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父娘
しおりを挟む一通りの話が終わり、今はグレン様が中心となって、今後の話をしている。私はと言うと、そんなグレン様やお父さん達を何とは無しに眺めながら、今迄の事を考える。
信じられないような話だけど、私の母がこの世界のパルヴァンの巫女の末裔の“ユイ”だった事は…本当の事なんだろうと思う。
真名ではないのに、ネージュと名を交わせた事。
サリスの持っていた巫女の血に、私が反応した事。
私の強い?魔力がこの世界に馴染んでいる事。
きっと、そう言う事なんだろう。
後は───
ーお兄さんは喜んでくれたけど、問題はお父さん─ゼンさんだよねー
ゼンさんは、ずっと“ユイ”を探していて…きっと、今でも自分の妻として好きなままだった筈。
それなのに、自分とは違う男性との間にできた私の事を……
「拒絶されても…おかしくないよね?」
「ん?どうした?ハル。」
思わず口に出した時、グレン様達と話し込んでいたディが私の方へと戻って来ていた。
「いえ、何でもないです。」
ー兎に角、また改めて、お父さんに時間を作ってもらわないとねー
「大丈夫か?」
「んー…まぁ…色々と複雑?な感じはありますね。」
と、正直な気持ちを口にすると、ディはそのまま私の横に腰を下ろした。
「気持ちに関しては、ゆっくり自分の中で向き合って整理をしていくしかないが、話しを聞く位はできるからな?その相手が俺なら嬉しいが……俺には話せない事があったら、ミヤ様をはじめハルにはハルを大切に思ってくれている人が沢山居るから、我慢せずに周りを頼れば良い。」
「ディ…ありがとうございます。」
そうだ。ディの言う通り、還れなかったあの時とは違って、私には私を思ってくれている人が居るんだ。
「あの…ディ…今日は……」
「分かってる。あらかた話も終わったから、今から行ってくると良い。その代わり、明日からは俺を優先してもらうからな?」
「ゔっ──お手柔らかに───」
「─する訳ないだろう?」
ーですよね!?分かってた!知ってました!ー
「えーっと…兎に角…行ってきます。」
「行ってらっしゃい。─くくっ…」
と、笑いながら手を振るディをじとりと一瞥してから、私はお父さんの所へ向かった。
「お父さん!あの──」
「ハル、丁度良かった。今から少し…時間はあるか?」
「え?時間?はい!あります!時間、すごくあります!」
私がお父さんに言おうとした事を、先にお父さんに訊かれて慌てて答える。
「グレン様、ここで失礼しても良いですか?」
「あぁ、大丈夫だ。もう必要な話は終わったからな。父娘でゆっくり話して来い。」
「ありがとうございます。」
グレン様はニカッと笑った後、お父さんと私以外の人達に声を掛けて、このサロンから出て行った。
「記憶が戻ったと思ったら、こんな展開になったが…ハルは大丈夫か?」
「私は大丈夫です。」
皆が出て行った後、お父さんがお茶を淹れ直してくれて、今は3人掛けのソファーに横並びで座っている。
「まさか、ユイが…ハルの世界で生きていたとはな。でも…そのお陰で、ユイは死なずにすんだのかもしれないな。大怪我をした状態で川に流されていたら…きっと…。」
それから一度、お父さんはゆっくり瞬きをする。
「俺が、ユイを幸せにしたかった。」
「……」
「でも、俺が─では無くても、ユイは幸せだったんだろう?記憶を失って、異世界に飛ばされて…でも、そこで親となる人に助けてもらって……夫ができて…ハルが生まれて。ユイが幸せだったなら……本当に良かったなと…。」
「おと──ゼンさんは…本当に母を…ユイさんの事を…好きで大切だったんですね。」
「あぁ──今でも愛してる。もう二度と会う事はないが…ロンと……ハルを残してくれた。俺にはそれで…十分だ。」
「…私の事…嫌じゃ…ない?私は……」
ゼンさんは少し驚いたように目を見開いてから、私の両手を握り締めてきた。
「嫌な訳ないだろう?ハルの母親がユイであってもなくても、俺はハルの事を本当の娘のように思っている。」
「これからも…“お父さん”と…呼んでも良い?」
「勿論だ。これからも、ずっと…ハルは俺の娘だからな。」
「はい!ありがとうございます!お父さん!」
私は、そのままギュウッ─とお父さんに抱きつくと、お父さんは私の背中をポンポンと優しく叩いた。
*****
次々に──本当に色々な事が起こって疲れていたのだろう。
ハルが、俺に抱きついたまま寝てしまった。
『…私の事…嫌じゃ…ない?私は……』
ー俺がハルを嫌う?──有り得ないー
『これからも…“お父さん”と…呼んでも良い?』
ー俺以外に“父”の座を渡す気などさらさら無いー
もともと義理とは言え、本当の娘のように大切にしてきた。それが…ユイの子供だと知れば……愛おしさが増しただけだった。
「ユイ…もう二度と会えないのは…残念だし辛いけど…ロンとハルを残してくれて…ありがとう。俺は…幸せだ。」
少しだけハルの寝顔を眺めた後、本当に…本当に!癪だが─寝ているハルを抱き上げて、エディオルの居るであろう部屋へと運んで行った。
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