魔法使いの恋

みん

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壱拾弐*シリウス=マーレン*

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「叙爵を辞退したのは本当ですか?」

「ん?本当だよ。貴族なんて、面倒くさいからね。」

なんて事をヘラリと笑いながら答えるのは、魔法使いのリュウ殿。
先代の国王陛下を、ジークフラン様と共に引き摺り下ろし、悪政に終止符を打った立て役者の1人。ジークフラン様が国王となった後は、ジークフラン様を支え続けて来た。それに、合間を縫っては国内を転移しながら穢れを浄化する事もし続けている。
そんなリュウ殿には、国が落ち着いたら叙爵すると言う話が上がっていたのだ。

そして、貴族の粛清が済み軍事も立て直し、更にはジークフラン様の子を立太子させる事が決まった今、リュウ殿に叙爵の話が出たのだが、どうやらリュウ殿はそれを辞退したらしいのだ。

「ただでさえ、魔法使いって言うだけで色々制約があって、常に誰かに見張られているんだぞ?その上、貴族で縛られて政治利用されるだなんて、真っ平ごめんだ。」

ジークフランが退位したら、俺も引退する予定だし─と、リュウ殿は本当に身分や地位には興味が無いようだ。

「ところで……いよいよ明日だったか?」

“叙爵の話はこれでお終い”と言うように、リュウ殿は違う話を私にふってきた。

「──はい、明日到着予定です。」

「俺はちょくちょく遊びに行ってるけど、シリウスは……6年ぶりか?」

「そうですね。6年ですね。」


6年”とは──

ウォーランド王国のパルヴァンの騎士達との合同訓練をしてから、あっと言う間に6年が経った。

『今回の合同訓練に参加できて、本当に良かった。後2日で終わってしまうけど……またここに来ても良いだろうか?』

と訊いておきながら、私がパルヴァンに行く事は無かった。合同訓練が終わり帰国した後、軍を立て直すのに思ったよりも時間が掛かってしまったのだ。また、いつ魔獣や魔物が現れるのか分からない。護りを強めなければ犠牲者が増えるだけ。
そうして、軍の底上げを必死でしているうちに、気が付けば6年が経っていた。

この6年で、政治も軍もマトモに機能し始めたお陰で、友好国を招いての立太子の儀を行う事が可能となり、その式には勿論、ウォーランド王国の国王両陛下とパルヴァン辺境伯夫妻も参加する事となっていて、明日到着予定なのだ。

ー彼女は…元気にしているだろうか?ー

彼女─ヴィオラ嬢から、半年毎に手紙が送られて来た。主には魔力の話ではあったが、学園に通い出した事や、軽くではあるが、父親から剣の扱いを教えてもらっているなど日常の事も少しだけ書いてあった。そんなヴィオラ嬢も、今では17歳。来年で成人を迎え、社交界デビューする。









「お久し振りです。今回は、来ていただき、ありがとうございます。」

ジークフラン様が直々に出迎えたのは、ウォーランド国王両陛下と王女サクラ様。因みに、王太子となったリオン王子はランバルト国王の代理として、ウォーランド王国に留まり政務をこなしているそうだ。
挨拶をする陛下達を見守っていると、銀色の何かが視界の隅に入り込み、視線だけでその方を見てみるが、そこには何もなかった。

「?」

それからも辺りを注意して見てはいたが、結局はその銀色の何かは分からないままだった。








その日の夜は、ウォーランド国王両陛下とサクラ様とジークフラン様と、今回立太子する王子─レグラス様が非公式で夕食を共にする事になり、私もその場の警備にあたる予定だったが──

「これも非公式だが、合同訓練の時のメンバーを騎士棟に呼んでいるから、シリウス達も今夜はその者達と再会を楽しんでくれ。」

とジークフラン様から言われた為、それなら─と、有難く私は騎士棟へと向かう事にした。


ーん?何故、もうパルヴァンの騎士達が、騎士棟に来ているんだ?非公式だとしても……いつ来たんだ?ー

非公式とは言え10人程は居る筈で、しかも王城に入って来るとなれば、第一騎士団副団長の私が知らされない、気付かないと言う事は有り得ない。

「──あぁ。リュウ殿が…したのか?」

ならば仕方無いか─と、それ以上は考えるのを放棄した。






実際は、ジークフランの提案で、ハルとリュウが相談して、ハルがパルヴァンの騎士達を一度に纏めて魔法陣で転移して来て、相変わらずなチートを発揮したハルに、最早リュウ達は笑う事しかできなかった─と言うのは、ここだけの話である。









「ゼン殿!お久し振りです!」

「あぁ、シリウス様。お久し振りですね。お元気そうで何よりです。」

騎士棟の応接室に行けば、そこにはゼン殿とカルザイン殿とティモス殿が居た。そして──

「マーレン様、お久し振りです。」

と、カルザイン殿の後ろから、私にニッコリ微笑みながら挨拶をする令嬢が現れた。
シルバーブロンドの長い髪を後ろで一つに纏めてあり、綺麗な水色の瞳は真っ直ぐに私を見つめている。

「───ヴィオラ…嬢?」

「はい。ヴィオラです。この度は、私達パルヴァンも呼んでいただき、ありがとうございます。」

そこには、6年前とは違う、綺麗な女性へと成長したヴィオラ=カルザイン嬢が立っていた。







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