贄の令嬢はループする

みん

文字の大きさ
上 下
60 / 84
❋新しい未来へ❋

60 私の望み

しおりを挟む
「ジュリエンヌ=トワイアルなら…許可なんてなくても、それが簡単にできるんだ」
「許可なく……簡単に?」
「トワイアル王国が、竜王国の守護国となった大きな理由が、トワイアルが魔法に特化していたからだ」

そう。竜王国の守護国であるトワイアル王国は魔法、トルトニアは武に特化している。トルトニアの現国王陛下と王太子殿下は、この大陸の1、2を争う程の腕前で、この2人が居るだけでトルトニアの平和が護られるのでは?とも言われている程だ。そんな中、「ハロルド様は?」と言えば──

武の才能が無かった

それ故に、結婚と同時に公爵となり、武ではなく内政で兄である王太子殿下を支える事になっていたのだ。

「あの女は……腐っていても直系の王族だから、持っている魔力はかなりのモノなんだ。まぁ…今世に至っては、光属性に関してだけは微妙だが…あの女は、水属性もあって、そっちの魔力に関しては、今世でもかなりの魔力なんだ。その魔力のお陰で……あの女は、転移の魔法陣を使えるんだ」

“転移魔法陣”

あの魔法は、かなり高度なモノで、魔法陣を描くのにも魔力が必要で、展開するとなれば更に魔力が必要となる。勿論、魔法陣を描くのにもある程度の技術が必要で、簡単に扱える魔法ではない。

「もしかして……」

私が最期を迎える前に甘い香りがしていたのは──

「おそらく……あの女が俺にイーリャの実を使って俺を惑わせた後、イヴの元に転移して……イヴを竜王国の黒龍オレの目の前に……連れて来ていたんだと思う。転移した瞬間……魔法で眠らされて………」

だから……甘い香りがした後眠りに落ちて……次に目が覚めた時は……

「ジュリエンヌ様は、本当に……私の死を……望んでいたんですね。でも……今回では、今迄と違っていますよね?ハロルド様を呼び付けて何を?」
「本当は……イヴには浮島に閉じ込めて内緒にして、何も知らないうちに片付けたかったんだけど……イヴは、そんな事は…望んでないだろう?」

困った様な顔するフィルは、私の横までやって来て私を横抱きにして、そのままソファーに腰を下ろした。



どうやら、ジュリエンヌ様は、自分とフィルの距離が近付いた為、ハロルド様と私の距離を縮める為にハロルド様を呼び寄せたそうだ。

「私と…ハロルド様の距離?」

人間ひとである私とハロルド様にはイーリャの実は効かない。それに、ハロルド様が不在だと国王両陛下にバレる前に距離を縮めるなんて……不可能だろう。

「……まさ……か………」
「うん。その“”だ。イヴと……既成事実を作る為だ」
「何て……事を…………」

ーハロルド様は……そこまで愚かな人だったのかー

いや……メザリンド様にした時点で……クズだった。クズ以下だった。そのクズの下の事は何て言うんだろう?

「トルトニアの国王と王妃は把握済みで、国王は、馬鹿王子が竜王国に行く前に捕まえて処罰すると言って来たが、俺がそれを突っぱねて、あの2人の思う様にさせたんだ。あの2人だけは……俺の手で始末しないと……気が済まないから」
「フィル………」

静かに語るフィルから、圧や殺気を感じる事はないが、怒っていると言う事は分かる。きっと、私の為に殺気は抑えているんだろう。

「フィル、私………過去四度も噛み殺されたでしょう?」
「ゔっ……ごめん………」
「あ、違うの。フィルを責めてるわけじゃなくて……」

今世ではハロルド様と縁を結ぶ事はなく、フィルの番になり、未来へと続く路に進めた─と思っている。
それでも……どうしても、四度の過去の私が後から付いて来るのだ。

どうして、私は黒龍に噛み殺される最期を迎えなければいけなかったのか

どうして、ハロルド様はジュリエンヌ様との距離を縮めたのか

どうして、ハロルド様が私を婚約者に選んだのか

「ハロルド様がどうして……私に執着しているのか…知りたいんです。それと……私の方から……ハロルド様をバッサリキッチリスパッと……切り捨ててやりたいんです!」
「─────え?」

