贄の令嬢はループする

みん

文字の大きさ
上 下
76 / 84
❋新しい未来へ❋

76 甘い一時

しおりを挟む
五度目にしてようやく、馬鹿4人組馬鹿ルテットを牢獄に放り込む事ができた─までは良かった。
そこからが……苦痛極まりない日々の始まりだった。

とんでもなく、すべき事が多かった……多過ぎた。
黒龍自分の事だけではなく、守護国であるトルトニアとトワイアルが関わり、その上アルクシェリア女神の遣い龍である黒龍オレの番が関わっていたのだ。他の誰に任せる事も出来ず、全てが俺を中心に処理をする必要があったのだ。
まぁ、トワイアルに関しては、宰相のサミュエルとトルトニア王太子メレディスが、トルトニアに関しては現国王と王妃が良い働きをしてくれたお陰で、予定より早く処理をする事ができたが…。
本当に、血が繋がっていても、その個人個人で全く違うのだな─と言う事がよく分かった。マトモな者からでも、気持ち悪い者や馬鹿が生まれるのだ。

もし自分に子ができたら───

ーうん。可愛いしかないなー

俺に似た子ではなく、イヴに似た女の子が生まれたら─

ーうん。嫁には出せないなー

「…………イヴが足りない…………」

そう。忙し過ぎて、イヴに全く会えていないのだ。正確に言うと、に会えていない。毎日毎日多過ぎる色んな執務や処理を終えて気が付くと、日付けが変わっているのだ。それでも─と、取り敢えず浮島の邸に帰るのだが、勿論、学生であるイヴは、既に夢の中に居るわけで───

ベッドの上でスヤスヤと眠る可愛いイヴを見るだけの日々を過ごす事になった。

ーいや、寝顔のイヴも可愛いしかないけどー

声が聞きたい──
その綺麗なラベンダー色の瞳が見たい──

ー本当に…眠っているだけ…だろうか?ー

最強の黒龍と言われていても、怖いモノがある。
寝ていると分かっていても“もしかして…”と恐ろしくなってしまうのだ。

「イヴ……」

こんな事をしていると知られると、イヴは怒るかもしれない…嫌われてしまうかもしれない─と思いつつも、俺は……イヴを起こさないように……唇に触れるだけのキスをする。

ー柔らかくて…温かいー

それでようやく安心するのだ。

「おやすみ……イヴ」

そして、イヴの枕元に1輪の花を置いて、俺はまた王城へと戻る。花を置いて行くのは──

イヴが俺を忘れないように。イヴが俺を想ってくれるように。

俺が、イヴを想っている─と、分かってもらう為に。







******


そして、ある程度落ち着いて、ようやく早い時間に仕事が終わり、アラールとニノンに温かい目で見送られながら、浮島の邸のイヴの部屋へとやって来てみれば──

「アラスターさん…だよね?」
「…アラスターが………どうかした?」
「ひゃあっ!!??」

いつもより低い声になり、そのまま背中からイヴを抱きしめた。

ー何故俺の名前ではなく、アラスターなんだ?ー

「フィル!?」
「アラスターがどうした?何かされたのか?よし、今すぐアラスターを呼───」
「フィル!」
「っ!?」

イヴが俺の腕の中でクルンッと回って、正面から抱きついて来た。

ーゔっ─可愛いか!“クルンッ”って、音が聞こえたからな!?しかも……イヴが俺に抱きついて来た!!ー

「ごっ──ごめんなさい!」と謝りながら離れようとするイヴを「離すまい!」と、更にギュウッと抱きしめた。
「フィ───」
「俺に抱きつくイヴが可愛い!可愛いイヴが足りない!!」
「ふぐぅ──っ!!」
変な声ソレも可愛い!」

ーイヴは何をしても言っても可愛いしかない!ー

「フィル!ちょっ…だか…ら、圧死するからね!?」
「っ!!すまない!!」

と、慌てて力を緩める。このやり取りも久し振りだ。

「ふふっ。フィル……おかえりなさい」

と言われれば、胸がギュッとなる。

「イヴ……ただいま」

そう言ってお互い笑い合った後、久し振りに、起きているイヴとキスをした。




その後、最近のイヴの話を聞いているうちにイヴが寝てしまい、イヴをベッドに運んで───どうしても離れ難くて、イヴを俺の腕に閉じ込めたまま一緒にベッドに潜り込んだ。
イヴの寝顔を見ていたかったけど、俺も疲れていたし、イヴの温もりに安心してしまい、俺も直ぐに眠りに落ちた。






ーイヴが…俺の腕の中に居るー

朝、目を覚ますと、俺の腕の中で寝ているイヴが居た。昨日、俺がそうして寝たのだから当たり前の事なんだけど………朝一でイヴを見られるとは……幸せ以外の何物でもない。

「んー………」と言いながらモゾモゾと動いた後、目を覚ました──のは良いが、寝起きのせいか、目がトロンとしていて……やっぱり可愛い。

「ん?フィル?」
「おはよう…イヴ」
「フィルだ………おはよう……」
「っ!!??」

嬉しそうに笑って挨拶をした後、イヴからキスをされた──だと!?

