘されたりしていた。そんな時、いつもアーニーさんが私の手を握っていてくれた。

アーニーさん──

彼女は、私よりも5つ年上の先輩修道女で、私の指導をしてくれている。アーニーさんは、結婚相手の旦那さんから暴力を受け、2年前、この修道院に助けを求めて駆け込んだそうだ。

このアーニーさんには、本当に色々と迷惑を掛けた──いや、掛けっ放しです。何もできない私に、根気強く丁寧に教えてくれた。

洗濯物がシワシワに乾いても─
「“洗った”って分かるから良いんじゃない?」

お皿を割っても─
「そろそろ新しいのが欲しかったから、丁度良かったわ。」

掃除に時間が掛かっても─
「適当にやって、やり直しするより効率は良いわ。」

と、いつも笑って受け入れてくれる、とても優しい人。そんな優しいアーニーさんに、今日は洗濯が上手にできた事を褒められたのだ。

ー半年経って、ようやく……なのだけど…ー

「ふふっ。アドリーヌがした洗濯物にシワが無いって……変な感じね……ふふっ……」
「……アーニーさん、笑い過ぎです……」

プクッ─と口を尖らせると「ごめんごめん!」と笑いながら謝ってくるアーニーさん。アーニーさんの笑顔は、いつも私の心を温かくしてくれた。





その日1日、洗濯が上手くできて褒められた─と言うだけで、いつもより楽しく過ごす事ができた。“単純馬鹿”な私だなと思う。

最初本当に大変だったけど…未だにできない事も多いけど、自分で何かをする─と言う事が楽しい。

「ここに来て…良かった………」

父と母には、親不孝な事をしてしまったけど…

ーそう言えば…あれから、はどうなったんだろう?ー

“彼”とは、私の婚約者だった人。結局、あの庭で会ったのが最後だった。私が除籍された事も知らせないまま、私はこの修道院にやって来た。
私は除籍され平民になったから、婚約は解消されているだろう。

そして、“彼女”とは、子爵令嬢の事だ。第二王子から迫られて?いたけど、結局は王太后様に反対され、予定通り第二王子はジョアンヌ様と婚姻を結ぶ事になった。稀な光属性を持っているから、悪いようにはされないだろうけど…。

ここは、王都から離れている上に、特にこの修道院は俗世とは切り離されているから、王都での出来事や貴族に関しての話は殆ど入って来ない。一体どうなっているのかは気になるけど、耳に入って来ない方が良かったのかもしれない。その方が……忘れられるから。







それから、更に半年経った頃──


「第二王子の結婚式があるらしいわ」
「相手はなんと、らしいわ」
「第二王子と……聖女…様?」

ー第二王子の婚約者は、ジョアンヌ様だったよね?ー

ジョアンヌ様は火属性だった。
“聖女”と呼ばれるのは光属性だけだ。

「なんでも、第二王子と聖女様は、学生時代にお互い惹かれ合って、苛めや身分の差を乗り越えて結ばれたそうよ。」
「まぁ!素敵ね!」

“苛め”?“身分の差”?

を表すのは、やっぱりジョアンヌ様ではなく、子爵令嬢の事だ。ならば、ジョアンヌ様はどうなった?王太后が、認めた─と言う事?

分からない事だらけだった。





しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

巻き込まれではなかった、その先で…

みん
恋愛
10歳の頃に記憶を失った状態で倒れていた私も、今では25歳になった。そんなある日、職場の上司の奥さんから、知り合いの息子だと言うイケメンを紹介されたところから、私の運命が動き出した。 懐かしい光に包まれて向かわされた、その先は………?? ❋相変わらずのゆるふわ&独自設定有りです。 ❋主人公以外の他視点のお話もあります。 ❋気を付けてはいますが、誤字脱字があると思います。すみません。 ❋基本は1日1話の更新ですが、余裕がある時は2話投稿する事もあります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

逆行転生した悪役令嬢だそうですけれど、反省なんてしてやりませんわ!

九重
恋愛
我儘で自分勝手な生き方をして処刑されたアマーリアは、時を遡り、幼い自分に逆行転生した。 しかし、彼女は、ここで反省できるような性格ではなかった。 アマーリアは、破滅を回避するために、自分を処刑した王子や聖女たちの方を変えてやろうと決意する。 これは、逆行転生した悪役令嬢が、まったく反省せずに、やりたい放題好き勝手に生きる物語。 ツイッターで先行して呟いています。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

二度目の召喚なんて、聞いてません!

みん
恋愛
私─神咲志乃は4年前の夏、たまたま学校の図書室に居た3人と共に異世界へと召喚されてしまった。 その異世界で淡い恋をした。それでも、志乃は義務を果たすと居残ると言う他の3人とは別れ、1人日本へと還った。 それから4年が経ったある日。何故かまた、異世界へと召喚されてしまう。「何で!?」 ❋相変わらずのゆるふわ設定と、メンタルは豆腐並みなので、軽い気持ちで読んでいただけると助かります。 ❋気を付けてはいますが、誤字が多いかもしれません。 ❋他視点の話があります。

召喚されたら聖女が二人!? 私はお呼びじゃないようなので好きに生きます

かずきりり
ファンタジー
旧題:召喚された二人の聖女~私はお呼びじゃないようなので好きに生きます~ 【第14回ファンタジー小説大賞エントリー】 奨励賞受賞 ●聖女編● いきなり召喚された上に、ババァ発言。 挙句、偽聖女だと。 確かに女子高生の方が聖女らしいでしょう、そうでしょう。 だったら好きに生きさせてもらいます。 脱社畜! ハッピースローライフ! ご都合主義万歳! ノリで生きて何が悪い! ●勇者編● え?勇者? うん?勇者? そもそも召喚って何か知ってますか? またやらかしたのかバカ王子ー! ●魔界編● いきおくれって分かってるわー! それよりも、クロを探しに魔界へ! 魔界という場所は……とてつもなかった そしてクロはクロだった。 魔界でも見事になしてみせようスローライフ! 邪魔するなら排除します! -------------- 恋愛はスローペース 物事を組み立てる、という訓練のため三部作長編を予定しております。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...