そう。一番の望みは……私ハロルド様バッサリキッチリスパッと切り捨てる事。
過去の四度は、私がハロルド様に捨てられた─みたいな事になっていた。挙句に贄にされて噛み殺されて……。

「私、何も悪い事なんて…何一つしてなかったのに…婚約者にされて…裏切られて悪女にされて贄にされたんです。納得いかない。謝られても赦すつもりもないですけど……。兎に角……私、ハロルド様に直接会って……ハロルド様を切り捨てて、過去の私とも……決別したいんです……今世で、フィルと幸せになる為に」
「イヴ………」

何と言っても、最終目的は、フィルと幸せになる事。フィルだって……番である私を自分で四度も殺してしまった。加害者でありながら、一番の被害者でもある。だからこそ、フィルにも絶対に幸せになってもらわないといけないのだ。

「ありがとう…イヴ………」

泣き笑いな様な顔をした後、フィルは私をギュッと抱きしめた。








❋エールを頂き、ありがとうございます❋
❋お気に入り登録、ありがとうございます❋
⸜(❀*˙˘˙)⸝☆⋆*


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

悪役令嬢の幸せは新月の晩に

シアノ
恋愛
前世に育児放棄の虐待を受けていた記憶を持つ公爵令嬢エレノア。 その名前も世界も、前世に読んだ古い少女漫画と酷似しており、エレノアの立ち位置はヒロインを虐める悪役令嬢のはずであった。 しかし実際には、今世でも彼女はいてもいなくても変わらない、と家族から空気のような扱いを受けている。 幸せを知らないから不幸であるとも気が付かないエレノアは、かつて助けた吸血鬼の少年ルカーシュと新月の晩に言葉を交わすことだけが彼女の生き甲斐であった。 しかしそんな穏やかな日々も長く続くはずもなく……。 吸血鬼×ドアマット系ヒロインの話です。 最後にはハッピーエンドの予定ですが、ヒロインが辛い描写が多いかと思われます。 ルカーシュは子供なのは最初だけですぐに成長します。

妻と夫と元妻と

キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では? わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。 数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。 しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。 そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。 まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。 なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。 そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて……… 相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。 不治の誤字脱字病患者の作品です。 作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。 性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。 小説家になろうさんでも投稿します。

目を覚ましたら、婚約者に子供が出来ていました。

霙アルカ。
恋愛
目を覚ましたら、婚約者は私の幼馴染との間に子供を作っていました。 「でも、愛してるのは、ダリア君だけなんだ。」 いやいや、そんな事言われてもこれ以上一緒にいれるわけないでしょ。 ※こちらは更新ゆっくりかもです。

あなたの運命になりたかった

夕立悠理
恋愛
──あなたの、『運命』になりたかった。  コーデリアには、竜族の恋人ジャレッドがいる。竜族には、それぞれ、番という存在があり、それは運命で定められた結ばれるべき相手だ。けれど、コーデリアは、ジャレッドの番ではなかった。それでも、二人は愛し合い、ジャレッドは、コーデリアにプロポーズする。幸せの絶頂にいたコーデリア。しかし、その翌日、ジャレッドの番だという女性が現れて──。 ※一話あたりの文字数がとても少ないです。 ※小説家になろう様にも投稿しています

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

逃がす気は更々ない

恋愛
前世、友人に勧められた小説の世界に転生した。それも、病に苦しむ皇太子を見捨て侯爵家を追放されたリナリア=ヘヴンズゲートに。 リナリアの末路を知っているが故に皇太子の病を癒せる花を手に入れても聖域に留まり、神官であり管理者でもあるユナンと過ごそうと思っていたのだが……。 ※なろうさんにも公開中。

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

処理中です...