「フィルからのお花も嬉しかったけど…やっぱり…フィルの方が好き………」
「ごふっ─────なっ!!??イ───」
「…………」

腕の中のイヴを見れば、またスヤスヤと眠っていた。

「くっ────」

どうやら、寝ぼけていたようだ──が…。

「寝ぼけていたとしても…無自覚だとしても………煽ったイヴが悪い……起きたら………覚悟しておけよ?」
「……うーん……………」
「ゔっ──」

寝ぼけたまま俺に抱きついて来るイヴは………やっぱり可愛いが………

「俺は、何かを試されているんだろうか?」








それから、起きたイヴを攻めまくった俺は………悪くない………よな?

「フィ……の……バカ…………」

ーうん。グッタリして涙目で睨まれても……可愛いだけだからな?ー






しおりを挟む
感想 76

あなたにおすすめの小説

ときめき♥沼落ち確定★婚約破棄!

待鳥園子
恋愛
とある異世界転生したのは良いんだけど、前世の記憶が蘇ったのは、よりにもよって、王道王子様に婚約破棄された、その瞬間だった! 貴族令嬢時代の記憶もないし、とりあえず断罪された場から立ち去ろうとして、見事に転んだ私を助けてくれたのは、素敵な辺境伯。 彼からすぐに告白をされて、共に辺境へ旅立つことにしたけど、私に婚約破棄したはずのあの王子様が何故か追い掛けて来て?!

【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました

三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。 助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい… 神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた! しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった! 攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。 ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい… 知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず… 注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。

ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく
恋愛
桑原商事の次期社長である桑原俊介は元教育係で現在は秘書である佐竹優子と他人には言えない関係を続けていた。そんな未来のない関係を断ち切ろうとする優子だが、俊介は優子のことをどうしても諦められない。そんな折、優子のことを忘れられない元カレ伊波が海外から帰国する。禁断の恋の行方は果たして・・・。俊介は「好きな気持ちが止まらない」で岩崎和馬の同僚として登場。スピンオフのはずが、俊介のお話の方が長くなってしまいそうです。最後までお付き合いいただければ幸いです。

旦那さまに恋をしてしまいました。

しらす
恋愛
こんなことになるならば、わたしはあなたに出会いたくなかった。でもわたしは、あなたを愛している。あなたがたとえ愛してなくても、疎んでいても、わたしはずっと愛している。 これはわたしが選択を間違えた話。 小説家になろう様にて先行更新しています。 これを読んだ方、言っておきます。あんまり上の内容信じない方がいいです。(自分で書いておいて何を言って((() 2021/4.11完結しました。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

とある虐げられた侯爵令嬢の華麗なる後ろ楯~拾い人したら溺愛された件

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵令嬢リリアーヌは、10歳で母が他界し、その後義母と義妹に虐げられ、 屋敷ではメイド仕事をして過ごす日々。 そんな中で、このままでは一生虐げられたままだと思い、一念発起。 母の遺言を受け、自分で自分を幸せにするために行動を起こすことに。 そんな中、偶然訳ありの男性を拾ってしまう。 しかし、その男性がリリアーヌの未来を作る救世主でーーーー。 メイド仕事の傍らで隠れて淑女教育を完璧に終了させ、語学、経営、経済を学び、 財産を築くために屋敷のメイド姿で見聞きした貴族社会のことを小説に書いて出版し、それが大ヒット御礼! 学んだことを生かし、商会を設立。 孤児院から人材を引き取り育成もスタート。 出版部門、観劇部門、版権部門、商品部門など次々と商いを展開。 そこに隣国の王子も参戦してきて?! 本作品は虐げられた環境の中でも懸命に前を向いて頑張る とある侯爵令嬢が幸せを掴むまでの溺愛×サクセスストーリーです♡ *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

傷物令嬢は騎士に夢をみるのを諦めました

みん
恋愛
伯爵家の長女シルフィーは、5歳の時に魔力暴走を起こし、その時の記憶を失ってしまっていた。そして、そのせいで魔力も殆ど無くなってしまい、その時についてしまった傷痕が体に残ってしまった。その為、領地に済む祖父母と叔母と一緒に療養を兼ねてそのまま領地で過ごす事にしたのだが…。 ゆるっと設定なので、温かい気持ちで読んでもらえると幸いです。

処理中です...